第7話 怪人は本物だって
続いてバカな質問とは思いつつ、メガネピンクAPに聞いた。
「あのぉ、この悪人ってなんですか?」
「あなた本当に選ばれた人ですか? 悪は悪よ。今日は、特殊詐欺グループの中核メンバーを操っていた怪人ね」
「そういう設定ということですか」
その質問にメガネピンクの目は険しくなった。
「違います。本物です」
「えっ、ちょっと分からなくなった。本物って詐欺グループと怪人のどっちがですか?」
僕も自分でなんて質問だと思った。
「黒田さん、今日の台本読みました? メールで送っているはずですが」
「すいません。すぐ読みます」
「まずは読んで、そしその通り演じて下さい。お願いします」
「演技とか台本ということは、やっぱりお芝居やるということですよ」
「台本って社内でそう呼んでるだけで作戦書です。演じるっていうのは、ヒーローらしく本気で戦ってくださいという意味です」
そういうとメガネピンクは僕に関心を失ったように離れた場所でスマホを見始めた。
ただ、そう言われても特殊詐欺グループの怪人が存在するなんて信じられない。それにヒーローが控室でおにぎり食べたりするのもおかしい。さらに気になるのは来る途中で撮影準備しているスタッフが広場にいるのが見えた。
「でも、さっきいた撮影の人たち、あれは何してるんですか? 映画かドラマってことですよね」
スマホをいじっていたメガネピンクは顔を上げた。
「違います。報道カメラと技術クルーです」
「特撮番組じゃなくて?」
「何いってんの、怪人が現れたからニュースのカメラが来てるのよ。あなた本当に大丈夫?」
メガネピンクはさらに邪険な顔をした。
これ以上質問しても、何も解決しない気がしてきた。
良く分からないがこれはバイトだ。仕事なんだからやるしかない。
メガピンの心証を悪くすると次に呼んでもらえないかも知れない。
折角こんなとこまで来たんだから、しっかり結果出して。仕事に呼んでもらえるようにしないと無駄足になってしまう。
そう思っても、何も分からないので外の様子を見に行った。
倉庫から出ると、突然悲鳴が聞こえた。
声の方向を見ると、こちらから100Mくらい向こうに、
肌が茶褐色で頭が金髪の大男がブランドロゴの入ったバッグ持って現れた。
その周りで、携帯電話を武器にした小柄なザコ怪人が
一般人を追い掛け回して大暴れしていた。
突然、やる気を見せたくなった。
「あっ、僕も助けに行かないとマズイですよね。着替えする場所ありますか?」
メガネピンクは呆れたような顔をして、
「あなたはあくまでも追加戦士なので、最後の技が出る時まで待機。時間になったら、ここのランプが光るので」
倉庫の屋根付近の壁を指差した。
「待ち時間だいたいどれくらいですか?」
「このシーンまだ始まったばかりだから、1時間はかかるわね」
結構時間ある。集合時間早すぎるんじゃないかと思ったが、いまさら仕方が無い。
さっきのケータリングが気になった。
「あのぉ、それまでにおにぎり食べていいですか」
「どうぞ、でも食べ過ぎると動き激しいから吐くわよ。台本しっかり読んでおいてよ」
そういってメガネピンクAPは一旦その場からいなくなった。
お腹がすいていたので、シャケとシーチキンマヨおにぎりを食べると、念の為スーツケースからブラックのスーツを取り出し眺めた。
なかなかかっこいい。これを着て戦うのか、しかも何も分かってない。
なんだか分からないが、長い一日になりそうな気がした。