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第七話『鉄屑拾いと使い道のない剣』



朝の空気はひんやりとしていて、石畳の道を歩く足音が軽やかに響いた。今日の空は一面の曇り空。重くはないが、どこか気分を静かにさせる色だった。


「さて、今日は何をしようか……」


ぽつりと独り言をこぼしながら、俺は冒険者ギルドへと向かっていた。目的は、何か簡単な仕事を探すこと。だが、心の中には別の動機もあった。もっとこの世界を知りたい。素材、道具、人の営み。その一つひとつが、俺にとっては未知の価値の宝庫だ。


ギルドの扉を押し開けると、穏やかな朝のざわめきが迎えてくれる。数人の冒険者が掲示板の前に立ち、真剣な目で依頼書を読んでいた。


カウンターに立つアイリスが俺に気づき、ふわりと笑顔を向けてくる。


「おはようございます、蒼汰さん。今日は何か依頼を受けに?」


「うん、できればあまり危なくないやつを……素材集めとか、そういうのがあれば」


アイリスは手元の帳簿をめくりながら、一枚の依頼書を取り出して渡してきた。


「こちら、フリークエストですが、鍛冶師ギルドから常時出ている依頼です。近場の『グレーリッジ鉱場跡地』で鉄片やアズ鉱の欠片を集めてきてほしいとのこと。単価は低いですが、質より量、ですね」


「……鉄くずを拾う仕事、か」


少し拍子抜けしたものの、逆に言えば俺のような素人でも安全にこなせる内容だ。しかも、鉄という素材の使い道の多さを考えれば、何か面白い発見があるかもしれない。


「これ、受けます」


「はい。気をつけて行ってらっしゃい」


アイリスの笑顔に見送られ、俺はギルドを後にした。



グレーリッジ鉱場跡地は町からさほど離れていない丘陵地帯の一角にあった。木々に囲まれたなだらかな斜面の先に、崩れかけた採掘小屋の残骸と、土に半ば埋もれた鉱石の山が見える。


俺は地面にしゃがみ込み、注意深く破片を拾い集め始めた。


薄い鉄板の切れ端、錆びたネジ、削られた鉱石の破片。中にはただの石ころと見分けがつかないものもあった。けれど、スキルを使うと「アズ鉱欠片・22シエル」や「溶解鉄の破片・35シエル」といった値がつくことがある。


(数は多くないけど、地道にやれば十分価値になる)


途中、変わったものを見つけた。ひどく刃こぼれした短剣。柄の部分も朽ちており、とてもじゃないが戦いには使えない。


「これはさすがに売れないか……」


試しにスキルを使うと──


《この品は120シエルで売却可能です。用途:装飾加工用素材。売却しますか?》


「……は?」


一瞬、目を疑った。今までの売却時には金額だけが表示されていた。だが今回は、用途まで表示されている。


「……そんな仕様だったか?」


戸惑いながらも、売却を実行する。表示された説明によれば、この短剣は鍛冶師が細工用素材として欲しがっていたらしい。


(なるほど……武器としてじゃなく、素材としての価値か)


ひとつの物に、いくつもの顔がある。そのことに改めて気付かされる。


俺は短剣を売却し、再び作業を続けた。



昼過ぎ、町へと戻る途中、俺は市場の裏通りに目をやった。どこかの店先に置かれた古びた木箱の中に、売れ残ったような装飾品が積まれている。


「まとめて800シエルでいいよ」と言う店主の言葉に押されて買ってみると──


中にあった素人細工の金属細工の一つが、料理道具として500シエルの価値で売れた。装飾が施された柄が「贈答用の高級おたま」として需要があったらしい。


《用途:忙しい料理人による贈答品指定。》


「……まさか、そういうのまで需要あるのか……」


驚きつつも、少しずつ分かってくる。


“使い方次第で、何でも価値になる”


それはこの世界で、そして俺のスキルにおいて、最も根源的なルールなのかもしれない。


夕方、ギルドへ戻って報告を済ませると、受け取りカウンターの向こうでアイリスが小さく驚いた顔をして言った。


「これだけの量、しかもこんなに状態の良いものまで……すごいですね。実は、鍛冶師ギルドからも品質が高いと評判でした」


「……そんなに褒められることじゃないよ。ただ、拾っただけだから」


「いえ、きっと“ちゃんと拾った”から、価値になったんですよ」


その言葉に、なぜか胸があたたかくなった。


ギルドを後にする頃、陽は傾き始めていた。俺は手の中の小さな袋──今日の報酬と、売却で得た新たなシエルを確かめながら、小さく笑みをこぼす。


「この世界、悪くないな……」


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