第9話 そろそろだって
「はい、黒田さん出番です。すぐ行って下さい!」
台本解釈を質問する機会も無く、僕はメガネピンクAPに急かされて外に出た。
そこはテレビで見たことにある鉱山の採掘場のような広場だった。
そこには本当にヒーローがいた。
敵を次々と投げまくる怪力のグリーン。
ロングライフルを走りながらぶっ放すクールなブルー。
軽やかに飛び跳ねながら敵の頭を蹴り上げるイエロー。
そして、敵の真ん中を2本の剣で切り抜けるレッド。
本当に血が飛び散ってるし、爆破で敵の体が粉々になっている。
リアルすぎる。これは実戦に見える。
戦いは本当だった。
5人なのでもう一人いるはずだが、とにかく敵味方入り混じって高速で走り回るので追いつけない。
僕は圧倒された。
ここで一緒に、戦うのか?
怖気づく気持ちを気合で封じ込め、
よし! と前に出ようとしたら、
「まだ入んな!」
と、背後から別の日焼けしたスタッフに呼び止められた。
後ろにいたメガネピンクの舌打ちも聞こえた。
「指示が出るまで待機」
意地悪な声が聞こえた。
折角気合を入れたのに、また待機だ。呼ばなきゃいいじゃないかと思うが、何か事情があるのだろう。
ヒーロー達が真剣に戦っている様子を、僕はボーッとカメラスタッフの横で見ていた。ピッタリしたヘルメットをしているので飲み物も飲めない。この合間でメガネプンクの橘APに気になっていた事を質問しようと思った。
「あのぉ」
「何?」
声も聞こえにくいようだ。
「これってやっぱり撮影ですよね」少し声をハリ気味にして聞いた。
戦いの様子は、真剣勝負のように見えた。
が、その現場には、撮影用のカメラが何台もあって何十名ものスタッフが取り巻いていた。空にはドローンも飛んでいて、オフロード車に乗って撮影しているスタッフもいた。
普通の番組と違う感じもするが、やはり良く分からない。
「あなた契約書ちゃんと読んだ?」
「すいません、ちょっと忘れっぽくて」
本当は面倒なので読まずに高速縦スクで『理解した』にチェック入れていた。僕は事前の説明やらを今までちゃんと読んだことがなかった。
「ヒーローってのは怪人を倒すので、どうしても法律の問題が絡んでくるんだけど、うちの会社はそこを上手く『教育』ということで処理して、法律に従わなくていい代わりに、こうして戦いを撮影編集して各種配信プラットフォームに出してるのよ」
「なるほどですね」
だから、さっきの『撮影だけど戦いは本物』という意味につながるのか、ようやくちょっとだけ分かった気がする。
僕は知らないことが多すぎる。