1. 出会い
「時松さん、神宮さん、クランクアップです! お疲れ様でした!!」
現場に響き渡る声。それとともに、沸き起こる拍手。
私、神宮綾音と隣に立つ時松ユウは、笑顔でスタッフから花束を受け取った。
「わー! ありがとうございます、花束めっちゃきれー!」
「ほんとですね、神宮さんのもめっちゃ素敵」
貰った花束をしげしげと眺めて、感想を言うと時松が私のを眺めた。
内心驚くが、でしょー! と嬉しそうに見せる。過剰に引いたり、驚くのは良くない。
「うれしーな、時松くんもありがとね」
「え、俺すか? いやいや、こっちこそ綾音さんのお世話になっちゃって」
「そんな、何もしてないけどねー」
「めっちゃお世話になったっすよ!?」
何気ない会話も、今日で終わり。
彼と関わることは、今後の俳優人生でそうそう無いだろう。
ツキリ、と痛む胸を無視して、私はとびきりの笑顔を浮かべた。
「本当にありがとね。今度、機会があったら飲み行こ!」
「あ、良いですね! 僕、良いとこ知ってるんですよー」
「まじかー、楽しみだな」
二人で現場から下がり、楽屋のゾーンの前で分かれた。
「じゃあね、また機会あったら」
「ぜひ! ありがとうございました」
「こっちこそ! ありがとう!」
彼の去っていく後ろ姿を、しばし眺めてから私も踵を返した。
立場的には、私が先輩。
だけど、彼は私のことを「綾音さん」と呼ぶ。私は、時松くん、なのに。
最初から彼はそうだった。
「初めまして、時松ユウって言います。絢音さんって呼んで良いですか!? 僕、実は綾音さんの大ファンで!」
きらきらと何の邪気もなさそうな笑みを浮かべて、そう挨拶されたら、良いよと言うしかない。
でも、最後まで私は時松くんと呼んだ。彼は時折、微妙な顔を見せたけれど、すぐにいつもの顔に戻って楽しい話題を提供してくれた。
また今度、なんて永遠に来ない。




