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襲撃後

「………………」


 カラルリンたちが撤退していくのを見届けたのち、俺はその場にへたり込んだ。


「レオン様、ご無事ですか!?」


 アズたちが駆け寄ってくる。


「…………は……はは……生きてるよ俺……」


「大丈夫ですかレオンさん。すっごい冷や汗ですけど……」


 それは当然である。だって序盤にラスボスと対峙したんだから。


 だが、俺はこうして生きている。"悪魔たちの襲撃によって死亡する"運命をひとまずは乗り越えることに成功したのである。


「……ていうか、悪魔って本当にいたのね……」


 コレットは悪魔たちが去っていった方向を眺めながらそうつぶやいていた。


 そう思うのも無理もない。なにしろ現在では悪魔たちの脅威もすっかり遠ざかっている。『悪魔は危険な存在』という知識こそ一般的なものであるが、実感としてそれを認識できている者はそう多くない。"原作(LOA)"のモブには『悪魔なんてのが本当にいたのか怪しいもんだぜ』なんてセリフを口にする者もいる。


「しかもさ、よく分かんないけどあいつらレオンを狙ってたわよね。また来るんじゃない?」


 その通りである。


 あくまでハッタリ効かせて退(しりぞ)かせただけであって、カラルリンたちの脅威そのものが消滅した訳ではない。


 まだまだ俺の死亡フラグは折れていない。油断する訳にはいかないのだ。


「……まあ、その辺りの対策は考えておくよ。……それより」


 石床にへたり込んだままムラサメに首を向けた。


「ありがとう、助かったよ。よく気づいてくれたな」


「ふん」


 ムラサメは鼻を鳴らした。


「お前に上手く使われた気分だよ。面白くないったらありゃしない。……しかし、まさかこんな場所で悪魔と出会うとはな……」


 言外に『"原作"展開から逸脱している』ことに触れているような声音である。この話題は後日改めて相談したほうがいいだろう。


「ああ。俺も驚いたよ」


 そう答えつつ、俺はアズの手を借りて立ち上がった。


 ……ん?


「どうかいたしましたか?」


「いや。あれ……」


 俺は先ほどまでカラルリンたちが立っていた場所を指す。そこには、ひとつの石が落ちている。


 "ノードリオ南の遺跡(このダンジョン)"の石材のカケラではないし、採取ポイントから入手できる素材とも違う。


 それどころか"原作"に登場する素材やアイテムでもない。少なくとも、類似するものにまったく心当たりがない。


 不審に思い、拾い上げてみる。


 黒銀色に輝くまっすぐな石。表面は滑らかな手触りであり、光沢もある。


 折れたものであるらしく、細い繊維を束ねたような断面が見える。試しに断面の尖った部分をつまんで力を入れてみると、簡単に折れてしまった。結構もろい材質であるらしい。


「……なによそれ?」


「分からない。……ひょっとしてカラルリンたちが落としていったものか?」


 例えば、奴らの活動範囲内にあったものが服の袖やふところに入り込んだとか。


 仮にそうであるなら、なにかの手がかりになるかも知れない。ストレージにしまい込んでおく。


「……さて。ひとまず落ち着いたところでですね」


 ひなたが切り出した。


「レオンさん。明らかにあの悪魔たち……カラルリンでしたっけ? とにかく奴らのことを知ってましたよね。なぜですか?」


「…………」


 ひなたの言葉に、俺とムラサメ以外の者たちが大きくうなずいた。まあその疑問も当然だろう。


 だが困った。素直に『転生者なんです』などと答えていいものか。混乱は必至だろうし、そもそも受け入れてもらえるかさえ分からない。


 しかも、言えば必然的に"ムラサメも転生者"であることにも触れなければならないだろう。今後の人間関係にも関わることであるし、うかつに白状はできない。


「…………あ~……なんというか……それはだな……」


 かと言って流してもらえそうな雰囲気でもない。悩ましいが、これ以上引き伸ばすのも難しい。いったいどう答えたものか……。


 脳みそを雑巾よろしく絞り上げたすえ、



「…………予知夢を見た」


『『『は?』』』



 自分でもよく分からない、苦し紛れの言葉が出るに至った。


「いやなに。以前、夢で見たんだよ。『カラルリンを名乗る悪魔から命を狙われる』って内容の。それが妙にディテールの細かい夢で、名前から相手の隠し事まで全部はっきりと覚えててさ。正直半信半疑だったけど、まさか本当だったなんてな。いやあ助かったよ」


 ……みんなの反応はそれこそ半信半疑であった。『現実に的中していた以上、頭から否定はできない。だがなにか不自然で怪しい』……そんな雰囲気である。


「さすがはレオン様!」


 (いぶか)しむ空気を切り裂いてアズの声が響いた。


「まさか予知夢を授かる能力をお持ちであったとは! これはもはや、神々の祝福を一身に受けし時代の寵児と言っても過言ではないでしょう!」


 過言です。


 ……とは口が裂けても言えない。なにしろ貴重な助け船には違いない。船というより(わら)な気もするが、とにかく違いない。


「……まあいいです」


 長い長い沈黙のすえ、ひなたは口から息を抜いた。


 話を鵜呑みにした、という感じではない。もしかしたら"訳あり"と察してそれ以上は追求しないでおいてくれたのかも知れない。


「まあ、ここでする話でもないよ」と長男のタロ。


「そうだね。それよりみんな無事でよかったよ」と次男のジロ。


「さあ、そろそろ戻ろうか」と三男のサブロ。


「それもそうだな」


 俺は三つ子たちにうなずきを返す。


 なんにせよ、場を切り抜けることはできた。クエスト自体は達成しているし、早いとこ町へ戻りたい。

 そういう訳で、俺たちは遺跡を後にし、バレンシアの町へと戻った。






 ギルドに報告を終え、『遺跡内での成果報告』という体でムラサメたちと中盤素材(レッドメタル)の分配を終えて解散して。


「――なあコレット」


 ギルド内のテーブル席で、俺は口を開いた。


「なにかしら」


「本当に俺たちのパーティーに入るつもりか?」


「どういう意味よ?」


 注文した水を飲みながらコレットが聞き返す。


「今回起こった通りだ。俺は悪魔たちに魂を狙われている。あれで奴らが諦めて引き下がるとも思えない。……つまり俺につき合うってことは、悪魔との戦いに巻き込まれる可能性がある――」


「……その言い方、つまり合格ってことっ!? やたーっ!!」


 真面目な話をぶった切ってコレットは無邪気にガッツポーズ。


「……あの、コレットさん?」


「ん? ……はっ!! ……ま、まあクールビューティーとしては当然ね……」


「それはもういいから。……本当について来る気か? 俺だけが標的になるなんて保証はない。身の安全なんて約束できないんだ」


 さっきは予知夢うんぬんで誤魔化したとはいえ、さすがにここは誤魔化せない。最悪、俺ひとりだけになったとしても文句を言うつもりはない。


 付き合いの長いアズであれば俺についてくると答えるだろうとは思う――が、仮に俺の元から離れると申し出たとしても、それを止めることはできない。


「アズとひなたもだ。"抜ける"って言うなら俺は引き止めない。遠慮なく言ってくれ」


「気を遣ってるんでしょうけどね、レオンさん」


 ひなたが首を横に振る。


「もとより冒険者は危険なものでしょう。でも覚悟の上です。なにしろボクは目隠れ美少女アイドル系冒険者としてスターダムを駆け上がってやるんです! 悪魔なんかに止められはしません」


「私もよ。〈魔力超過(オーバーロード)〉でぶっ飛ばし甲斐のある相手じゃない。しかもこのパーティーに入ればもれなくひなたのユニークスキルによる強化つき。悪魔なんてちょちょいのちょい、ってなもんよ!」


 ふたりはそれぞれに力強く言い切る。


「無粋な問いですよレオン様。たとえなにがあろうとも、私はレオン様のお側を離れるつもりはありません」


 最後に、アズが隣で微笑んだ。


「……分かった。みんな、改めてよろしく頼むよ」


 俺は深々と頭を下げた。

お付き合いいただきありがとうございました。

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