6
ルルちゃんとのギルチャを終えると、足指の痛みが途端に増幅したようにジンジンしてきた。
痛み止めが切れてきたのかもしれない。
片足でケンケンすると痛みが響くのでそろそろと固定具の踵に体重をかけて歩いて、処方された薬を置いている流しまでいく。
蛇口をひねってコップに水を満たすと、痛み止めの薬を口に含んで水で流し込む。
やれやれ、とんだ週末だとため息をこぼして流しにもたれていたら、尻ポッケのスマホが振動した。
ディスプレイをみるとオークだった。
『もしもし…』
『おっ、オーク。ルルちゃん、誘えたよ!』
『おっ?』
『ギルチャならいいって。ということで、ギルドオフ会はパソコン持参で宜しく』
『お、おう』
『で、なに?』
『……いや、もういいわ…こちらから電話しといてなんだけどさ。とりあえず、今晩な』
『おう、ギルドオフでな』
変な間があったが、ルルちゃんを誘えたということでテンションが上がっていた俺は気にも止めなかった。
オークの電話が終わってスマホを尻ポッケに戻そうとしていたら、また、スマホが振動した。
あれ~、今日はよくかかるなぁ。
しかも知らない番号だ。
『もしもし?』
『あ、大上さんですか?高木です』
『高木さん?』
どっかできいたような…?この声もきいたような…?
『高木公香です。父がお世話になりまして』
『あ!あぁ、専務の…』
すっかり忘れていた。そうだった。専務のお嬢さん…。
ハイテンションがスルスルと通常化していく。
『そうです、そうです。さっき、大祐兄さんに聞いたんですけど、なんか集まりあったのに、お怪我のせいで行かれなくなったと』
大祐?だれだ?
『本当にすみません。楽しみにされていたんですよね。なんなら付き添いでも』
『あ~、大丈夫、大丈夫!!』
『だって…』
『現地にはいかないけど、パソコンで参加できるんで、むしろ、楽しみなんだよ。新しい試みなんだ』
『そうなんですか。何か不自由があれば何なりとおっしゃってくださいね』
『たかが小指の骨折なんだ。そんなに責任を感じなくてもいいんだよ』
『骨折は骨折ですよ。ちゃんと治さないと。父からもよろしくといっていますし』
『はぁ…まぁ…』
『次回の受診の後、お時間ありますか?』
『来週の土曜日?今のところとくには…』
『是非、ランチをご一緒させてください』
『はぁ…ランチ…』
いつのまにやら再診の後、ランチまで確定してしまったようだ。
いかん、俺、流されてる?
公香さんは早々に電話を切ってしまった。
あっけにとられてしまったが、ちょうど薬が効いてきたようで足の痛みが引いてきた。
そうすると、現金なもので頭はオフ会のことで占められていった。
オフ会までに時間があるので、休み中ではあるが上司の携帯に連絡をいれた。仕事の経過と怪我したことを報告するためだ。
接待中の怪我ということだから労災が降りる可能性があるといわれた。それにともなう手続きや今後の営業活動についての見直しについて等と上司の話に相づちをうちながら、たかが骨折されど骨折、こんなに面倒でおおげさになるとは思わなかったとゲンナリする。
『怪我の功名かね、大上くん。大型契約をもぎ取ってきてくれたから打ち上げをしたいものだが、怪我じゃアルコールはしばらくダメだねえ。残念だよ。また、折を見て機会を作ろう』
誉めてるのだかけなしてるのだかわからない上司の慰めは左から右だ。
時間をみるとまだ昼前だ。バタバタしていたにしては色々あったな。
寝不足もあったしそのままベッドへダイブして寝落ちた。