概念
今世では物理、そして科学の分野に突如として頭角を表した魔法を利用した魔法工学があった。
拳や剣、火薬などを使った戦いが主だったこの時代。
だが、魔法士が1人でもパーティ内にいると戦力差は一気にひっくり返った。
天才曰く、魔法とはイメージ、例え火花一つでも解釈を広げさえすれば、扱い方は無次元の広がり方をする。
傭兵よろしく、みんなと手を取り合って連携をする必要があったが、魔法士だけは例外だった。
その希少さと存在感、貢献度が明白であり、
独りよがりで一般的な思考とかけ離れていればいるほど、多彩なイメージを具現化できる為重宝されていたのだ。
要するに捻くれている魔法士の方が強いのである。
だが、誰でもなれるわけでもなかった。
今世では、足の小指のない症例やさまざまな進化に近いことが起きている。
魔法帯もその一つ、初めて確認されてから徐々にその数は増えているという。
魔法は魔法帯を通して発動する為、魔法士になるには魔法帯を有してこの世に生まれ落ちる必要があった。
そんな中、真面目な性格では一般的な解釈を外れることができず、既存の魔法にはあらゆる対抗策が徐々に生まれてきている。
だからこそひねくれものであるほど対抗策の抜け穴を突くものが多かった。
「対抗策の対抗策ね、、。」
アジィサもその1人、暴力的では無かったが、屁理屈ばかりで問題児とされていたが実力がネガティブな噂を上回っていた。
そして仕事の一環として関わった魔法工学に基づくとされた仕事に関わったことで、研究所の爆発事故に遭遇。
その結果アジィサは魔法帯を失ってしまった。
今のアジィサに残ったのは、人生を通して鍛えあげた筋肉も武術もなく、齢19歳にしてただの屁理屈な餓鬼として世に放たれたのであった。
ーーーーーー
「だから言ったじゃろうて、アジィサ。
自分が信じたものを疑わず、他人の意見を取り入れようとはしない。そこがお前さんのネックだと。魔法士はそれが強さだったがな」
金髪よりも黄色味に近い頭髪を腰まで伸ばした少女は、杖でベットに寝転がるアジィサを突いていた。
「フリーリカぁ、弟子にその言い方はないだろ!もっとこう、『よく生きてた』くらいに慰めつつ泣いてもいいだろ、、」
気だるそうにアジィサは返す。
「バカが!そんなお前如きに流す涙なんぞないわ!必要なら水くらい目元に生み出すぞエーンエン」
即座に空間から水を生み出し泣き真似を見せるフリーリカにアジィサは投げやりに返す。
「そんな雑な魔法すら今の俺には羨ましいよ、、」
「なんじゃ、力を失えば減らず口もただの遠吠えじゃな」
「くそ!ギルドに密告してやるからな!」
「よいが、側からみれば、包帯で巻かれながらも幼女を虐める異端児だがな。」
「腹黒フリーリカめ」
今までのアジィサの評価と世間体を理解しているフリーリカの戦法に、それ以上食い下がらずアジィサは別の話題を持ち出す。
「病床は暇すぎたから魔法を発動できるか少し試してみたんだ。」
「ほぅ。」
多少の興味が混じったフリーリカの頷きには(続けろ)と描いてあった。
「拳銃でいえば、装填とトリガーを引くことまではできるんだけど、火薬がないからスカるような感じなんだ。
つまり、体感的には問題なくできるんだよな。
そんで、スカると激痛が走るから小1時間のたうち回ることになるんだが。」
「ほぉ、それは見ものじゃの」
見当違いの方向に興味を向けるフリーリカにちぎった包帯を投げるが、軽くかわされた。
「ならば、火薬みたく燃料となる魔法帯の代わりじゃな。しいていえば既に存在している現象の利用じゃろうな」
「あぁ、、、」
アジィサはぼんやりと頭を抱える様に俯いた。
ーーーーー
俯く顔をすぐさまあげたアジィサは今は任務中だったと邪念を振り払う。
そして、目の前にぶら下がる金持ち貴族の娘に視線を戻す。
「外はほんとに久々ね!それに、護衛も1人だけなんてちょー楽!」
整った容姿に、肩より少し伸びた白髪のきめ細かさが冒険職を生業にしていないことを指し示している。子綺麗なのだ。
そんな彼女の姿は青のオーバーオールに黒の革のブーツ。色違いのマ○オみたいな格好だが、あまりとやかく言わない方がいいのだろう。
防御力や動きやすさといった冒険家がまず考える様な思考は何一つ反映されていない格好だ。
脳内で採点している俺の目線は気にも止めずに少女は続ける。
「ねぇ、次はどこへいくの?モンスターとも戦ってみたいのだけれど」
「なら早くこの窪みから出て草原とかに行こう」
「私にも倒せるようなやつにしてよね!」
「あぁ、みんな大好きイノノシ君さ」
「早く行きたいわ」
そうー。早く行ければいいのだ。
依頼を受け森に入るや否や、まるで初めて水族館へきた3歳児の様なはしゃぎっぷりを発揮した貴族の少女は足元なんぞ確認する理由もなく、吸い込まれる様にモンスターの巣穴へとおにぎりころりんの童話のように転げ落ちて行ったのだ。
咄嗟に助けに入ったせいで2人もろとも落下、縦穴の空洞の壁に剣を突き刺しぶら下がっている最中なのだ。
周囲には足場となる様なでっぱりもなく、ゆるく湿っており、突き刺した剣はいつまで持ってくれるか分からずにいた。
幸い泥の中に岩も混在しているらしく、そこで剣が止まってくれている。
右手で剣を握るアジィサの逆手には首元の衣服を引っ張られ静かにぶら下がる少女の姿があった。
護衛対象のこの女は名はリリィというのだが、
呑気に会話を続けるリリィとは裏腹に、剣を握っている右腕が多くの時間は残されてないことを知らせてくる。
「地中に穴を掘る鳥類の巣だろうから底には巣のクッションがあるし,降りるのも手だよな」
リリィから肯定の言葉が返ってくることは無かったが、キョトンとしたアホづらで上目遣いに見つめてくるだけだった。
通常鳥類は木の上に巣を作り、天敵などから身を守るのが一般的なのだが、穴を掘る習性を考えるにその天敵という存在がいないのだろう。その事実がこの一帯での強者であることを暗示している。
『どうにかしないと、このままフライアウェィ、、、』
こんな状況でもふざけ出す脳内をすぐさま制止して現実を見ようとした刹那、衣服が引き裂かれる音が響いた。
「えッ!ねぇ、ちょっと!」
アジィサの右腕よりも先にリリィの衣服の方に限界が来たようだ。
オーバーオールの襟首からはさらに鈍い音が響く。
「このままだとちぎれるか。手を掴みなおしたいところだけど、そうするとこっちが持たないだろうな」
目線で壁に刺さった剣を確認しつつ続ける。
「このまま落下して一度立て直すか、一か八か腕を掴み直すってところだけど、、」
「そんなのッー。!」
選択する暇もなく、襟が千切れ始めたので咄嗟に手を放した。破れるよりはいいだろう。
リリィは落下を開始したが、剣を刺したまま体制を変えないのならば腕の負担も、剣の状態を気にする必要もない。
すぐさまアジィサは壁を蹴り、剣が壁から離すと先に落下を開始したリリィへと速度を合わせた。
くの字に体を曲げ未だ悲鳴を上げてるリリィのベルトを掴んで周囲へと目を向ける。
だが、残念なことに未だに底は見えない。
巣のクッションがあるにしろ生身の身体がなんの対策もなく落下の衝撃に耐えれるはずもないだろう。
そして、そんな悠長に考えている時間もない、焦りだけがただ募っていった。
ふとー。絶賛落下中の縦穴だが、クチバシで突き刺した様な人が入れそうなサイズの空間が存在していることに気づいた。
『ナイス、俺』
落下中であるため、もう一度壁を蹴る方法で軌道を変えることなどはできない。
多少の反動があるが、死ぬよりはマシだと、アジィサは小さく息を吸うー。
「リバーシ・ブラスト」
左手でリリィを抱えているため、剣を手放し手のひらを穴の逆方向へ向けた。
すぐさま魔法陣が展開される。
基本的に魔法の展開先は相手側ー、つまり発動者には向かないのだがその魔法陣を逆転させることで魔法の放出先の方向を変えているのだ。
刹那。突風が俺とリリィ+手放した剣もろとも横穴へと押し出す。
受け身を取り安全に着地し、リリィを下ろしてやったが、制御を失った剣が未だにダウン状態のリリィの眼前へと突き刺さる。
「ッイヤー〜!」
ジタバタと暴れるリリィを宥め着地場所を分析する。
底の見えない縦長の穴に、くちばしで突いたような横穴。そして奥から漂ってくる異臭。
そこまで考えてから察する。
「うん、うんこスポットだ」
鳥類が飛ぶ際、体を軽くするためにすぐにフンを出すのは周知の事実だが、穴の中に巣を作るため汚さないようスペースが必要となる。
巣作りの際に壁をくちばしで突いたこの横穴に、飛び立つついでにうんこを飛ばしているのだ。
「わっこれ。最悪。」
小さく呟くリリィが、冒険の理想と現実を脳内で理解する様を眺めていると、
「これ、助かるの?」
「大丈夫、抜け道はあるさ」
「でも、、、」
言いたい内容は口にしなくともわかる。
目の前には異臭のする肥溜め。背後には底なしの鳥類の巣なのだから。
「そういえば、あなた名前は何て言うの?」
無茶な話題な切り替えだなと苦笑しつつ術がないことには同意し、答える。
「とてつもなく今更だな笑」
「だって今までの傭兵さんも毎回変わってたもの。」
聞くに外に出ること自体は初めてだが、場内で傭兵と何かしら関わる機会はあったようだ。
「毎回かわるのか?」
「うん。」
「まぁ、どこまで行っても傭兵だしな」
所詮雇用者側、傭兵側、どちらからでもNGを出せば容易に絡むことなんてなくなる間柄だ。
「俺の名前は、、アジィサだよ。呼びにくいからってアジィとかアサとか言われたりするけどな」
「アジィサ、、、確かに呼びにくいわね」
何度も意地汚そうに呼ぶリリィを小突く。
「なんでなのかな、、ほんとに駄目かと思ったけど、抱えられた時に安心したの」
「綱橋効果だろ、これからモンスターと戦うたびに安心する気か?」
「もぅ。でも、それもいいかもね」
戦地を共に過ごした者仲間は仲良くなりやすいと聞くがこのことかと噛み締めながら、ふと湧き上がった疑問を口にした。
「今までは名前を訪ねることもなかったのか?」
「そうね、あまり会話する機会がなかったのだけれど、聞いても覚えきれなくて」
かくいう俺も、仕事のたびに違う人間と絡んでいると記憶が薄くなるものだ。
それからは他愛もない会話をしながら打開策を考えていたのだが、肥溜めの奥が脈打っているのを確認したアジィサは手を突っ込むと、モグラのような生き物がそこにいた。
そしてその生き物の移動した道は緩く手で土を突くとほぐれるくらいには柔らかかったのだ。
「はーーー!疲れた!」
リリィも感想は同じだったようで泥まみれの体を見合い笑合うと2人はすぐさま帰路についた。
「今回の仕事は期限がなくて本当に良かったな」
「そうなの?」
「あぁ、外の世界を見せたい雇用主の優しかさかもな」
「、、、、そうかな」
意外にも暗い表情をするリリィをなだめつつ、それからは何事もなく出発地点へ。
少しばかり大きい、銀の装飾の柵で囲われ、紫の塗装で統一された屋敷へと入った。
「お祖父様、今帰りつきました」
奥から屋敷の主人ー。ソライドニンがやってきた。
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「久ぶりじゃないか、少し長引いたようだな」
見た目よりも多少、老化の進んだしゃがれた声から長引いた理由を求める意図を汲み取ったアジィサは説明を垂れた。
「報酬は半分でもかまわない、しくじったのはこっちだ」
「あたりまェだ」
視線を移すとゼラニウムの側に見知らぬ男が立っていた。
屋敷の色と同じローブを纏っている。
背中がかなり曲がっており杖を突き、細すぎるその目でアジィサを睨んでいた。
特徴的なその話し方には鼓膜を直接撫で愛撫されているかのような気持ち悪さがあった。
「期限はきめてなィがこんだけ汚されるのは困ゥるな」
杖の上から、伸び切った爪をリリィへと指していた。
リリィのことを雑に扱うな。という意味なのだろう。
「よい。ソライドニン。」
更に言葉を続けようとした男をゼラニウムが制止した。
それからアジィサは現状に至った経緯を説明していたのだが,穴へ落ち魔法を使ってなんとか脱出したことを話したタイミングで、またもやソライドニンが嘲笑うように小さく笑っていたが、ゼラニウムが視線だけで制止したいた。
その後リリィと別れを交わすと、リリィは多少寂しそうな顔をしていたが、アジィサは惜しむようにそのまま宿へと戻った。
「もう依頼は来ないだろうな」
今日一日起きたことを振り返りながら、締めくくりの惨状を思い返し小さく呟いた。
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「いつまで寝とる、アジ」
事故から数日、多少回復したアジィサだったが、かわらず魔法は発動できずにいた。
「そんな不貞腐れてばかりあっても何も変わらんがな、研究熱心なお前さんはどこにいったんじゃ」
「そんなこと言ったって、発動できないのには変わりないんだよ」
「本当に、本当にその一つの結論を信じておるのか?一つだけの結論で満足する木偶の坊じゃなかっただろうに」
魔法を自由に行使できた頃のアジィサは、火を放つ事象一つだけでも何パターンもの解析を加え、それを戦力としていった。
その傲慢さと頑固さ込みの生真面目さを見込まれフリーリカの仕事へ関わるようになったのだが、
「性格までも変わってしまったのかの」
そう言うフリーリカの言葉に言い返す事もできず、アジィサの中で消化できてない感情が胸の奥で膨れ上がろうとしていた。
「ちょっと出てくるよ」
逃げるように、吐口を探しに行くアジィサをフリーリカは止めることはなかった。
だが、フリーリカの視線は不安や心配以上に、信頼が滲み出ているようだった。




