第2章 活エクセル革命 ― 現場からの反撃 ― 第2節 理都子の特別講義「Excelは考具である」
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では続いて、第2章・第2節――**理都子の特別講義「Excelは考具である」**を執筆します。
この節は「活エクセル革命」の思想的中心。
単なる操作解説ではなく、Excelを“思考を構造化するための道具=考具”として再定義する講義です。
ここで理都子の哲学が明確に示され、真司と飛鳥がその意味を実感し始めます。
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第2章 活エクセル革命 ― 現場からの反撃 ―
第2節 理都子の特別講義「Excelは考具である」
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午前十時。
全社オンライン研修「活エクセル入門・特別講義」の時間。
会議室にも、営業所のモニターにも、
理都子の映像がリアルタイムで映し出されていた。
理都子は白いシャツにグレーのジャケット、
背後には「活エクセル/I・BB・Oモデル」のホロボード。
表情は静かだが、言葉のひとつひとつに熱がこもっていた。
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「みなさん。
Excelを“表計算ソフト”だと思っていませんか?」
その問いに、各地の会場がざわめいた。
「もちろん、数字を扱うためのツールではあります。
ですが、Excelの本質は“数値処理”ではありません。
それは――思考の構造化です。」
ホロボードに図が現れる。
思考 → 形 → 共有 → 改善
(アイデア) (構造) (伝達) (進化)
「私たちは“考える”とき、
頭の中で無数の情報を整理し、つなぎ、比較しています。
Excelは、その“見えない思考”を“見える形”に変える装置です。」
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飛鳥が営業所のモニター越しにぼそっと言った。
「思考の装置、ねぇ……。いつも見積書ばっか作ってるけど。」
真司は笑って答える。
「でも、あの見積書だって“判断の記録”ですよ。
どこに重点を置くかで、考え方が出ます。」
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理都子の講義は続く。
「Excelは、“考具”です。
“道具”ではなく、“考えるための道具”。
それを正しく扱うには、三つの視点が必要です。」
ホロボードに現れる三つのキーワード。
I/BB/Oモデル
•Input(入力):データの源泉を意識する
•BlackBox(分析):考える仕組みを構造化する
•Output(出力):判断を共有する
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「まず、“I”。
入力が混乱していると、どんなに計算式が正しくても結果は狂います。
データは“数字”ではなく、“観察”です。
観察の精度が、思考の精度を決めます。」
理都子はサンプルファイルを開いた。
売上データの一覧。
社員の入力した日付は、半角・全角・フォーマットがバラバラ。
「この状態では、どれだけ分析しても“真実”は見えません。
整えることは、考えることなんです。」
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「次に、“BB”。
BlackBox――つまり、“考え方を中に閉じ込める部分”です。
人間が頭の中でやっている推論、比較、仮定を、
Excelの数式や関数で表現します。
たとえば“もし〜なら”という判断。
IF関数は、まさに“思考の分岐”を可視化する道具です。」
画面上には、シンプルなIF文が表示された。
=IF(売上>目標,"達成","未達")
「この一行に、意思が宿っています。
条件を設定するということは、“基準”を定義すること。
AIは自動で最適解を出しますが、
人間は“何を基準に最適とするか”を決められる。
それが、思考の力です。」
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「そして、“O”。
Output。
出力とは、単なる結果表示ではなく、“共有”です。
共有できない思考は、存在しないのと同じ。
だから、グラフや表は“結論”ではなく“対話の入口”なんです。」
画面に、美しく整理されたダッシュボードが映る。
数字ではなく、流れ・変化・傾向を示す可視化。
「Excelの最も重要な機能は、“伝えること”。
数字を通じて“理解の橋”を架けることです。」
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営業部の飛鳥が呟いた。
「……なるほど、だから“活エクセル”なんだ。」
真司が頷く。
「動くデータ。考え続けるシート。
“生きてるExcel”って感じですね。」
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理都子は最後に語りかけた。
「私たちはAI時代に生きています。
AIは答えを出すことに長けています。
けれど、問いを立てることは、人間にしかできません。
Excelを使って整理することは、“問いを形にする”こと。
そこに“考える文化”を取り戻す鍵があります。」
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理都子は視線をカメラに向けた。
「この講義のあと、皆さんにお願いがあります。
“1秒時短”を、Excelの中で試してください。
クリックを減らす、関数を短くする――
どんな小さな工夫でも構いません。
その“1秒”が、あなたの思考を変えます。」
彼女は一瞬、微笑んだ。
「Excelは、“AIに負けない知性”を育てる最高の考具です。
その力を、あなた自身の手で確かめてください。」
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講義が終わったあと、営業部の会議室では拍手が起きた。
飛鳥は呆れたように笑った。
「まるで宗教みたいね。“Excelは考具なり”って。」
真司は真面目な顔で言った。
「でも……確かに、あんな風に考えたことなかったです。
“思考を形にする”って、ちょっとワクワクしました。」
「ふふ、真司らしい。」
飛鳥はホワイトボードに大きく書いた。
『考える時間を、1秒短縮する』
「……これ、私の今週のテーマにする。」
真司は笑った。
「いいですね。“時短の哲学”ですよ。」
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その夜。
理都子のオフィスでは、玄道が静かに資料を読んでいた。
「……“Excelは思考の装置”。
面白い表現だ。」
理都子が言う。
「社長、Excelは“記憶”ではなく“知の運動”です。
動かすことで、考えが更新される。
AIにはまだ、それができません。」
玄道は頷き、低く呟いた。
「……つまり、“考える者だけが生き残る”か。」
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(第2節 終)
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次の 第3節「真司と飛鳥の“実践現場” ― ファイル地獄の突破戦」 では、
講義を受けた二人が、実際に“活エクセル”を現場で試し、
混乱の中から「考具の力」を体感していく展開に入ります。
続けて第3節に進めてよいですか?




