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26 襲撃

「香坂くん! それに、恵子も」


 真紀は驚いて声を上げる。


「どうして二人がここにいるのよ?」


 莉愛が不思議そうに尋ねると、クレアがひょっこりと顔を出した。


「あたしが呼んだんだよ!」


 彼女は得意げに飛び回る。

 そう言えばいつの間にかいなくなっていたが、どうやら恵子達に助けを求めに行ってくれたらしい。


「真紀、怪我してるの?」


 恵子が大慌てで真紀の側まで駆け寄ってくる。


「今回復するね」


 恵子が杖をかざすと、優しい光が真紀を包み込んだ。痛みが少しずつ引いていくのを感じる。


「ありがとう、恵子」


「つーかこいつなんだよ。変なカッコしやがって」


 隆弘はそう言いながら、黒いローブの男を足で軽く蹴飛ばした。

 男は気絶しているのかピクリとも動かない。隆弘は彼を見下ろしながら首を傾げていたが、すぐにその正体に思い至ったみたいだ。


「あ、こいつもしかして深淵の何とかって奴? 怪しすぎんだろ、仮面とか」


「深淵の民だよ。キミ達が来てくれて助かった。ありがとう」


 アルベルトが素直に礼を述べると、隆弘は偉そうな態度で頷いた。


「まーな。それより、こいつどうする?」


「この人には色々と聞きたいことがあるの。目を覚ました時の為に、拘束しておきましょう」


 真紀の提案に他のみんなも同意する。

 隆弘はニヤリと笑って男を見下ろした。


「じゃあさ、とりあえずこいつの顔拝んでやろうぜ。こんな仮面で顔隠してるんだし、どうせすげー不細工なんだろ」


 隆弘はそう言いながら、男の素顔を暴こうと仮面に手を伸ばした。

 しかしその時、男は突然起き上がると隆弘に向かって魔法を放った。


「うおッ!」


 隆弘は咄嗟に回避したが、体勢を崩してしまう。そこへさらに男の追撃が襲い掛かる。だが恵子が素早く結界を張り、隆弘を守った。


「香坂くん、大丈夫?」


「ああ、悪い」


 恵子に助け起こされた隆弘は、慌てて剣を構えた。


「まったく、不意打ちとは卑怯な真似をしてくれる」


 男は忌々しそうに呟いた。


「んだよ、やる気か? さっきは一撃でやられたくせに」


 隆弘は鼻で笑ったが、そんなわかりやすい挑発に乗るほど、この男は愚かではなかったようだ。


「すまないが、私にはキミと遊んでいる暇はないのだよ」


 男はそう言うと、片手を前に突き出した。そこから凄まじい突風が発生し、隆弘に襲いかかる。


「うわっ!」


 吹き飛ばされ、地面に転がった隆弘を男が嘲笑う。

 けれど先程の言葉通り、男には隆弘を相手にするつもりはないようだ。彼はすぐにアルベルトの方へ向き直ると、静かに言った。


「なかなか楽しませてもらったよ。だが、あいにくと私は忙しい身でね。そろそろ失礼させてもらうとしよう」


「逃げるのか? まさか、この人数に怖気づいたとか?」


 アルベルトが挑発するように言うが、やはり男は乗るつもりがないのか、特に反論することもなく淡々と告げる。


「キミ達の足止めも十分出来たことだし、ここで引かせてもらうよ」


「どういう意味だ?」


 アルベルトが尋ねると、男は肩をすくめながら答える。


「実験は順調に進んでいる、ということだ。そろそろ終わる頃だろう」


 真紀達は目を見開いた。

 アルベルトも驚きを隠せない様子で、さっと顔を青ざめさせる。戦っている間に、あの魔法陣のあった場所から引き離されてしまったようだ。

 彼らの様子に隆弘や恵子は首を傾げていたが、アルベルトがすぐに「急ごう」と促したことでその疑問は後回しにされた。


「早く戻らないと、大変なことになる!」


 アルベルトが焦った様子で言った。


「なんだよ一体、そんなにやばいのかよ?」


 隆弘は怪訝そうな顔で尋ねる。


「つーか、あいつ実験がどうのって言っていたけど、それってなんかやべーの?」


「彼らは魔物から魔女の力を抽出しようとしているんだ」


「抽出?」


 今度は恵子が首を傾げる。


「それって何か悪いことなの?」


「その実験そのものより、それによって引き起こされる結果の方が問題だ……魔物を倒した時、黒い霧になるのは知っているね?」


「うん。でも、それがどうかしたのか?」


 真紀が尋ねると、アルベルトは歩きながらも険しい表情で答えた。


「あれは魔女の魔力が視覚化したものだよ。本来ならあの霧は、この世界へ溶け込んですぐ消えるようになっている。けれど、彼らは魔物を倒さずに魔力だけを奪い取ろうとしている。それは、魔女を挑発する行為だ」


「挑発ってどういうことよ?」


 今度は莉愛が不安げな表情で尋ねると、アルベルトは表情を曇らせながら答える。


「魔女の怒りを買うかもしれないということだよ。手下をよこして邪魔をしに来ても不思議ではない」


「手下って、つまり魔女の影が来るってこと?」


 最悪な事態を想像して真紀は震えた。

 もしそうだとしたら、このまま放置するわけには行かない。魔女が何かするより前に、一刻も早く実験を阻止せねば。


 ――耳をつんざくような轟音が響き渡ったのは、その直後のことだった。


「!?」


 一行は驚いて足を止めた。何か良くないことが起こったことは明白だった。


「なんだ今のは!?」


 隆弘が叫ぶ。


「早く行こう!」


 アルベルトの言葉に、一行は頷いて駆け出した。

 彼らが実験の場所へ辿り着くと、そこにはすでに魔女の影が佇んでいた。魔女の影は待ち構えていたかのように真紀達を見てニヤリと笑う。


「ふむ、どうやら現れたらしいな」


 ローブの男が後ろからゆっくりと歩いて来た。妙にカッコつけた言い方をされたので、莉愛と隆弘が揃ってしかめっ面になる。


「実験の方も、十分な成果が得られた。もうここに用はない」


 男は満足そうに呟くと杖をかざす。どうやらこの場から立ち去るつもりでいるらしい。


「ちょっと待ってよ、あいつを放っておくの?」


「その為にあの人間どもを用意したのだ。彼らを痛めつければ、魔女の影も満足するだろう」


 男の足元から黒い渦が巻き起こり、その体を包み込んだ。

 そのまま男が闇の中に消えると、部下と思しき他の男達もいつの間にか姿を消していた。

 後に残されたのは魔法陣に閉じ込められたままの魔物、檻の中の野盗達。そして、黒いドレスを身に纏った魔女の影。

 彼女がパチンと指を鳴らすと、魔物を封じていた魔法陣はかき消えた。


「グオオォォォ」


 解放された魔物達が怒り狂ったように雄叫びを上げる。

 人間では到底敵わないであろう巨体が凄まじい勢いで突進してきた。魔力を吸い取られたとはいえ、そこまで弱ってはいないらしい。

 真紀達は慌てて魔物の攻撃をかわす。しかし相手の数も多く、さらに魔女の影も襲って来る。


「このままじゃまずいぞ!」


 隆弘が焦った様子で叫ぶ。

 だが、魔女の影の目的は真紀達ではなかった。彼女は檻の中の野盗達を見据えると、そちらに狙いを定めたのだ。


「まずい! このままだと彼らが危ない!」


 アルベルトは焦った様子で言った。だが魔女の影が動く方が早かった。影の手が檻の中に向かって伸びていく。


「やめろ!」


 アルベルトは剣を振りかざした。しかしそれは、魔物によって阻まれてしまった。


「う、うわあああああッ!」


 檻の中の野盗達が叫び声を上げる。


「助けてくれぇ!」


「誰か、誰かああッ!!」


 野盗達は必死にもがくが、檻はびくともしない。あんな小悪党ではあるが、このまま見殺しにするのはさすがに気が引けた。

 真紀は指輪から杖を出現させると、魔女の影に向けて魔法を放った。


「えい!」


 炎の塊が魔女の影に直撃する。

 すると彼女はゆっくりとこちらへ振り返った。邪魔をするなとでも言いたげな、冷たい眼差しが真紀を射抜く。


「ッ……!」


 その瞳に、思わず体が竦んでしまう。

 しかし真紀は勇気を振り絞ってもう一度杖を振るう。


「いけぇッ!」


 真紀の魔法は、今度は避けられてしまった。魔女の影はふわりと宙に浮くと、そのまま上空へと逃れる。


「くそ、逃すかよ!」


 隆弘は叫ぶと後を追いかけて跳躍する。

 だが魔女の影は隆弘の攻撃を華麗に避けつつ、地上に向けて手をかざした。


「やばっ……!」


 狙われているのは莉愛だ。咄嗟に恵子が杖を構えて防御魔法を展開させる。莉愛の目の前に光の膜が出現し、魔女の影の攻撃を防ぐ。


「ど、どうすればいいのかな」


 恵子が焦った様子で呟く。すると、アルベルトが恵子を庇うように前へ出た。


「このまま闇雲に戦うのは危険すぎる。何とかして隙を作らないと」


 アルベルトは冷静に周囲を見回す。

 今戦うべき相手は魔女の影だけではなく、実験に使われていた魔物達もだ。かなり興奮している様子で、想像していた以上に厄介な状況かもしれない。


 アルベルトは険しい表情で白銀の剣を構える。

 真紀達一行もそれぞれの武器を手にして、魔物達へと立ち向かっていくのであった。

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