表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/64

41 エリィとの再会

 その少女は以前のようなローブと仮面姿ではなく、素顔をさらして黒いワンピースを着ていた。髪は綺麗に結われており、頭には前の方につばが付いた帽子を被っている。


「エリィ待ってたよー!」


 蓮也が嬉しそうに彼女の元へ駆け寄っていく。エリィは狼から降りながら微笑みを浮かべた。


「少し時間がかかっちゃった。怪我はない?」


「さっきちょっと燃えたけど、なんとか生きているよ」


 エリィは安堵したように息をつくと、真紀達の方に向き直った。


「マキ……それに、リア。久しぶりだね」


 そう言って、エリィは真紀に向かって手を差し出す。真紀は一瞬戸惑ったが、すぐにその手を握り返した。

 ほっそりとした手は柔らかくて温かく、とても心地がよかった。


「会いたかったよ、エリィ。蓮也の助けになってくれたって聞いたよ。ありがとう」


「気にしないで。私は当然のことをしただけだから」


 エリィはにっこりと微笑む。その笑顔はとても可愛らしく、そしてどこか儚げに感じられるものだった。


「ってゆーか、そのでっかい狼なに?」


 莉愛が怪訝そうにエリィの背後へと視線を向ける。彼女が乗っていた大きな狼は、今は地面にのんびりと寝そべっている。


「守護者、だよ。私達の組織はこういった存在を従えて、魔物と戦うんだ」


 エリィは狼の頭を撫でながら説明する。狼は気持ち良さそうに目を細めていた。


「お疲れ様。休んでいていいよ」


 彼女がそう言うと、狼の姿は霧のように消えてしまった。


「キミが来てくれてほんと助かったよ。あの魔物しつこくてさぁ、もうくたくたになっちゃた」


「お疲れ様。あなた達が無事で本当に良かったよ。でもまさか、こんな場所にまで魔物が出てくるなんてね」


「それ。さっきは町の方にも現れて、大変だったんだよ」


 蓮也の言葉に、エリィは深刻な表情を浮かべる。


「最近、魔物の動きが活発になっているものね。それだけ魔女の力が強くなっているということだけど……その早さが、こちらの想像以上だわ」


 彼女はそう言って目を伏せる。

 先程戦った魔物は、真紀達が今まで戦ってきた中でもかなり強力な存在だった。今後もあのような敵が現れるとなると、かなり厳しい戦いを強いられることになってしまう。


「……あ、そうだ。恵子達はどうなっているんだろう」


 真紀が思い出したように声を上げる。魔物に襲われた時に二組に分かれることになったのだが、その後どうなったか確認できていないのだ。

 ルクスや隆弘も一緒なので大丈夫だとは思うのだが、やはり心配である。だけどその直後に、少し離れたところからぱたぱたと誰かが走ってくる音が聞こえてきた。


「真紀ー!」


 やってきたのは恵子だった。彼女はにこにこしながらこちらへ走って来て、その後ろから隆弘やルクスもやってきた。


「恵子! よかった、無事だったんだね」


「うん、大丈夫だよ」


 恵子は明るく答える。しかし、すぐにエリィの存在に気づいて不思議そうに首を傾げた。


「あれ……その子は?」


「ああ、彼女は──」


 真紀が説明しようとすると、エリィは一歩前に出て口を開いた。


「初めまして、私はエリィ。あなたが聖女ね。会えて嬉しいわ」


 そう言って彼女は嬉しそうに目を細めた。恵子は困惑しつつも同じように笑顔を返そうとしたが、そこに隆弘が割って入る。


「おいなんだよお前。こいつに馴れ馴れしく話しかけんな」


 隆弘は不機嫌そうにエリィを睨み付ける。その態度と口調は明らかに友好的ではないものだったが、彼女は全く動じていない。


「ごめんなさい、少し不躾だったね」


 エリィは冷静な口調でそう返す。隆弘はちょっと気まずそうに頭を掻いたあと、改めて彼女に向かって問いかける。


「で、お前は何なんだよ」


「彼女は深淵の民の子だよ。前に僕があいつらに捕まっていたところを助けてくれたのが、この子なんだ」


 蓮也が隆弘に説明すると、彼はジト目でエリィを眺めた。


「こいつ、信用できんのか?」


「それは僕が保証するよ」


「お前の保証なんてアテになんねーだろ」


 隆弘は不満そうに文句を言う。彼女の方は特に気にした様子もなく、ただ静かに隆弘を見返していた。


「……少しいいかな」


 そう言って、隆弘とエリィの間に入ったのはルクスだった。彼女は隆弘を宥めるように微笑むと、エリィの方を向いた。


「はじめまして、エリィ。私はルクスという者だ」


「ルクス……じゃあ、あなたが」


「あれ、もしかして二人ともお互いを知っている感じ?」


 蓮也がきょとんとした表情で問いかける。


「そんなところかな。色々と話したいことがあるんだけど、そろそろ一雨来そうだし、場所を変えた方がいいかもね」


 空を見上げると、いつの間にかどんよりと雲が広がっていた。風も強くなってきていて、遠くの方から雷鳴の音まで聞こえてくる。


「なら一旦町に戻りましょう。私もう疲れちゃったわ」


 莉愛がうんざりした様子で言う。他のみんなも同意して、急いで町に戻ることになった。




 町に戻ると、大勢の住人が目を輝かせて駆け寄ってきた。


「あの子達よ! 魔物を倒してくれたのは!」


「俺も見たぞ。すげー魔法だったな」


「あの時は助かったぜ! ありがとうよ!」


 彼らは口々に感謝の言葉を言いながら握手を求めてきて、真紀達は戸惑いながらもそれに応じた。


「こんなに感謝されるなんて光栄だなあ。もっと崇めてくれてもいいんだよ?」


 蓮也がいたずらっぽい笑みを浮かべて言うと、近くにいた女の子達がなぜか黄色い声を飛ばした。彼らはみんな笑顔で、心から真紀達を歓迎してくれているみたいだった。

 だけどもうすぐ雨が降ってきそうだし、ひとまず建物の中に入った方がいいだろう。


 一行は宿屋へと戻り、そこで一息つくことにした。

 ルクスはエリィと二人で話したいことがあるらしく、彼女を連れて食堂の方に向かっていった。二人でお茶をしながら、色々と積もる話をするようだ。


「僕だって彼女とは話したいことがあったのになー」


 蓮也が不満そうに呟く。真紀達も、少し離れた席でお茶をしながら、彼女達の様子を見守っていた。


「あの子がいなかったら、私達も今頃どうなっていたか……」


 真紀は遠い目をしながら呟く。この世界に来たばかりの頃、いきなり深淵の民と遭遇して大変な目に遭った。あの時のことを考えると今でもゾッとしてしまう。本当に、エリィがいてくれて良かったと思う。


(でもあの人達が蓮也を捕まえた理由が……未だによくわかんないんだよね)


 蓮也は真紀と同じく、ただの一般人のはずだ。なのになぜ、深淵の民は彼を捕まえようとしたのか。その具体的な目的は一体なんだったのだろう。


(エリィに聞けば、何かわかるかな?)


 真紀はちらりとエリィの方へ視線を向けた。エリィは真剣な顔をしてルクスと会話をしているが、時々表情をやわらげて笑い合ったりもしている。彼女達はとても親しげな雰囲気だった。

 やがて二人は会話を切り上げると、こちらの方へ戻ってきた。


「待たせてすまないね」


 そう言って微笑んだルクスは、少し疲れている様子だ。


「大丈夫ですか?」


 心配になって真紀が声をかける。ルクスは苦笑しながら肩をすくめた。


「ここ最近の魔物の活発化について、もっと調査をする必要があるんだ。それに、深淵の民が何を考えているのかも気になるところだ」


「そっちのそいつも深淵の民なんだろー? 何か知らねーの」


 隆弘がエリィを指さして言う。彼の言葉に、エリィは首を横に振った。


「申し訳ないけど、私も詳しいことは知らないの」


「あ? んだよ使えねー」


「香坂くん、落ち着いてよ」


 恵子がやんわりと隆弘を諌める。隆弘は不機嫌そうにそっぽを向くが、莉愛にも睨まれてしまったのでそのまま黙り込んだ。


「とにかくそんなわけで、私は再び魔物達の動向を探ることにしようと思う。だからあなた達との旅は、ここで中断という形になるかな」


「え、そうなんですか?」


 恵子は残念そうに声を上げる。


「元々、目的地が同じ方角だったから同行しただけに過ぎないからね。私も寂しいけれど、あなた達はこれまで通り旅を続けなさい」


「はい」


 ちょっぴりしゅんとしながらも、恵子は頷く。


「そんな顔しないで。いずれまた会えるよ」


 励ますようにルクスは言うと、今度はエリィの方へ視線を向ける。


「あなたとお喋り出来て楽しかったよ。また会える日を楽しみにしてる」


「ええ。私も」


 二人は微笑み合い、ゆっくりと握手をする。それからルクスはもう一度真紀達の方に向き直った。


「それじゃあ、私は一足先に部屋へ戻るよ。明日は朝一番に宿を出る予定だから、今の内に休んでおきたいんだ」


「はい……お疲れ様です」


 真紀がねぎらいの言葉をかけると、ルクスは頷いて食堂を後にした。


「なんか、寂しくなっちゃうね。ルクスさんは強かったし、色々教えてもらったから……」


 恵子がぽつりと呟く。隆弘もそれに関しては同感らしく、黙って頷いていた。


「ルクスさんとは何の話をしていたの?」


 蓮也がエリィに尋ねた。彼女は空いている椅子に腰掛けながら答える。


「父さんのこととか……色々とね」


 エリィの表情はどこか憂いを帯びていた。けれどそれもほんの一瞬のことで、すぐに真剣な面持ちになる。


「ねぇ、レンヤ。あなたに……いえ、あなた達にお願いがあるの」


 彼女はそう言うと、一呼吸置いてからゆっくりと続きの言葉を口にした。


「あなた達の旅に、私も同行させてほしい。あなた達の力になりたいんだ」


 突然の申し出に、真紀達は困惑してしまうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ