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BL注意!バレンタインデーのお話です。読んで頂けたら幸いです。
嫌な行事だ。窓に写る浮かれた女子たちを見ながら佐藤幸太は思うのだった。好きな人にチョコレートを贈ったり、告白したり…。そう、バレンタインデーだ。別に自分が貰えないから嫌な行事と言っているわけではない。
「ねー、井上君てどんな女の子がタイプなの?」
「チョコレート食べれる?好きな食べ物は?」
「映画誘いたいんだけど、何か見たいのあるかな?」
友人の井上について女子の質問攻めにあうのが嫌なのだ。本人に聞けと突き返すが、本人に聞けないから普段一緒にいるあんたに聞いているのだと返され、きりがない会話を何人の女子としたか分からない。
井上誠とは知り合って一年以上経つ。学校では毎日顔を会わせる仲だが、よくよく考えると自分はさほど井上のことを知らない気がする。
普段話すのはたわいないことばかりで、互いの好きなタイプや恋愛についての話はしない。井上が話したがらないように思うからだ。
前に一度だけ聞いたことがある。
〝ずっと好きな人がいる〟
そう言った彼の儚げに遠くを見つめる視線、俺にはそれがどんな意味を表すのか分からなかったが、これ以上聞いてはいけないような気がして、以来そういう話はしなくなった。
バレンタインデーまでの数日。その間あと何人の女子と井上の会話をしなければならないのか。
モテる男の友人は辛い。そう思いながら家への道を歩いた。
読んで頂きありがとうございました。
続きます。