第六話『ギルドの雑務と、静かな夕暮れの宿』
公園で小さな青い石を見つけた後、俺はゆっくりと冒険者ギルドへと向かった。街の喧騒を抜け、ギルドに入ると、いつもの穏やかな空気が迎えてくれた。受付にはアイリスがいて、書類を整理しながら微笑みを向けてくれた。
「こんにちは、蒼汰さん。今日はどんなご用でしょう?」
「何か簡単な依頼がないかなと思って……」
アイリスは頷き、依頼ボードから一枚の紙を取って渡してくれた。
「森の入り口付近で採れる『カレルの葉』を集めてほしいという依頼があります。報酬は300シエル、初心者でも問題ないはずですよ」
「ありがとう、これにするよ」
そう言って依頼を受け取り、俺は軽くアイリスに会釈してギルドを後にした。
森に入ると空気が湿り気を帯び、微かな土の匂いが鼻をくすぐった。鳥たちの鳴き声が響き、時折吹く風が木々を優しく揺らす。カレルの葉は紫がかった三枚葉で、風通しの良い木陰に群生していた。
丁寧に葉を摘み取りながら、俺は足元の石や枝を拾ってはスキルを試した。しかし、ほとんどは価値がなく、特別な形状や色をしたものだけが少額で売れた。
「やっぱり、売れる物と売れない物があるんだな……」
その差に考えを巡らせつつ、必要な分のカレルの葉を集め終えると、再びギルドに戻りアイリスに納品した。
「助かりました、とても丁寧ですね。さすが蒼汰さんです」
彼女の言葉に少し照れつつ報酬を受け取り、ギルドを出た頃には日が傾きかけていた。
宿に戻り、カウンターに立つマーサに宿泊費1500シエルを手渡すと、彼女は温かな笑顔で迎えてくれた。
「今日もお疲れさま。夕食の後、手伝ってみる?」
「はい、できることがあれば……」
食堂で出された夕食は香ばしい香草のスープに焼いた根菜、柔らかく煮込まれた鶏肉と甘いパンだった。素朴だが身体に染みる味だ。他の宿泊客の女性冒険者たちの穏やかな会話が心地よく耳に届く。
食事を終えた後、マーサの案内で食器洗いを手伝った。山積みの食器を黙々と洗う間、水の音が心を落ち着かせてくれた。
洗い物を終えるとマーサがゴミ袋を渡してきた。
「ごめんね、裏の回収箱まで運んでくれる?」
「はい、分かりました」
外に出て、ゴミを持ったまま人目につかない場所でスキルを使うと、数点が意外にも売却できた。理由は分からないが、驚きながらも残りを回収箱に捨てて戻った。
厨房に戻るとマーサが調理台を拭きながら呟いた。
「あれ?ゴミが少なかったかしら」
こちらに視線を向けたが問い詰めることなく、ただ笑顔で頷いた。
「ま、減ってるなら良いことよね」
部屋に戻り、俺はリリアンから受け取った下着が入った包みを静かに解いた。淡いグレーのインナーと生成りの下着、縁には控えめな花の刺繍が施されている。男でありたい俺にとって複雑な感情が胸を掠めるが、それでも丁寧な作りと優しい肌触りに心が落ち着いた。
着替えながら、柔らかな布が身体に触れるたび、自分が女性の身体であるという現実を意識させられ、鏡から視線を逸らした。それでもリリアンの言葉を思い出すと、不思議と穏やかな気持ちになれた。
ベッドに腰を下ろし、静かな夜の空気を感じながら小さく息を吐く。
「これから少しずつ、この身体とも付き合っていかなきゃな……」
薄闇が窓を覆い、外では静かな虫の声が響き始めた。異世界での新しい一日に、俺は静かに目を閉じた。
【これまでの収支まとめ】
収入
第1話:石をスキルで売却 → 1000シエル
第2話:枝や石など追加売却 → 約1000シエル
第3話:採取クエスト報酬 → 300シエル
第4話:枝などの売却+串焼き1本転売 → 約2000シエル
第5話:掘り出し物の箱購入 → 売却益 3500シエル
第6話:カレルの葉クエスト報酬 → 300シエル
第6話:スキルでゴミの一部売却(正確な金額不明、仮に)→ 200シエル程度
収入合計:約9300シエル
支出
第2話:ナイフ+袋購入 → 500シエル
第3話:宿泊費(1泊)→ 1500シエル
第4話:串焼き2本購入 → 400シエル
第5話:掘り出し物まとめ買い → 500シエル
第6話:宿泊費(1泊)→ 1500シエル
支出合計:4400シエル
【現在の所持金】
9300 - 4400 = 4900シエル