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ルルちゃんとずっとチャットでつながらなかったことはなかったから、焦燥感がつのってくる。つながらなくて、このままチャット出来なくなるのはイヤだなと思った。
ルルちゃんがくれた写真画像をディスプレイいっぱいに引き伸ばして、ため息をつきながら眺めた。
真っ赤な顔をしてふんわり笑って斜めにこちらを見ている。思いのほか可愛かった。ルルちゃんのアバターは精霊だが、イメージは近いかもしれない。主張の強そうな感じはしない。
なんでTDGに出てこなくなっちゃったんだ?
オフ会に行きたがらないのは、顔に自信がないとかスタイルに自信がないとかじゃないよな。可愛いと思うし……。
ルルちゃんの笑顔をじっと見ていたら、右耳からイヤリングが見えた。イヤリング? イヤリングじゃない。なんだろう? 耳の穴に詰めてる? 耳の後ろからはみ出て見えるものが、ちょっと丸いフォルムで黒地にキラキラしたビーズが模様を描いている。
うん? イヤホン?いや、違うな。補聴器……か……?
補聴器ってこんなにキレイなモノだったっけ?
思わず思考が明後日の方に飛びそうになった。そのくらい意外性が強かった。イヤリングみたいにオシャレだった。
イヤイヤ、耳が悪いのか……?
自分の発見に混乱して、改めて衝撃を受けた。頭が真っ白になった。
ウソだろ……?
いまさらだけど、俺、ルルちゃんに特別な気持ちを持ってたみたいだ。いつか、ルルちゃんがオフ会に参加して、じかに話をして、そのまま付き合っていけたらいいなと思った。それは、いわゆる音声で語り合うやつで……。そう、夢想してたさ。
なのに、補聴器を見つけたとき、驚きと戸惑いが先立って、狼狽える自分がいた。
ルルちゃんが聞こえない人だとわかった時、いろいろ腑に落ちた。だから、オフ会に参加できないんだ……と納得した。
ギルドチャットには参加する辺り、交流を嫌がっているふうではなかった。
ルルちゃんがTDGに来なくなったのは、ルルちゃんの隠しておきたかったことをあばかれてしまったと思ったからだろうか。
ようやく一歩前進したかと思ったら、アッパーカット食らわさられて逃げられた気分だ。
どうすればいいんだろう。
聞こえない人がまわりにいなかったから、どう対応すればいいかわかんねぇや。
手話か? 無理だよ、俺。英語もダメなのに……。
本当、どうすればいいんだ……。
混乱してわけがわからなくなってしまい、思考停止してしまった。