第1話 選ばれたって
「あなたはヒーローに選ばれました」
配送のバイト帰り、道で呼び止められ突然そう告げられた。
目の前に、白のワンピースで、日傘を差した黒髪の女性が立っていた。
美人だけど若くはない、30歳くらい、笑顔だが、目は笑っていなかった。
これは、あれだ、マルチか、宗教系だ。
気づかないふりをして、通り過ぎようとした。
「ちょっと待って」とその女の声。
すると突然、自分の体が動かなくなった。
筋肉が硬直したような痛さ。
「黒田至恩さんには、世界を守る戦士の証としてこれを授けます」
その30歳くらいの女は、僕の手をいきなり握った。
指先から熱が伝わり、やがて僕の手の甲が光り始めた。
なんかやばいことに巻き込まれた。
女の顔を見ると、口を動かしボソボソと聞こえない声量で何かを一心に念じている。
そして目がピンクに光っていた。
ますますやばい。
なんとか逃げないと思っていると急に女は手を離した。光も消えた。
「そのうちリーダーから呼ばれます。強制招集なので気をつけて下さい」
そう言うと女は目の前から消えていた。
体は再び動くようになったが、幻覚ではなかったことの証拠に、僕の右手の中指に趣味の悪いクロムハーツの指輪のようなものがハマっていた。
全く抜けない。