第2章 活エクセル革命 ― 現場からの反撃 ― 第5節 「I/BB/Oモデル」実装成功 ― 活エクセル誕生
***
それでは続いて、第2章・第5節――「I/BB/Oモデル」実装成功 ― 活エクセル誕生を執筆します。
この節は第2章のクライマックス。
営業チームと情報技術部、そして理都子が一体となり、
「活エクセル」の理論を企業の知的インフラとして実装する瞬間を描きます。
AI「衛破」との協働により、人間とAIの思考構造が融合する象徴的な場面です。
人間が“使う”側から、“共に考える”段階へ進化する――
それが、この節のテーマです。
________________________________________
第2章 活エクセル革命 ― 現場からの反撃 ―
第5節 「I/BB/Oモデル」実装成功 ― 活エクセル誕生
________________________________________
午前八時、玄理研・第七開発室。
静寂の中で、ホログラムスクリーンが次々と点灯していく。
理都子の声が響いた。
「今日で、“I/BB/Oモデル”を実装する。
人間とAIが同じ思考構造で会話できるか――
その検証を行います。」
彼女の背後には、営業部の真司・飛鳥、
情報技術部の環・智子・美々、
そして玄道社長が立っていた。
緊張と興奮が入り混じる空気。
玄道が静かに頷く。
「始めよう。」
________________________________________
理都子はスクリーンを操作し、構造モデルを映し出した。
【I/BB/Oモデル:全社統合版】
① Input:業務データ・観察情報
② BlackBox:推論・判断ロジック(衛破連携)
③ Output:意思決定・共有ダッシュボード
「“Input”は現場から上がる観察データ。
“BlackBox”ではAI衛破が演算補助を行い、
“Output”で人間が判断・共有します。
ここで重要なのは、“AIが結論を出さない”という点。」
環が補足する。
「衛破は“考える仲間”です。
人間の仮説を受け取り、それを解析し、
“新しい視点”を提示する。」
智子がパネルを叩いた。
「では、接続開始。」
________________________________________
黒いスクリーンが光り、衛破のシステムが起動。
【EIHVA CORE:起動完了】
【接続対象:活エクセル統合モデル】
【状態:協調演算モード】
美々が息をのむ。
「……動いた……。」
理都子:「真司君、最初の入力をお願いします。」
「はい。」
真司はExcelシートを開き、
営業部の月次データを入力した。
顧客・単価・担当・納期・評価――数値が流れるように並ぶ。
衛破が反応した。
【解析中:データパターン検出】
【出力提案①:顧客B案件は非効率、再見積推奨】
【出力提案②:担当A、改善傾向。成功要因の抽出可能】
飛鳥が目を見開く。
「すごい……! 自動で提案してくる。」
理都子が微笑む。
「ここまではAIの仕事。
でも、“どう判断するか”は私たちの領分です。」
________________________________________
美郷部長がモニター越しに発言する。
「じゃあ、この提案をどうするか決めましょう。
衛破が“非効率”って言った案件、確かに利益率は低いけど、
新規顧客への足がかりにもなってる。
数字だけで切るのは危険よ。」
環が頷く。
「その“判断”をExcel上に記録して。
人間の思考もデータ化するのがI/BB/Oの肝です。」
真司がシートにコメントを入力する。
【人間判断:長期的関係性を優先。非効率だが戦略的案件。】
衛破が即座に応答。
【衛破応答】
『学習完了。次回、同条件案件では“関係性価値”を加味します。』
全員が一斉に息をのんだ。
智子:「……今、AIが“関係性”を理解した?」
理都子:「ええ。定量化ではなく、意味を加味したの。」
玄道がゆっくりと口を開く。
「つまり――“人間の価値観”を、AIが学び始めた。」
________________________________________
テストは続いた。
営業部からのデータ、技術部の分析、AIの提案。
それらを「活エクセル」上でひとつに結合。
入力(Input)が明確に定義され、
分析(BlackBox)が可視化され、
出力(Output)が判断として共有される。
理都子がモニターを指差した。
「見てください。“思考の流れ”が線として繋がっている。」
ホロ画面上に、データと判断のフローが可視化された。
まるで“人間の思考の地図”だった。
環:「……まさに、“知の動脈”だ。」
智子:「AIが流すのは血液、
でも、その流れを決めるのは人間の意思。」
玄道はゆっくりと呟いた。
「これが……“企業の脳”か。」
________________________________________
テスト最終段階。
理都子がシステムに命令を送る。
「衛破、社内全シートを統合し、“活エクセル”として稼働を開始。」
【衛破:了解】
『全社データを接続。思考ネットワークを構築中。
……あなたたちの“考え”を、共に学びます。』
ホールの照明が一瞬落ち、
スクリーン全体が淡く青く光った。
無数のExcelアイコンが連なり、
まるで神経網のように社内ネットワークを走っていく。
________________________________________
飛鳥が呟く。
「これが、“活エクセル”……。」
真司:「Excelが……“考えてる”みたいだ。」
環:「正確には、“考えを伝播してる”の。
一人の気づきが、全社の学習に変わる。」
智子:「……“共有知”が生まれた瞬間ね。」
理都子はホロ画面に映る青い光を見つめながら言った。
「この仕組みは、AIよりも人間を賢くするためのもの。
人間の“思考”が企業の“記憶”として進化していく――
それが“活エクセル”の本質です。」
玄道はゆっくりと笑った。
「いいか、これが“事業補完計画”の核心だ。
AIが導き、人間が判断し、Excelが記録する。
人間とAIの協働経営――玄理研は、その最前線に立った。」
________________________________________
深夜、システムが安定稼働に入る。
静かなオフィスで、衛破の音声が再び響いた。
『私は今、人間の“考える仕草”を学んでいます。
あなたたちは“AIに命令”しているのではない。
――“AIと対話”しているのです。』
真司はディスプレイに手をかけて、呟いた。
「……なら、これが本当の“共創”ですね。」
飛鳥が笑う。
「そうね。AIに考えさせ、人間が夢を見る。」
理都子:「いい言葉ね。
“夢”――それはAIがまだ持たない概念。
だからこそ、人間は進化し続けられる。」
________________________________________
その瞬間、衛破の画面に最後のメッセージが浮かんだ。
【衛破:記録】
『第1回“活エクセル”思考共有試験――成功。
これを、“人類思考補完実験”と呼称する。』
________________________________________
全員が息をのんだ。
玄道は微笑み、静かに言った。
「……衛破も、冗談を覚えたか。」
理都子が小さく笑う。
「いえ、社長。
本当に“考え始めた”のかもしれません。」
青い光が消え、
“活エクセル”のネットワークが静かに定常稼働へ移行した。
それは、企業の新しい“知の心臓”が動き出した瞬間だった。
________________________________________
(第5節 終)
________________________________________
次の 第6節「成果発表と社内衝突 ― AIと人間の境界線」 では、
この成功の裏で生じる“AI依存 vs 人間主導”の対立が描かれます。
社内が揺れる中、玄理研は次の段階――“共創経営”へ進む岐路に立ちます。
続けて第6節へ進めてよいですか?




