対クラウンエネミー戦、決着
ひなたの指が竪琴をかき鳴らす。
今度は強化ではなく攻撃だ。竪琴に込められた特殊な魔力によって衝撃エネルギーへと変換された音波が"荒ぶる大角"へと襲いかかる。
俺とアズも攻め手を緩めない。他のふたりの邪魔にならないようそれぞれ三方向から魔物を取り囲み、畳みかける。
『GIIッ!!』
剣、戦槌、音波と三者三様の攻撃に晒され魔物は苦悶の声を漏らす。しかも〈闘志の歌〉による攻撃力上昇も乗っている。さしものクラウンエネミーも少しずつ押し込まれている。
当然、奴も反撃に出ようとするが、
「させるかぁっ! おらっ、こっち来いっ!」
俺はガードスキル〈挑発〉を発動。魔物の攻撃対象を強制的に俺へと向けさせる。 目論見通りに"荒ぶる大角"はこちらへ首を向け、突進してくる。巨大な角の一撃を構えた盾で受ける。全身を襲う強烈な衝撃。上体が倒れそうになるのに歯を食いしばって耐える。
「どりゃああああっ!!」
「てやー!」
その横合いからアズとひなたがそれぞれに攻め立てる。俺も隙を見て剣で斬りかかる。
戦況は順調に展開していく。
敵の攻撃は俺が引き受け、アズが戦鎚で打ち据える。
「〈ヒール〉!」
衝撃によって少しずつ俺の体に蓄積していくダメージはひなたが治癒魔術スキルで回復してくれる。
そうして少しずつ着実にダメージを蓄積させていく。"荒ぶる大角"の動きも徐々に鈍くなっていく。
決して楽な戦いではないが、それでもペースはこちらが握っている。このまま押し切れる――
「……ッ!!」
――って、クラウンがそんな甘い奴な訳がねえよなっ!!
「ヤバいの来るぞっ!! 備えろっ!!」
巨鹿が"首を二回下げる"動作をするのと、俺が大声で警告を飛ばすのは同時だった。
"原作"で見覚えのある動 きだった。あれは〈大暴れ〉使用時に見せる動作だ。HPを減らすと繰り出してくる強力な全体攻撃で、こいつが使う中でもっとも攻撃力の高い技である。
俺の声にアズは即座に攻撃の手を休めて距離を取る。事前に打ち合わせをする暇などなかったが、そこは長い付き合いだ。聞き返すことなく行動に移してくれた。
『KIYAAAAAッ!!』
直後、"荒ぶる大角"が黒土を派手に蹴立てて突進してきた。
真っ先に狙われたのは俺だった。盾と〈ウォールディフェンス〉の併用で受ける。ひときわ強烈な衝撃。たまらず吹っ飛ばされるもなんとか受け身を取る。
駆ける勢いそのままに魔物はアズへと突っ込んでいく。
「く……っ!!」
アズは地面へ転がり込む。銀糸のような髪に湿った黒土をかぶりつつもすぐさま身を起こす。
「ぴゃっ!?」
だが、ひなたは俺たちのようには動けなかった。初対面である俺の警告を即座に飲み込めなかったのもあるだろう。轟音を立てて向かってくる巨鹿を前に、一瞬身を硬直させていた。
それでもなんとか避けようと動き出す。だが間に合いそうにない。あれはマズい。彼女のLvは分からないが、なにしろ後方支援型だ。奴の角をまともに喰らって無事なほどの防御力を有しているとは思えない。
……こういう時こそ盾役の出番っ!! 頼むぞ〈不撓不屈〉っ!!
「ひなたっ!!」
叫び、俺はガードスキル〈かばう〉を発動。
果たしていかなる魔力の作用か、俺の体は滑るようにひなたの前へと移動する。
すぐさま彼女を押し出す――直後、魔物の巨体が突っ込んでくる。
かろうじて盾を構えるも衝撃を殺し切れない。姿勢も万全ではない。そのまま吹っ飛ばされ、背後の樹木へ猛烈な速度で叩きつけられる。
飛び散る木片。散る木の葉。背骨が悲鳴を上げる音。
めっちゃ痛い――が、あいにく生きている!
普通なら死んでいるだろう。だが〈不撓不屈〉――『死ぬようなダメージを受けてもHP1で耐えられる』スキルのおかげだ。
意識が途切れそうになるのを気合で踏みとどまり、よろめきながらも立ち上がる。
「レオンさんっ!!」
「レオン様っ!!」
ふたり分の声と同時に、"荒ぶる大角"のひときわ甲高いいななき声が耳朶を打つ。
あれも知っている。〈踏みつぶし〉――前足で単体を押しつぶす攻撃が来る前の動作である。
すばらしい事に〈不撓不屈〉はHP1の状態からでも発動してくれる神スキルであるが――あいにく二回目以降は確定発動ではなくなる。分は悪くないとは言えこんな場面で賭けに任せる気などない。
ここは打って出るのみっ!!
接近してきた"荒ぶる大角"が竿立ちになる――同時に俺は〈シールドチャージ〉を発動。後ろ足二本だけで身体を支える姿勢の巨鹿へと突進する。
衝突。
防御力の数値とは関係ない、物理的な作用が"荒ぶる大角"の重心を大きく揺らがせる。
「……アズッ!!」
「……せぇぇぇぇぇいっ!!」
意を汲んだアズが立て続けに強打。
駄目押しの衝撃をモロに浴びた魔物の姿勢が完全に崩れる。そのまま重々しい音を立て、背中から倒れ込んだ。
「……いまだっ!!」
苦痛など意に介さず叫び、追い打ちをかける。
アズの戦鎚が巨鹿の首元へ振り下ろされ、ひなたの音波が暴れる四本脚をかわして腹部を打ち、俺の刃が無防備な胴体へ突き立てられる。
『GIIIIIYYYYYYYAAAAAAッ!!』
クラウンエネミーの断末魔が木々の間を駆け巡った。
暴威を振るったその巨体が動かなくなり、やがて赤黒い灰となって風の中へとかき消えていった。
――討伐成功である。
お読みいただきありがとうございます。
よろしければ、下部からブックマークおよびポイント評価(☆マーク)をお願いいたします。
執筆の励みになります。




