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はじまり

 誰が言ったのか「戦いは始まってみなければ解らない」と。


 俺はそうは思わない。戦いは始まったときにはもう決しているのだ。


 「イレギュラー?」「運?」漫画じゃあるましそんなものが起こるものなのか?


 負けた時の言い訳ってやつか?


 俺に言わせればイレギュラーや運等があるならば、それすらも想定内にしてこその作戦でなければ、それはもう無策である。


 そんなことも考えずに戦いを強いるのであれば、それこそ正しく「楽園にでも住んでるのか?」だ。


 夢を見ているかのような出来事等そうそうに起こってたまるものか。


 起こらないから現実、起こらないから戦いは始まる前に雌雄を決してしまうものなのだ。


 戦いにおいて数が全てとは言わない。


 俺に言わせてもらえば「情報がすべて」なのだ。


 現代社会を見てみろ。情報を制するものは世界を制する。


 まさしく人間社会において、情報を制すれば世界をも統べれるのだ。


 さて、かなりの偏ったマイナス思考の俺だが、先程言ったことは現代社会のようなコンピューターやメディアに支配されている時代のこと。


 俺が今いるのは……。




「お~い、2番にビッグボアがいったぞ~」


 今、俺は少し小高い丘の上にいる。


 頭の上にクロネコを乗せ、木の枝を指揮棒のように降りつつ。


 森の近くの崖地となった場所で、下方にいる村の若い者に指示を出している。



 端から見ればどう見ても8歳の可愛らしい……、コホン、もとい。


 かっこいい少年が、自分の倍はある歳の者たちに命令しているという、おかしな状況と見えるだろう。


 2番と呼ばれた若者3人は、手に持った盾を突進してくるビッグボアに向けてかまえる。


 3mはあろう巨体に大きなキバを口元に生やしたビッグボアを見て、3人はかなり怯えている。


 それまで柵にくくりつけられた槍(正確には杭だが)を持った集団に手をやいて、崖地で行き場を失っていたビッグボアが「組しやすし」と見たのか、ここぞとばかりに槍のない盾組みに突進をかける。


 だが、その巨体は盾に届くことなく、姿を消した。


 盾組み2番隊の直前に隠されていた、5m縦穴にあっけなく落ちてたのだ。


 ビッグボアの断末魔の悲鳴が響き渡る。


 程なくして鳴き声がやみ、恐る恐る盾組みの若者達が穴を覗いてこちらを振り向いて声を上げる。


「やったよー、アンブロ!」


 一斉に皆から歓声が上がる。


「よ~し!今日はシシ祭りだー!!」



 今回、この狩りに参加した若者は12人。


 厚い皮に覆われたビッグボアは初級の冒険者5人がかりでも、手を焼くモンスターだ。


 分厚い脂肪や皮は剣を通しにくく、その巨体から繰り出す突進力もかなりのもの。


 それをまったく戦いのイロハもしらない村の若者12人で、武器らしい武器も持たずにしとめたのだ。


 ビッグボアに近づくどころか虫も殺せないものたちで構成された、2番隊盾組みメンバーを入れてだ。


 適材適所というものがある。


 厳つい若者が盾を持って待ち構えていても、その殺気を感じたら野生の動物は警戒する。


 それがどうだろう。


 睨みつけただけで震え上がる小動物のような若者が盾を持って、今にも逃げ出しそうに震えているのを見たら。


 それ以外の周りには、槍(杭)をもった血気盛んな若者達。


 当然、弱点のような盾を持っているもの達に突進することに躊躇うはずもなく。


 勇み足で、罠があるとも知らずにあっけなく陥る。


 野生の動物ですらそうなのだから、これが人なら言わずもがな、だ。


 落とし穴の底は杭だらけで、串刺しとなっているビッグボアを、予め杭の隙間に垂らしていたロープの網を皆でひっぱり、持ち上げる。


 リヤカーに乗せたら村に凱旋だ。


 ここは村に近いが、「魔物の森」と呼ばれる森の近くで、普段ならこの血のにおいをかいで、他のモンスターが森から這い出してきたりするが、今のところは大丈夫だ。


 ピイイと上空で鷹が鳴いた。


「よし!急いでてっしゅう~~~!」


 若者達をせかして村にむかう。


 俺はリヤカーの上、ビッグボアの頭の上に乗っている。


 程なくして風の向きが変わる。


 森からかなり離れた辺りで振り返ると、先程のビッグボアを倒したあたりにいくつかの影がみえていた。


 血の匂いをかいで、狼達が素早く駆け付けて来たのだろう。


 風の向きが変わる知らせを出してくれた鷹が、俺の肩に舞い降りてくる。


「よくやった、バルナー」

 鷹は主人にほめられて高く嘶いた。


『私のことは忘れてニャイか?』

 頭の上のクロネコが念話でしゃべりかけてくる。


「忘れてないよ、アリス。お前が森の端にいたビッグボアをこっちに誘導してくれなかったら、そもそも作戦が成り立たなかったからな」


 アリスの喉をアンブロが指で撫でる。


 ゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らしていた。




 俺はアンブロシウス・マキシス(8歳)。転生者(「回帰者リターナー」)だ。


 といってもこの世界の、ではなく、もともとは現代日本で社会人(当時28歳)を営んでいた。


 何の因果か病気で死んだ俺はこっちの世界に転生したわけだが、そこは「剣と魔法の世界」。


 ファンタジーは嫌いじゃないが、SFできればロボットファンタジーの未来とかの異世界に転生したかったな。


 贅沢な話である。


 だが、ゲームは無い、TVもない、パソコンもない、漫画もない……。


 魔法があったからいいようなものの、なかったら俺は死んでいたかもしれない。


 娯楽ジャンキー。


 現代社会人の病気の一種に当然ながら俺もかかっていた。


 だいたい中世ヨーロッパぐらいの時代って、何?それウマイの?剣の腕を鍛えて英雄に?そんなことできるくらいなら、元の世界で赤胴スズノスケよろしく日本一の剣士でも目指してたよ。


 努力なんて大嫌い。おもしろいこと大好き。


 まさしく現代病……いやこの世界からしたら未来病?だった。


 まあ神の悪戯かはたまた悪魔の罠か、俺は通常の人とは桁違いの魔力を持って生まれた。


 そして俺が目をつけたもの、魔法の中でも、炎の魔法?風の魔法?水の魔法?回復?、いやいや、使い魔でしょう。


 てなわけで俺が目をつけたのは、ファミリアー(使い魔)の魔法だった。


 主人と使い魔は五感を共有し、一部主人の魔法まで使えるその生物は、ある意味自分の分身。


 五感を共有する、とはいってもそれは一方的に術者から共有するだけで、使い魔が術者の五感を左右することはないし、意識もできない。


 感覚的には幽体離脱して、使い魔の肉体に一方的に憑依しているような感覚だ。


 ファミリアーを使うには自分の魔力を与えなければならない。


 与えた魔力はその使い魔が死ぬか、解除するか、あるいは誰かに解除されるまで自分の魔力は減ったままだ。


 だから、普通魔術師は使役できる使い魔は2匹が限度である。


 それ以上魔力を付与すると、自分自身が魔法を使えなくなる。


 でも、俺の魔力は桁違いだった。


 そのおかげで、ええ、それはそれはもう使い魔を作りましたとも。


 「作る」といってもホムンクルスというわけではなく。


 実際に手に入れたり、捕獲した動物やモンスターを使う。


 友好かどうかは問題ではなく、使い魔にしたいものを捕らえ、そのものが持つ魔力の10倍の魔力を魔法と共に付与すれば、たとえ敵対した生物であろうと使い魔にできる。


 まあ、ある意味呪い(カース)に近いのかも知れない。


 主人を目の前にしたら絶対服従で、逆らうことができないからだ。


 ただし、直接の生死を伴う命令(自分で自分を刺し殺せ等)はできない。


 まあ残念なのが、その相手はある程度の知能がなければならず、昆虫・無生物・ゾンビ等には効果がない(本当に残念)。


 他に知能が高すぎるのもダメで、竜、悪魔、魔人、天使等には彼らの魔力が高すぎて、そもそも人の魔力でその10倍は払えない(ただし、俺は出会ったことがない&捕獲なんてしたことないから解らない)。


 じゃあこれを悪用すれば人を操れるんじゃないかって?


 残念ながら、10倍という魔力はそんなに簡単なものではない。


 普通人の魔力を1とすれば、魔法使いの魔力といっても5~6がせいぜい。


 もっと詳しく言えば、生まれてすぐの子供の魔力30、成人男性で80、魔法使いで300、宮廷魔術師でもいいところ500が限界だ。


 どれだけムチャか解ってもらえるだろうか。


 狼などの動物で丁度人間の赤子と同じ魔力30くらいだから、普通の魔法使いが使い魔を作るとしたら、カラスやネコの魔力10くらいか、フクロウの魔力8くらいが限界だ。


 さらに、人にかけても教会などで簡単に解除されてしまう。


 だから魔法使いがどんなに悪いことをしようとしても、「目の前で命令」はできる状態でないと、当然解除に行かれてしまう。


 だから、人にかけれても命令を効かせ続けようとすれば、誘拐とさして変わらない。


 軟禁状態でもないと効果が持続できないからだ。


 よって、基本的には友好的な生物を使い魔とし、お願いや命令で動く訓練をしたものを使役することになる。


 さて長々と語ったが、結局のところ俺は運がよかった。


 強大な魔力、そして忘れてはならないのが、俺の頭の上にいる尻尾が二つに分かれたクロネコ、アリスが俺の家に住んでいたことだろう。


 そう、このアリスは元の世界で言うところの妖怪。


 こっちでいうところの精霊系のモンスターだった。


 俺の言うことを理解し、そして0歳で俺と出会ってこの8年間、何時も一緒にいるパートナー。


 転生者でしゃべる0歳児としゃべるネコ。


「人に姿は見せられぬ」2人は出会い、意気投合した。


 アリスのおかげで俺のこの世界での娯楽は満たされた。


 8年間をかけて……。


 何をしていたのかというと、追々話すことになるだろう。


 それは兎も角、村に戻った俺達は村の広場の噴水で、大人達を前に解体ショーをしゃれこみ。


 ビッグボアを仕留めたと言う事で、大いに驚かせたところで、村人の皆に料理を振舞う。


 それほど大きな村ではなく、田舎であるので、ここぞとばかりに祭りの様なものが始まる。


 あるものは音楽を奏で、あるものは踊りを踊り、酒や他の食べ物を持ち合い、兎に角娯楽に乏しい世界では、こんなことでも皆の心はハイテンション。


 そんな街の喧騒を肴に、今日の立役者であるはずの俺は、ひっそりと広場の隅のほうでキウイのような味の果実酒のマルトーをアリスと共にチビチビとやっている。


 流石に酒を飲むにはまだ早い歳だから、見つかると咎められる可能性もある。


 だけど「見た目は子供、頭脳(中身)は大人」な俺が酒も飲まずにいられるかって~の。



「しっかしこの悪がき共がな~。大人になったもんだ」


 宴の真ん中あたりで、両親達や村の人たちに囲まれた、今日の狩りの若者達を交えて盛り上がっている。


 俺の倍近くあるとはいってもまだ15~16の村の若造が、誰一人怪我もなく、ビッグボアを仕留めてきたのだ。


「いや、正直俺達だけならこんなことできなかったよ」


 若者は皆に語り始めた。


 事の発端は突然現れた一人の子供。


『お兄ちゃん達、村の皆を驚かせたくはないかい?』……




「アリス」


 宴の中心で村の若者のことではなく、自分のことが話題に上ってきたようだ。


「にゃ?」


 小さな皿で果実酒を舐めていたアリスがこちらを見る。


「行こうか」


 名残惜しそうに皿に残った果実酒を見つめながらも、アリスはすっと立ち上がり、俺の頭の上に乗ってくる。


 そして俺はその村から人知れず消えた。

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