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姫、登場

 邪魔な魔物がいる部屋や通路は、壁だろうと天井だろうと走って素通りする。


 時折、いくつかの階層の最後の部屋に配置されている、BOSSモンスターのフィールドに捕まってしまったときは、仕方なく相手をする。


 俺の武器は短剣だ。


 まあ形状的には片刃の短剣なので、小刀(小太刀ではない)と言えるものだが、そんじょそこらのものではない。


 今、正に7階に現れたBOSSのオークランサーの首を、懐から取り出した小刀のクリティカルの一撃で刎ね飛ばした。


 この小刀、東の海底洞窟に眠る竜の巣から拝借してきたもので、魔剣である。


 魔剣であるというだけで、ゴーストやミスリルにも効果があり、そしてなんといっても100%クリティカル(防御力を無視できる)。


 ただ残念ながら小刀であるので、普通の人が使えばその攻撃力はオークですら1撃で倒せない代物。


 但し身体強化を極限までできる俺が使えば、正に一撃必殺の代物と変わる。


 「我が小刀に切れぬものなし」と言いたいところだが、残念ながら刃の長さが短すぎるので、巨大な敵にはあまり効果が無い。


 今のオークランサーのように人型で、小刀でも切り落とせる首でもあれば別だが……。


 何度も言ったようにゲームではないのだからHPゲージなんてない。


 攻撃力が高ければいいってものではないのだ。


 斬ったところだけが切れる。


 防御力たる硬い皮や鱗や甲羅があっても、攻撃力が高ければ貫通する。


 唯それだけだ。



 そうこうしている間にも俺は50階層を超えていた。


 先程から、チラチラと放置されたモンスターの死体が見られるようになってきた。


 上の階は時間が経ちすぎているのか、他のモンスターに食われて既に死体も残っていなかった。


 ああ、ゲームじゃないとは言ったが、一つだけ迷宮におけるモンスターのポップはゲームに近いかもしれない。


 モンスターの死体は腐って骨になるか、他のモンスターに食われるまで何時までも残るが、生み出される方法はフィールドと違い、闇から生まれる。


 ちなみにフィールドモンスターは単純に生殖行為で数を増やす。


 そこは生物と変わらない。 一部アンデット等を除いてだが・・。


 生まれてしまった生物の生態自体は、フィールドとほぼ変わらないのだが、迷宮の中で自らの階層からは出られないという制限を受けているようだ。


 モンスターを生み出す闇とはいったいなんなのか?残念ながらこればっかりは解らない。


 様々な研究家が答えを探しても、未だに解明されていない謎だ。


 ただ、迷宮から出てこられないモンスターであるということで、それ程に関心や興味を持って国が研究に乗り出すことは無かった。



70階層

 俺はここまでオークランサー以外のBOSSと出会っていなかった。


 恐らく、姫が倒して他のモンスターに食われるか、死体を住処に引っ張っていかれたか、次のBOSSが生み出される前に俺が通ってきたのだろう。


 しかしここは違った。途轍もなく高い天井、連立する大理石の柱(一部崩れてしまっているが)。


 神殿のような部屋に、BOSSモンスターと思われる死体があった。


 「アタランテ」と呼ばれる8mはあろう巨大な蜘蛛の体に、人の上半身をくっつけたような化け物の死体だ。


 そしてその死体には、無数の小さな(といっても1mはある)蜘蛛が覆い尽くすように貪り食っていた。


「近いな。ここまで1時間というところか」


 障害物の無い平原と違い、最低限壁にぶつからないよう抑えたスピードで走って来たにしては速い方だろう。


 途中姫が倒してくれていたので、BOSSモンスターに足を引っ張られなかった事もあるのだろうが。



 柱から柱を飛び移りながら、その部屋もスルーする。


 奥にある通路に飛び込むと、そこは床の無い40m四方はある部屋だった。


 部屋と言うより巨大な縦穴というべきか。


「なっ!?」『落ちる!?』


 勢いを付けすぎていて淵で止まれなかった俺は、広大な暗闇の中に落ちていく。


 所々壁から、足場のように4m四方ぐらいのでっぱりがあり、本来はそれをつたって下に降りるのだろう。


『届かない!?』


 勢いよく部屋の真ん中辺りに飛び込んでしまった俺は、どのでっぱりにも触れられない位置にいる。


 え?空中を蹴って移動しろ?なるほど……できるか~~!?


 まずい、どれほど落ちるか解らないうえ、下が平地とも限らない。


 俺の脳裏に一瞬、ビッグボアの串刺しになった姿が思い出されていた。


 身体強化は筋力や反射神経を上げたりはできるが、皮膚の硬さまでは変えられない。


 この速度で落下して、鋭利な刃物にでも突っ込んだら……血の気が引いて青ざめる。


「アンブロ!」


 その時、誰かが俺の名前を読んでロープのようなものが飛んでくる。


 俺は咄嗟にそれにしがみ付き、それを一瞬手繰り寄せる反動を利用して、なんとか壁際の4m四方の足場に着地することが出来た。


「フウウウウ~~~~~。今のはヤバかった。マジ死ぬかと思った。あ~~~寿命が2年は縮んだな」


 冷や汗をかきながら、荷物と共に景気よく大の字に倒れこんだ。


「えらく少なく縮んだんだな。若いのに、お前の寿命はそんなに短いのか?」


 上から俺の頭の辺りに誰かが飛び降りてくる。


 それは殆ど裸に近い格好をした姫だった。


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