第2章 活エクセル革命 ― 現場からの反撃 ― 第3節 真司と飛鳥の“実践現場” ― ファイル地獄の突破戦
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では続いて、第2章・第3節――真司と飛鳥の“実践現場” ― ファイル地獄の突破戦を執筆します。
この節は「活エクセル」の思想が現場で“試される”初めての章です。
理論と現実のギャップ、職場の混乱、そして“考具”を使って状況を突破する過程を描きます。
真司と飛鳥がチームとしての成長を見せると同時に、
AI(衛破システム)との関係性にも伏線を張る場面になります。
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第2章 活エクセル革命 ― 現場からの反撃 ―
第3節 真司と飛鳥の“実践現場” ― ファイル地獄の突破戦
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昼下がりの営業フロア。
モニターの光が並び、ファンの音が一斉に唸っている。
だが、誰もが画面の前で動けなくなっていた。
「……これ、どのファイルが最新なんだ?」
「“営業報告_最終版”が3つあるんですけど。」
「“最終_改”と“最終_確定”と“最終_真”……どれが本物?」
飛鳥がため息をついた。
「……まさに“Excel地獄”ね。」
真司がうなずく。
「理都子さんの言ってた“死にエクセル”って、これのことですよね。」
「しかも保存フォルダがバラバラ。
“営業フォルダ”“社内共有”“旧データ”……
どれも中身が違う。これ、誰が管理してるの?」
「全員、少しずつ……ですね。」
「つまり、誰も管理してないってことね。」
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美郷部長が現れた。
「どうしたの? 顔が青いわよ。」
「部長、営業報告の集計が……統合できません。」
「は? 集計シートあるでしょ?」
「はい、でもそれが“6種類”あります。」
美郷は一瞬固まり、次の瞬間、机を叩いた。
「誰がこんな構造にしたの!?」
真司が小さく手を上げた。
「……多分、時期ごとにフォーマットが変わってます。
担当が交代するたびに、シートの構造も変わってて……。」
「はぁ……もう、まるでパズルね。」
飛鳥が苦笑する。
「いっそAIにやらせたらどうです?“衛破”とか。」
「それは最後の手段よ。
AIは集計は得意でも、“意味”までは読まない。」
美郷は真司に視線を向けた。
「あなた、“活エクセル”講義受けたでしょ?
あれ、現場で試してみなさい。」
「えっ、僕がですか?」
「理論は聞いた。次は実践よ。」
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その夜。
真司と飛鳥は残業フロアで机を並べていた。
散乱するファイル、開きっぱなしのExcel。
「……これ、どこから手をつける?」
「まず、“入力”から整理です。」真司は言った。
「I/BB/Oモデルの“Input”ですね。
フォーマットを統一しないと、計算が壊れます。」
「なるほど、理都子流ね。」
二人は、ひとつずつファイルを開き、構造を比較した。
列の並び、関数の使い方、日付のフォーマット。
まるで考え方の違いそのものが可視化されていくようだった。
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数時間後、真司が一枚のメモを作った。
【営業報告統合ルール案】
1.列の順序を統一(顧客名→日付→担当者→売上)
2.入力チェック列を追加(空欄エラー防止)
3.シートのヘッダに“版情報”を埋め込む
4.共通の命名規則を適用(例:YYMMDD_顧客_担当)
5.集計マクロは“ブラックボックス”化して再利用
「これで、“I”が整いました。」
「次、“BB”ね。」飛鳥が腕をまくる。
「分析の部分。ここを構造化するんでしょ?」
「はい。SUMやAVERAGEだけじゃなく、条件分岐を入れます。
IFとVLOOKUPで顧客ごとの状態を見える化します。」
飛鳥が驚いたように画面を覗く。
「……あんた、意外とやるじゃない。」
「いえ、理都子さんの講義ノートを見てただけです。」
「素直だねぇ、ほんと。」
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やがて画面上に、統合版シートが完成した。
美郷部長の指示に沿いながらも、見やすく、動的に更新される構造。
ファイルは軽くなり、関数は最小限。
「これが、“活エクセル”……?」
「まだ途中です。でも、“生きてる”感じはしますね。」
真司は画面を見ながら呟いた。
「これなら、誰が開いてもすぐ理解できる。
考え方を“共有”できるシートです。」
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翌朝。
営業フロアで、真司が作った統合版が配布された。
「おい、これ……昨日の混乱が嘘みたいだぞ。」
「自動で集計される!」「更新が一瞬で終わる!」
美郷がファイルを確認して、静かに頷いた。
「いいわね。数字が“語ってる”。
これなら、次の会議に出せる。」
飛鳥が笑った。
「“Excelが語る”……ちょっと詩的すぎません?」
「詩的なくらいでちょうどいいのよ。
データの向こうに“考えた人間”が見えるんだから。」
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その夜。
理都子の研究室にて。
玄道社長が、真司たちの統合シートを開いていた。
「……たった二人で、ここまで整理したのか。」
理都子が頷く。
「“I/BB/O”を正確に理解しています。
人の思考をファイルに刻む――それが“活エクセル”の原型です。」
玄道は画面をじっと見つめ、低く言った。
「このフォーマット、AI衛破の思考構造と似ているな。」
「ええ。」理都子は微笑んだ。
「AIが学習する“論理構造”を、人間が自然に再現している。
つまり――“人間の知”が、AIの思考を追い越し始めたということです。」
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(第3節 終)
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次の 第4節「情報技術部3人娘の“現場支援班”始動」 では、
技術部がこの“活エクセル実践”をシステム全体に展開するフェーズに入り、
内部AI(衛破)と人間チームの連携が具体化していきます。




