男同士
「おまえさ、老けたな」
唐突に言われて、拓海は缶コーヒーを吹きかけそうになった。
河川敷。
夜。
自販機の前。
二人とも三十を過ぎている。
「は? どの口が言うてんねん」
「この口や」
浩平は自分の口を指差して、くだらない顔をする。
笑うと目尻に皺が増えた。
しばらく無言で川を見た。
夜の水は、何も言わない。
「辞めたんやろ」
「……うん」
拓海は川を見たまま言う。
浩平も見たままだ。
「言えや」
「何を」
「しんどいって」
拓海は笑う。
「言わんでも分かるやろ」
浩平は、足元の石を川に蹴った。
ぽちゃん、と小さな音。
「分かるけど、言えや。俺にくらい」
沈黙。
遠くで電車が通る。
「……怖かった」
やっと出た言葉は、情けないほど小さい。
浩平は頷いた。
慰めない。抱きしめない。説教もしない。
「そっか」
それだけ。
「で、次どうすんの」
「まだ決めてない」
「ほな、とりあえずメシ食い行くぞ。腹減ってたらろくなこと考えん」
拓海は笑った。
その笑いは、さっきよりちゃんとしていた。
帰り道、浩平がぽつりと言う。
「おまえが落ちたら、俺が拾う。俺が落ちたら、おまえが拾え。それでええやろ」
拓海は振り返らない。
「重いぞ、俺」
「筋トレしとくわ」
背中越しに笑い声が重なる。
助ける、とも
支える、とも
大事だ、とも言わない。
でも、いなくなったら困るのは知っている。
それで十分だった。




