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双極の引き

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 こーちゃんの身近にはさ、一卵性の双子な人っている? もしくはいた?

 さすが元はひとりだけあって、容姿がそっくりなことが多い。とはいえ、本人たちにとっては、それがいいか悪いかは差があるな。何かと相方と比較されるケースがあるからだと。

 普通の兄弟姉妹でも、上や下と比べられるのはあまりいい気持ちがしない……という話もたびたび聞く。人間、多かれ少なかれ自分が世界にただ一人であることを願いたくなるし、特別であろうと思って様々なバイアスも働くだろう。

 誰より、心の内を理解している存在でもあるしな、「自分」て。どれほどの理解者があらわれても、それが兄弟双子であったとしても100パーセント分かってもらえるとは思えない。


 でも分かってもらえなくとも、つながってるかもと感じるときはあるようだ。

 虫のしらせ的なものが多いけれど、中にはシンクロしているかのごとく、相手に起きていることを実際に味わうケースもまれにあるらしい。

 私の昔の話なのだけど、聞いてみないか?


 先に話した双子な人。私のそばにいたのは双子の姉妹だった。

 二人が一緒の場にいることは、あまり多くない。見かけるときはどちらか一方のみしか視界に入れないことがほとんどだ。

 いるとしても、まさにはるかかなたで豆粒ほどの大きさほど距離をとっている。自然、二人で話すシーンもなかなか見かけない。


 なんか、喧嘩でもしているのだろうか。

 幾度も目にしているうちに気になって、たまたまそばにいた姉に理由を尋ねたところ、こう返された。


「あまり外であたしたちが一緒にいるとね。変なものが寄ってきちゃうの」


 変質者かなにかか? と返す私。

 半分冗談のつもりだったのだけど、姉は当たらずとも遠からずといった答えが返ってきてしまう。

 姉いわく、磁石を例に出してくれた。

 自分たち2人が家の外で長時間寄り添うと、それは磁石のどちらかの極とよく似た性質を持ってしまう。そうすると、極へ引き寄せられるようにして変なものを近づけてしまう恐れがあるのだと。

 普通は2人で、別々の極を持つとかじゃないか? と私は思ったのだが、それは分かりやすさを重視するフィクション設定の刷り込みゆえだろう。

 それにしたって、妙な決まりごとを設けているものだ……と私は遊びに戻っても、お互い運動場の端と端くらいに間を開く彼女らを見て、「ふーん」と鼻息を漏らしていたのだが。


 数日後。

 学校のある地域を、やや大きめの地震が襲った。

 大々的に報道されるような、ひどい被害は出なかったものの、学校の備品は軒並み落ちたり、倒れたり。少なくとも、日ごろから言われている通りに机へ入ることを徹底していなかったら、けが人が出ていたかもしれない。

 避難訓練はしていたけれど、まさかその成果を生かすことが通学中に起こるとは、考えていなかったよ。揺れがいったん収まり、みんなが廊下に並び出したのだけど、その同じクラスの双子の姉が先生に交渉し始めたんだ。


「妹と離してください」


 おそらくクラス決めの時点でも交渉があったのか、私のクラスと双子の妹がいるクラスは端の教室同士となっていた。

 普段の避難訓練含めた全体で移動するときは、どうしても彼女らの間が縮まることもあったが、このような申し出をしたことは一度もなかった。

 先日に聞いた、「極」の話が私の頭に浮かぶ。


 ――ひょっとすると、今はその「変なもの」との距離が近いときなんじゃないだろうか。


 狙って近づいたか、あるいはたまたまそばにいるのか。実際のところは分からないが。


 結局、彼女は先生に連れられて、みんなより一足先に校舎の外へ。

 遅れて私たちが出た時には、通常時に集まる朝礼台よりもだいぶ離れた校門近くにいた。担任の先生を伴ってね。

 妹のほうは、他のみんなと同じく自分のクラスの列に並んでいる。姉妹でこの状況に慣れているのか、離れた姉のほうを見やることもない。

 様子をしばらく見たのち、訓練のときと同じように校長先生からの話が始まったのだけど、終了しだい教室へ……とはならなかった。


 どん、ととても短いけれども、強い振動がグラウンドへ走る。

 立っていた人の身体が、軽く浮き上がってしまうほどで、何事かとみんなあたりを見やり、ざわつき出した。

 その中にあって、双子の妹はただ一点。姉のいる方とは反対側の空をにらんでいた。遠目に見る姉の顔もおそらく同じ。そして連れ立つ先生はというと、見るほうこそ同じだが、どこかあっけにとられた表情をしていた。

 私もざわつくみんなをよそに、彼女らが見ている方角へ顔を向ける。


 ぱらぱらと、空から落ちてくるものがあった。

 周囲にある木々や建物を越えた高さから落ちてくるそれらは、小石にしては大きく思えたよ。少なくとも数百メートルは離れているだろう距離にある、このグラウンドから大小の破片として、きっちり認識できるのだから。

 そして、追うように揺れがもうひとつ。

 その際、落ちてきている破片たちの後ろで、より多く、より高く、他の破片たちが舞い上がるのを見たよ。

 その盛大な噴出から、ふと目を学校へ戻すと、妹が姉たちのほうを向いて「あっちへ行け」といわんばかりに手を振っていた。

 姉たちもそれにならうようで、校門から学校の敷地外へ。ついには姿が見えなくなってしまうほどに距離を取っていったんだ。


 以降の揺れは見られなかったが、大事をとってその日は帰宅が促される。

 私の帰り道は、例の破片の噴出があった方角だったのだが、途中で通行止めがされているのを見たよ。

 近づけた範囲で確かめるに、道路をはさんでこちら側と向こう側。いずれもアスファルトでできた駐車場にまるで池のように広くて深い陥没ができていたんだ。昨日まで、あのようなものはなかったはず。

 よくよく見ると、それは人のはだしを何倍にも大きくしたようなもの……に思えなくもなかったり。

 もし、彼女らが遠ざからずに一緒に居続けていたなら、あの足跡の主もこちらへ向けて突き進んできていたのだろうか。

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― 新着の感想 ―
それぞれのコミュニティもあるとは思いますが、2人の仲が良かったとしたら、外で気軽に話したり遊んだり出来ないのは結構寂しいかも。 とても面白かったです。
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