表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/110

頭が痛い

「いい暇つぶしだったな~」


「まあね~。でもお酒買いに来ただけだったんでしょ?」


 ちなみにアリスは、褒めて欲しいときだけネコ語?、普段は普通の話し方をする。


「丁度、空の上からバルナーの目で見てたら、あの村の森のはずれにビッグボアの姿が見えたんだよ。で、今回のことを思いついたんだ。風向きも良かったし、何しろただで酒が手に入ったろ」


 そう言って外装の下から徳利を取り出す。


 こっそりと頂いてきていたのだ。


「あら何時もながらセコイわね~、後で頂戴ね」


「褒めてる?」


「ええ、褒めてますとも。この国の3大貴族のお坊ちゃんが、酒代を渋ってこんな作戦考え付くなんてね」


 今、俺達は王都に向かって走っている。


 鷹のバルナーとは、あの村で別れた、後は自由に遊んでから帰ってくるだろう。


 普通なら馬車で1週間近くかかる距離だが、魔力を体に循環させ、身体能力を強化してる俺が走れば1時間とかからない。


 これも身体強化に施す魔力が半端なく桁違いだからなせる業だ。


 単純に筋力に魔力を10振るとしよう、そうすれば1kg程普段より重いものが持てる。


 ならば100であれば10kg。宮廷魔術師で、元々30kgを持てる者ならば、80kgの物を軽々と持てる。


 但し持続するのに1秒当たり1魔力を要するので、長い間持ってることはできないだろうが。


 但し俺は違う。


 魔力の桁が違うのだから、通常人の100倍の重量を何日でも持っていられる。

 


 さて、この世界の魔法だが、基本的に四大元素を基にした魔法が発展しているだけだ。


 残念ながら、俺が想像していたような時間や空間に作用するようなものはない。


 まだ発見されていないだけなのか、あまりにも危険なために封印されているのか、俺が読みふけった魔法学園や王宮の図書館には無かった。


「転移や、せめて瞬間移動でもあれば楽なんだが」


「あるわよ?」


 ふとこぼした俺のセリフに、アリスが反応する。


 俺は咄嗟に制動をかける。


 足元の地面がえぐれて、凄まじい土煙を上げながら止まる。


「あ、危ないじゃないの!止まるときは言ってよね!」


 俺の頭から落ちそうになりながらアリスが文句を言うが、俺はそんなことは聞いてなかった。


「なにっ!?あるのかよっ!?なんで今まで言わなかったんだっ!」


 顔の前で落ちそうになっていたアリスの首の後ろを掴んで、目の前にぶら下げながら俺は怒鳴りつける。


 アリスは平然とした口調で、


「聞かなかったから?それに、言っても意味ないでしょ?悪魔や天使の魔法なんだから」


 俺はそれを聞いて肩を落とす。


「ああ……、それは確かに。会ったこと無いしな」


 でも……、在るんだ……。

 

 それならそれで、いろいろ考えうる俺の人生の娯楽方法も変わってくる。


 ブツブツと考え事に熱中し始めてしまう。


 平原の真ん中で……青空は高く、澄み渡っている。

 日差しはそれほど強くは無い。




「ん?あ、いかん。また例の病気だ」


 俺の頭の上でのんびり欠伸をしていたアリスが口を挟む。


「(あなたの長考は)何時ものことでしょ?」


 心外な、という顔で俺は否定する。


「俺じゃない。姫さんだよ」


「あら、困ったものね~」


 俺の頭の中には、常に使い魔から各地の情報が入ってくる。


 意識していなければ見えないが、常に気をつけている情報どころがいくつかある。


 俺の頭の中に入ってくる使い魔からの状態を解りやすく説明すると、巨大なモニターが全方向に無数に並び、それを真ん中で監視している俺がいる、という感じか。


 常に全てのモニターに意識を集中しているわけではないが、特に目を光らせているモニターがある。


 その一つが姫。


 この国の第1王女にして、アーネット・リード(17歳)だ。


 漆黒の長い髪を上で纏め上げた、紫色の瞳の美女。


 但し中身は姫というには程遠い。


 どちらかといえば傲慢な暴君にして狂戦士というべきか。


 彼女は城で淑女の嗜みを強要され続けると、ストレスから切れる。


 城の中で暴れてくれるならありがたいが(城の騎士達は拒否するだろうが)、この国において1、2を争う剣士でもある彼女は、切れると秘密裏に王家代々の隠し通路を通って城を抜け出してしまう。


 さらに最悪なことに、それで街に買い物でもして、憂さ晴らしでもしてくれればいいのだが、王家代々の隠し通路のいくつかは、王都にある迷宮に通じているものがある。


 そう、彼女は単身で潜るのだ。


「前回俺が迎えにいった時は、68階BOSSのキングゴーレムと3日死闘を繰り広げてくれたよな」


 もの凄く深いため息が漏れる。


 当然だろう、一流の冒険者と呼ばれる者達が、PTで挑んで大体50階層がやっとという王都にある強力な迷宮に、単身で68階層まで潜ってくれるのだ。


 着の身着のままで、鎧も付けずに愛刀「夜桜」だけ持ってだ。


「お疲れさま~w」


 アリスは他人事のように言う。


「な!?俺一人でかよ!?」


「当たり前でしょ。毎度毎度、あんなジャジャ馬の為に私がついていくなんて嫌よ」

 にべも無く断られる。


「俺だって嫌だよ。迷宮の魔物より、姫の説得が……」



 そう、前に迎えにいった時は、「このBOSSを倒すまで待って」って言われて……3日待った。


 もう、勘弁してください……。


 通常攻撃が殆ど通じないミスリルのキングゴーレム相手に、魔法を使わず剣だけで憂さ晴らしし続けるの。


 待つ方の身が持ちません。


 彼女がBOSSと戦っている間にも、その対戦フィールド外で待つ俺には、68階層のポップモンスターが襲ってきてるんです。


 彼女を待つ間に数百体以上のモンスターを倒さなければ、そこで待つこともできない。


「帰っといてくれていいわよ?」


 と、BOSSと戦いながら笑っていいますが、あなたきっと俺が帰ったら即効そいつ倒して更に奥に行く気でしょう。


 待ってるって言うと、あからさまに「チッ」って舌打ちするんだから。


 いかん、考えてると泣けてきた。滅入ってきたぞ。


 もう帰るのやめようかな……。


 人の心を読んでか、アリスが言う。


「そんなことすれば、今度は姫様じゃなく、あなたの捜索願いが王国中に広まるわよ?」

 ええ、解ってます。


 迎えに行って、あまつさえ説得できるの俺だけですもんね。


 溜め息をつきながら、俺は再び王都に向かって走りはじめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ