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第二話『初めての冒険者ギルドと性別不詳の登録証』

異世界の町を歩きながら、俺――蒼汰はさっき手に入れたばかりの1000シエルを強く握りしめていた。商業ギルドの登録料が予想を遥かに超える30万シエルだったことに、心底落胆した。これが異世界の現実か。


目の前に立ち止まると、重厚な木造りの建物が視界に入った。入り口の看板には剣と盾が描かれ、『冒険者ギルド・オルテシア支部』という洒落た文字が浮かんでいる。深く息を吸い込み、少しの躊躇いを振り切って扉を押し開けた。


内部は酒場を兼ねているようで、昼間にもかかわらず多くの冒険者たちが騒がしく飲食を楽しんでいる。壁一面に様々なクエストの紙が貼り出されており、皆真剣な顔つきでそれを吟味していた。


受付へと向かう。そこにいたのは愛らしい栗色の髪をポニーテールに結んだ女性だった。整った顔立ちに碧色の瞳が煌めき、まるでこのギルドの華のようだ。彼女は俺を見つけると明るい笑顔で声を掛けてくれた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ!新規登録でいらっしゃいますか?」


「はい、お願いします。ただ、その……性別欄を男性で登録したいんですが」


彼女は一瞬きょとんとして、俺の細く女性らしい姿をゆっくりと見つめる。その視線に思わず身を縮めてしまう。


「……あの、見たところ女性のようですが?」


「事情があって、身体は女性ですが心は男性なんです。もし難しいなら……性別欄を空欄か非公開にしてもらえませんか?」


心臓が大きく跳ねた。俺は何を言われるのかと不安で息を呑んだ。


しかし彼女は真剣な表情で俺を見つめ、小さく頷いた。


「そういう事情でしたら、特別に性別の項目は削除させていただきます。ところで……異世界からの転生者の方、ですよね?」


「えっ? なんでそれを……」


予想外の言葉に思わず驚き、声が裏返ってしまう。


「最近増えているんです。異世界から来られる方が。事情をお聞きするとだいたい似たような感じなので」


彼女――アイリスは微笑みながら書類を整えた。俺は胸を撫で下ろし、ほっと息を吐く。


「ありがとうございます。ええっと、俺は蒼汰と言います。よろしくお願いします」


「よろしくお願いしますね、蒼汰さん。困ったことがあったら遠慮なく相談してくださいね」


手続きが終わると、アイリスは小さな金属板のギルドカードを手渡してくれた。そこには名前とランクだけがシンプルに刻まれている。


「それでは最初の依頼ですが、こちらの採取クエストはどうでしょう?町の外れの森で薬草を摘むだけです。危険性も低いので初心者には最適ですよ」


「採取クエストですね……わかりました。それを受けます」


アイリスは再び微笑んだ後、少し表情を引き締めて小声で俺に囁いた。


「あの、蒼汰さん。お節介かもしれませんが、身体は女性なので安全な宿を選ぶべきです。町には色々な人がいますからね。おすすめは町の東通りにある『星降る宿屋』です。女主人のマーサさんが親切で、とても頼りになりますよ」


彼女の心遣いに胸が温かくなる。前世では、こんな風に人に心配された記憶はほぼ無かった。


「ありがとう、必ずそこに泊まることにします」


俺は頭を軽く下げ、ギルドを出る前に壁に貼られた町の地図をしっかりと頭に叩き込んだ。初めて見る異世界の地図には見知らぬ文字が踊っていて、異世界に来たことを改めて実感する。


残りの500シエルを持って町の市場へ向かう。細い路地に入ると、小さな雑貨店を見つけた。店主の老人は優しい目をした白髪交じりの男性だ。


「おや、新米の冒険者さんかい? 何をお探しで?」


「採取用のナイフと袋を買いたいんです」


老人は頷き、丁寧に棚からナイフと丈夫な布製の袋を取り出した。


「これでちょうど500シエルだな。冒険者としては必須の道具だ」


金を渡し、ナイフと袋を手に取る。その道具が、これからの冒険者生活を象徴しているように思えて感慨深い。


――前世のような不幸な人生は二度と送らない。自分自身の力で、この世界を生き抜いてやる。


俺は静かに決意を固め、町の外れの森へと再び足を踏み出した。



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― 新着の感想 ―
アイリスさんとは違って名前がでてこない店主さん涙目(´;ω;`) 性別問題、意外と大丈夫だったな... 異世界転生者が増えてるのね... まさか、誰かが意図的に転生をさせてるのか?考えすぎか...w…
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