今では、そして、これからは。
布団の、あるいは別の、じぶんだけ、その場所。
動けない?動きたくない?体が動かない。
手も、足も、力は入る、確かに神経が通っているのを感じる。
それでも
身体の座標は一ミリも変化していない。シルエットすら。
ただ疲れただけなのだろうか。ご飯は、さっき食べた。
ご飯を食べたあと、眠くなる。眠たいから、動けない?
いや違う。そんな、そんなに、いやでも、やっぱり。
もっとわかりやすい。
他人と、あいたくない。関わりたくない。知り合いたくない。誰とも、そう、だれとも。
昔から、誰かと仲良くしようと、自分なりに努めてきた、自分なりに。
例えば何をしたというのか。
他の人がやっていることを自分もやろうとした。でも、君はやってはダメ、だと。
例えば、嘲笑われていると思って癇癪をおこした。
そんなことでと、言われる。
例えば、仲良くなりたくて話しかけた。
声が聞こえる、うざい、はなしかけてくるな、って。
昔から、たぶん、うまれたときから、能力が低かった。
体育は顕著に、そして本当に残酷に、それらを描写していた。
同じチームになった他人に、明らかな負の表情を浮かばせて。
君のせいで、君がいたから、か。
勉強は、すきだった。だったのだ。
でも、だった。今は違う。できても、なにもできない。そんな人間。
どうしたら、ぼくも、みんなと仲良くなれたのだろう。みんなみたいに、学校が楽しいとか、お泊まり会したりとか。
どうして、ぼくはひとに迷惑をかけるだけの存在になっているのだろう。
癇癪は、相手するのは面倒だ。間違いなく。親が、きょうだいが、そうだ。
気に入らないことがあれば、感情の制御がきかなくなる。どうしても、きかせれなくなる。でも、みんなはそんなことない。できているのだ、自分の制御を。
鉄棒だって、登り棒だって、雲梯だって、みんなはもとからできていた。
ぼくには、なんで、どうしたら、わからない。
どうしてみんなはできるんだろう。
どうしてぼくは役立たずなのだろう。
明らかに、僕に向けての負の感情が、でも周りには向かない感情が、その周りから、そして、そのどれよりも、それらを合わせたものよりも強いものが、自分自心からも、向けられる。たくさん、たくさん。
わかっている。僕は、明らかに、迷惑行為を重ねている。
すぐに癇癪をおこすし、すぐに動けなくなるし、協力してなにかすることができないし、すぐに大声を出してしまうし。
わかっていたら対処できると?
わかっているから、わかっているからって!
できなかった。
僕には結局、なにも、できなかった。
あるとき、意図的に、胸を狙われた。ドアノブを、思いっきり。
ちょっとは動けた。着替えの前まではいけた。
そこから、動けなくなった。
でも、笑われた。そして、呆れられた。言われた。
それもどうせ嘘でしょ?って。
すぐに癇癪をおこす人間。ちょっとこけただけでも大泣きする人間。迷惑なことは、「要らない」人間だってことは、みんなの反応からわかりきっていた。
いつも呪ってやると口にしていた僕を。
ぼくも、みんなみたいになりたかった。強くなりたかった。でも、できなかった。
どうしたら、よかったのだろう。いや、どうして、みんなはできていたのだろう。
ぼくにたりなかったものは、なんだったのだろう。
心だけの問題なのだろうか、本当に。
気の持ち方だけで、みんなになれたのだろうか。
じゃあ、どうして感情の制御をできないのか、わからない。ぼくだって、優しくなりたいんだ。でも、だめだった。泣いてる人がいたら、変顔して無理やり笑わせたりとか、してみた。それでも、みんなにはなれなかった。みんなみたいに制御できる人間には、なれなかった。
冗談というものを理解できるようになったのは、それらのもっと後だった。先生に、冗談がわからないことを呆れられた少年は、それが、とても、辛かった。
やっぱり、欠陥人間なんだ、と。
何が冗談で、何が本当なのか、わかる人たちが羨ましかった。
それまで、すべてをそのままに信じていた。真っ直ぐだった。真っ直ぐに、ただ正直に。
みんなが、みんなだったのは、その冗談というものを理解し、操っているからだと、わかったのは更にその後だった。
僕は真面目だった。だから、なにかあると直ぐに先生に言いにいった。ふざけて遊んでいる人がいるけどいいのか、と。
みんなにはチクリ魔といわれ、先生にも面倒くさがられた。
ここまであって、なぜ、僕は生きているのか。
どうしてだろう、明らかに邪魔な存在ではないか。
どうみたって、そうだろう?
死のうとした。首に体操服を巻き付けて締めようとしたり、洗面器に水を張って顔を漬けてみたり、体操服を上に引っ掛けようとしたり、窓から飛び降りようとしたり、車に轢かれようとしたり。
逆に、人に刃物をむけたり、首を絞めたりして殺そうともした。
どちらも、できなかった。
自殺は、根性が足りなくて。殺人は、自分の中の、正義感で。
人に殺意を向けて行動していても、正義感はあった。
だけど、殺意を向けて行動している時点で、あろうがなかろうが関係ない。
また、「要らない」理由が増えただけだ。
昔、自分のことを、他の誰よりも「不必要」だと思っていた少年がひとり、いた。
親にはからかわれ、ともだちにはうざがられ、先生には呆れられ。
それでも、仲良くしてくれる、遊んでくれる人。
それでも、何が正しいことなのか、なんでだめだったのか、わからせてあげとうと、親身になってくれる人。
そんな少年は、つくづく感じていた。
自分は周りの人に恵まれている。
いつかは、自分も。
「あー、めんどくせー」
スマホのアラームで、仕方なく起き上がった俺は、とりあえずシャワーを浴びるか、また寝るかの二択で悩んでいた。今日はほんとは何処かに買い物にでも行こうかと思っていた。
「ひまだしなあ」
メッセージアプリで友達に、ひまか?、といつものように。
ひまやでって帰ってきた。
ラッキー、通話の相手してもらうか。
「あれよかったよな」
「ああ、前言ってたやつ?」
他愛のない、だけど、明るさが、楽しさが、滲み出ている、そんな会話。
「全く関係ないけど、今日ピザ食ったわ」
「いいもんくってんじゃん。ええやん」
「いいの?俺様如きがピザ食ってもいいの?」
「いいんじゃないの?てか俺様キャラなのになんでそんな下にしてるのよw」
「だって俺様だよ?」
「そうですかwいやどういうこと?w」
「まあ、そういうことですよね」
「たしかに!」
「「wwwwwww」」
冗談なんかも、混じえつつ。
青年は、自分のことをおっさんだと思っている二十代前半の男だ。ちょい細身の。
そんな男には友達が何人か、いる。
よく話したり相手してくれる友達が。
通話ではよくゲラゲラわらっている。
遊びに行っても、おそらくかなりはしゃいでいる部類だ。よっぽど、楽しいのだろう。
そんな男は、よく無気力になり、布団から動け無くなる。恐らくは、布団から出たくないだけ、それ以上の理由はないのだろう。
きっと、今は。そして、これからも。