愚者のように恋して
「んしょ…」
これが、陸…
同じ砂なのに、海底とは違う。
「なんだか、熱いな……」
焼けるような、焦げるような。
否定されるような熱さ。
「あれぇ、人魚じゃんか」
前から声が聞こえた。
下ばかり見ていたから…
明るい紅い髪。
闇のような黒い瞳が僕を見つめている。
「あ…」
「どうしたの?代償を払ってまで、陸に上がってくるなんて」
這いつくばっている僕の前にしゃがみ込む。
僕よりも年下なのだろうけど、凛とした美しさがあって。
なんだか、こんな浜辺で、裸で、陸に上がった僕がすごく滑稽に見えて。
嫌だ…
「何?昔話みたいに王子様に恋でもした?」
脇の下に手をいれで、僕を抱き起こす。
けらけらと笑うと、口元から鋭い牙が見え隠れして怖い。
けど、それさえも綺麗で……
「僕、“運命の人”を…捜して」
「ふうん。運命ねぇ」
どことなく、困惑したような。
良く分らないけど、笑ってる。
「手伝ったげようか?」
「っぇ…いいの?」
「うん。特にすることも無いしね」
軽々と僕を抱えあげて、歩き出す。
力、強いんだな。
人間…じゃないよね。
何の種族だろう?
…て、僕も聞いただけでしかないから分からないんだけど…
「ねえ…名前、は?」
「ん?あたしはアストル」
「僕は、フォンテーヌ」
よろしくね。
僕は始めて笑えた気がした。
タイトル:「fisika」様より『恋のタロット』