地下資源
切り立った崖に口を開けた横穴。その中で、二人の作業員がピッケルを手に岩を砕いていた。
「先輩、昔“石油”ってのがあったんですよね?」
若い男が、岩にピッケルを打ち込みながら言った。
「ああ。旧時代の主力エネルギー資源だな」
年配の男は、横たわった岩盤をゆっくりと削りながら答える。
「要は“恐竜の油”なんでしょ? なんか……嘘っぽくないすか?」
「いくら恐竜がうじゃうじゃいたって、何十年も採れ続けるって、ありえなくないですか?」
若者の疑問に、年配者は肩をすくめる。
「そう言われてたんだから仕方ねえさ。実際、何十年も使いまくって、地球はそれで繁栄してたんだからな」
「まあ、調子に乗って取り尽くして、文明ごと自滅したけどな。恐竜が自分たちのために油を残したって勘違いして、がぶ飲みしてたわけだ」
そう言いながら、男は携帯型ドリルを取り出し、大岩の一角に当てる。鈍い振動音が響き、やがて岩に細かな亀裂が走った。
二人は慎重にピッケルで岩を崩していく。
「……あったあった。リチウム、ニッケル、コバルト。上出来だ」
若者が笑顔で呟く。
「いやー、出ますね。人間の化石周りは本当に効率いいっすね」
「そりゃあな。人間ども、死ぬときみんな“こいつ”を抱えてたからな。希少な金属をふんだんに使った板だ」
「……あの、黒くて平たいやつ?」
「そう。たいていは“スマートフォン”とか“タブレット”って呼ばれてたもんだ。中に詰まってる金属が実にいい。こいつら、最後の最後までそれを手放さなかった」
若者は岩の断面から露出した、ひときわ鮮やかな虹色の金属片を手に取る。
「本当に……どれだけいたんでしょうね。人類って」
「数十億は確実にいたらしいぞ。文明ってのは、だいたい膨れ上がってからドカンといくもんだ」
「それが全部、レアメタル鉱床になるなんて……」
若者はふと、遠くを見つめながら言った。
「……なんか、俺たちのために残してくれたみたいですね。恐竜の油と同じで」
年配者はフッと笑う。
「勘違いするなよ。そいつは人類が自分のために使って、結局余らせただけだ。俺たちにとっては“たまたま残ってた資源”ってだけさ」
「でもまあ……悪くないっすよね、そういうロマンも」
ふたりは黙って岩場を見つめた。
その中には、手足を折り畳んだまま眠るように横たわる、かつての人類の化石。
胸元には、今もなお、黒い板がぎゅっと抱きしめられていた。