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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『私はいま、事件の現場にきています』

作者: 稲荷ずー

 『私はいま、事件の現場に来ています』

 テレビに荒い画質の映像が流れる。

『犯人は現在も立てこもりを続けており、已然として膠着状態が続いています。身代金目当ての犯行と考えられており、現在、警察が人質を解放するよう、説得を試みています』

 テレビの画面に、耳障りな音とともにノイズが走る。

『アイリーン、現場の空気感というのはどのようなものでしょうか』

『……はい。現場は緊張した空気が張り詰めており――』

 そのとき、タァンという音が5回、閑散とした住宅街に響いた。あたりが悲鳴と怒号に包まれる。

『ただいま動きがありました! 警察の方たちが一斉に建物の中に突入していきます!』

 直後、2階の窓を突き破り、人の体が投げ出された。

『きゃあーっ!』

 瞬時に画面がスタジオへと代わり、唖然とした表情のアナウンサーが映し出される。

 切り替わる寸前に一瞬映った犯人の頭部は原型を留めておらず、顔面はぐちゃぐちゃになっていた。

 『私はいま、事件の現場に来ています』

 テレビに荒い画質の映像が流れる。

『犯人は現在も立てこもりを続けており、已然として膠着状態が続いています。身代金目当ての犯行と考えられており、現在、警察が人質を解放するよう、説得を試みています』

 テレビの画面に、耳障りな音とともにノイズが走る。

『アイリーン、現場の空気感というのはどのようなものでしょうか』

『……はい。現場は緊張した空気が張り詰めており――』

 そのとき、タァンという音が5回、閑散とした住宅街に響いた。あたりが悲鳴と怒号に包まれる。

『ただいま動きがありました! 警察の方たちが一斉に建物の中に突入していきます!』

 直後、2階の窓を突き破り、人の体が投げ出された。

『きゃあーっ!』

 瞬時に画面がスタジオへと代わり、唖然とした表情のアナウンサーが映し出される。

 切り替わる寸前に一瞬映った犯人の頭部は原型を留めておらず、顔面はぐちゃぐちゃになっていた。

 『私はいま、事件の現場に来ています』

 テレビに荒い画質の映像が流れる。

『犯人は現在も立てこもりを続けており、已然として膠着状態が続いています。身代金目当ての犯行と考えられており、現在、警察が人質を解放するよう、説得を試みています』

 テレビの画面に、耳障りな音とともにノイズが走る。

『アイリーン、現場の空気感というのはどのようなものでしょうか』

『……はい。現場は緊張した空気が張り詰めており――』

 そのとき、タァンという音が5回、閑散とした住宅街に響いた。あたりが悲鳴と怒号に包まれる。

『ただいま動きがありました! 警察の方たちが一斉に建物の中に突入していきます!』

 直後、2階の窓を突き破り、人の体が投げ出された。

『きゃあーっ!』

 瞬時に画面がスタジオへと代わり、唖然とした表情のアナウンサーが映し出される。

 切り替わる寸前に一瞬映った犯人の頭部は原型を留めておらず、顔面はぐちゃぐちゃになっていた。

 『私はいま、事件の現場に来ていま……』

「おい。おい! テレビを止めろ。……おい!!」

「リモコンが反応しません!」

「ケーブルを抜け!」

「やりましたが消えないんです!」

「機動隊を出せ! テレビを破壊しろ!」


 実験ログ、終了。

 後日、実験に参加した研究員数名が精神に異常を来し、うち1名が行方不明。


 ○o。.ーーーーー.。o○


 見た目は、ごく一般的なカセットテープです。

 1度再生されると、停止することは不可能であり、無限にループ再生されます。


 ○o。.ーーーーー.。o○


 正義とは。

 これは、私の永遠のテーマである。

 大多数のための行動が正義なのか、はたまた、零れ落ちてしまった少数をすくい上げることが正義なのか。

 このテーマの答えを出すために、私は記者になった。

 だが、残念なことに、私には記者としての素質はなかったのだ。自分の信念に基づいて取材をする、というスタイルでは、読者の目を引く記事を作ることは難しかった。

 次第に、私は気づいた。毎日を生きるために必要なのは、信念ではなく、金だ。心では飯を食っては行けない。食い扶持を稼ぐために、私は記事を誇張し嘘を加えるようになった。

 夢というものは、理想というものは、遠く離れた場所にあるからこそ輝いて見えるのだ。近づけば近づくほど、その光の裏にある影がより鮮明に見えるようになる。やがてそれは、自分の足元にまで伸び、抜け出すことのできない沼へと引きずり込んでいく。

 だが、人生というのは良いことも悪いことも上手い具合に訪れるものだ。やさぐれた生活を送っていた私のもとに、ある日、光が差し込んだ。

 それはとある誘拐事件だった。犯人は40代の男性で、当時10代だった少女を、自宅に2週間監禁していた。私はこのニュースを見た時、ただの気持ちの悪い性犯罪者によるものだろう、と大して気にしなかった。だが、その後の取り調べでの男の発言に、私はひどく感銘を受けたのだ。


 「あの子には安心できる場所が必要なんです。あの子が笑って生きられない世の中なんて腐ってる」(被疑者の証言より1部抜粋)


 「私は、自分で望んでおじさんの家に行きました。おじさんは何も悪くありません……!」(当事者による証言より1部抜粋)


 後の捜査で、誘拐された少女は日常的に虐待を受けており劣悪な環境にいたこと、男はネットを通じて少女と出会い、彼女を保護しようとしたことなどが明らかになった。

 私は、テレビの前でこの報道を聞きながら、まるで雷が全身を貫いたかのような衝撃を覚えていた。自分を顧みず、全てを投げうってでも、他者のために尽くそうとする。

 これこそ、私の思い描く正義だった。

 それからの私は、やる気と活力に満ち溢れた、充実した生活を送った。私は、さらなる正義を追い求め、様々な事件を取材した。自ら、事件の現場に赴き、被害者は容疑者の親族、友人を調べ、その背後にある物語を探り、少しの誇張と嘘を加えて記事にした。

 だが、やがて、それでは本当の正義を見ることはできない事がほとんどだと悟ったのだ。だから私は、自ら物語を作ることにした。悪役を作り、悲劇の主人公を作り、その裏にある事情までも……事細かにプロットを組み、事件に仕立て上げた。

 手応えは充分すぎるほどだった。私の書いた記事は注目を集め、私の作った物語は大勢の人の心を動かした。

 だが、私はそれでは満足しない。私の追い求めるものは、金でも名声でもなく、正義とは何か、だ。それを探るために、私は事件の取材を続ける。

 そして、自分に言い聞かせるのだ。

 『私はいま、事件の現場にきている』と。


 ○o。.ーーーーー.。o○


 後の研究により、ビデオテープはループされる度に内容が変化していることが判明しました。

 変化していた部分は、主に2つです。

 1つ目は、43秒時点の発砲音のようなもの。

 2つ目は、動画と動画の間への画像の挿入。

 1つ目の発砲音は、ループされる度に音が引き伸ばされ、不明瞭なノイズへと変化しました。これを解析した結果、発砲音は、複数の人間の呻き声であることが判明しました。この呻き声の数は、動画を再生する度に増えていきます。

 2つ目の画像の挿入は、動画の間に真っ黒な画面が映し出され、ループするごとに表示される時間が長くなっていきました。この画面が表示されている間、電話の音が徐々に近づいて聞こえる錯覚に陥ります。

 また、動画は無限にループされるわけではなく、限りがあることも判明しました。動画は1074回まで繰り返されます。

 以上です。



追記:動画を視聴する際は、通話機能のある電子機器を近くに置かないで下さい。10/20日現在、動画は1093回までループされることが確認されています。また、この動画を視聴した際に生じる精神異常性が他の媒体でも発生するかは、現在調査中です。

 今後も調査を続けてください。

 そして、信念を忘れないで下さい。

 迷った時は思い出すのです。そして、唱えるのです。

 私からあなたへ、魔法の言葉を贈りましょう。



 『あなたはいま、事件の現場に来ています』

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― 新着の感想 ―
[一言] 申し訳ありません。 ゾワッとしそうな気配は感じるのですが、理解力不足で状況がよく分からず、「こわぁっ…!」となることができませんでした。 よろしければ解説いただけると嬉しいです。
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