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カーテン越しに朝日が射して明るくなってきた。
痛みが引かず、うとうとしただけであんまり寝られなかった。
朝イチに病院へ連れていってくれるのは正直ありがたい。このまま帰宅していたら、自力で病院へ行けたか自信がない。モソモソと布団の中で寝巻きを脱いでいたら、ふすまの向こう側から足音が聞こえて手前で止まった。
「おはようございます、大上さん? 大丈夫ですか? 朝ごはん用意ができています」
遠慮がちな奥さんの声が聞こえた。
「あ、おはようございます。起きてます。着替えたらいきます」
あわてておきあがり、身支度して、布団をなんとか片付ける。よいこらせと、小指を浮かせて歩いていくと専務がもうテーブルについていた。
「やぁ、大上くん、おはよう。夕べは悪かったね」
「専務、おはようございます。ご気分は大丈夫ですか?」
「まあまあ、座りたまえ」
すすめられて向い合わせの椅子にすわると、奥さんがみそ汁、ご飯、鮭、おつけものを並べてくれた。遠慮なくごちそうになった。
「すまんな、足を怪我したんだって?」
「あ~、まぁ……」
「アレが連れていってくれるんでな。申し訳なかった」
「いやいや、専務がそこまでおっしゃることは……」
「酔っていたとはいえ、責任はかんじてるんだよ、大上くん。アレに朝から怒られてなぁ」
「えぇと、アレ?」
「娘の公香だ。治るまで送迎するといっている」
「イヤイヤイヤ……今日はともかく、それ以降はお構いなく」
「わしの顔を立てると思って、治療費は任せてくれ」
「そんな、大げさな……」
気がついたら、病院の会計。専務のお嬢さんの公香さんが支払いを済ませていた。
「大上さん、やっぱり小さいとはいえ骨折でしたね。本当にすみません。来週もお迎えにいきますので」
「公香さん、それはもういいんですよ。俺のうっかりだったんで。だから自分で行きますよ」
「こうでもしないと……」
「え?」
何かいったようだったが声が小さくて聞こえなかった。
「治るまででいいですので、送らせてください」
……え? ええーーー?
な、なんでこうなった?
勢いに押されて返す言葉がなく、来週も迎えと付き添いで公香さんが来ることになってしまった。
父親のせいで娘が責任をそこまで感じる必要はないだろう、と思っていたのに。
病院から借りた松葉づえを慣れないながらもつきつつやっとのことで帰宅したら、オフ会のことを思い出した。パソコンに向かい椅子に座ったとたんに、専務のことも公香さんのこともきれいさっぱり忘れてしまった。
オフ会に、この足じゃあなぁ。連絡してキャンセルしないとな……。
ひとりごちてTDGにログインすると、昨夜のギルド戦の結果がギルチャで書かれていた。
ルルちゃんのお陰で勝てたんだぁ……。
ん~。
あ、そうだ!
ギルチャを閉じて、オークに電話する。
『うす。昨夜はゴメン。間に合わなかった』
『まぁ、仕方ないよ。それでどうした?』
『今日、ギルドオフ会あるじゃん?俺、行けねぇんだわ』
『お?どうした?珍しいな』
『いや、ちょっと足指を骨折しちゃってさ、歩くのに色々支障があるのよ』
『それはまた……それって、昨日の怪我なんか?』
『あ~、うん、まぁ…。
それより、オーク、現地参加は出来ねぇけどオンライン参加はありかな?』
『オンライン参加?』
『うん、PC持ち込んで遠隔参加するみたいな』
『あ、ああ、いいじゃないの』
『これなら俺も参加できるし、もしかしたらルルちゃんも参加するかも?』
『あ~。どうだろうな、俺、誘ったけど秒で断られたよ』
『は?オーク、何やってんの?誘うのは俺なの』
『いいじゃないの、誘うくらい…器のちっちゃいヤツは嫌われっぞ』
『とにかく、ギルドオフ会にはPC持ちこみな!』
『ハイハイ』
オークとの通話をきると、TDGのオフ会の幹事にはキャンセル連絡をする。
なんだかんだいっても、俺はオフ会が好きなんだな。ルルちゃんがかたくなになる訳も知りたい。誘い続けて全敗中だけど、ギルチャは普段からしてるから、あわよくばスカイプやラインで初顔合わせ出来るかもしれない。
心の中で拳を握りしめて、早速、ルルちゃんにチャットする。