2
TDGを始めて2年。
ルルちゃんことテルーちゃんをギルドに連れてきて少しずつ馴染ませてきた。
馴染んできたと思うんだけど、なんというか、距離感がある。
ルルちゃんは欲がないというか、自分からこうしたいという主張が全くないのだ。かといって、無愛想な感じはしない。コツコツやっているからそれなりにレベルがあがっているんだけれど、自分に得するようなやり方はしない。いつも仲間が得するように参加するか、あるいは一歩ひくか。
俺がギルチャで愚痴って、うざがられたかな、と思ってたら、ずっと反応がなかったルルちゃんから『大変だったんですね。でも、どうかしてこなしてるウルフさん、スゴいですよ』って返ってきたんだよ。
あん時は本当にストレスフルでイライラもしていたんだけど、ルルちゃんに聞いてもらったら、なんかこう、落ち着いてくるっていうのかな、だんだん冷静になってくるっていうか……。そうすると、自分がイライラしていたことが些末なことのように思えてくるから不思議だ。ああ、いい子なんだな……って。ルルちゃんはまじで天使だよ。
ギルド仲間もみんなルルちゃんのファンだ。そんなに強くもないけど、回復系だけにみんな癒されている。癒されているんだけど、どんなにオフ会に誘っても断られてしまう。
なんでだ。
俺たちが会いたいと思うようには、会いたいって思ってくれないのか。
この2年でルルちゃんについてわかったのは、K県の会社員で入社4年目ってことくらい。あ、A県出身とかいっていたな。たまに、アリスがルルちゃんとチャットで話が盛り上がったりするらしいが、内容が本の話だったりする。俺は本はよまないからさっぱりだ。
そうそう、アリスはルルちゃんが珍しくイベントに参加した時にランダムであたってペアを組んだらしい。それがきっかけでルルちゃんがアリスとたまにペアで参加することもあるんだとか。ギルドではルルちゃんとアリスがよく協力している。まぁアリスも回復系妖精だからなぁ。アリスというから女子だよなあと思っていたのに、フリーターの若いヤツだった。ギルドオフ会で初めてあった時は、マジで聞き返したよ。えらくキレイな兄ちゃんだった。
「テルーさん、オフ会にこないですねぇ」
「俺が説得するよ。絶対つれてくる」
「あんまり無理じいしないでくださいよ~」
その日のオフ会は、いかにしてルルちゃんをつれてくるかで盛り上がった。
いつものようにTDGの新イベントがはじまった。どんなに忙しくてもログインだけはしてチェックするようにしている。今日も遅くなったけれど、帰宅すぐにログインしてみれば、ルルちゃんがもみじ川で探検しているのを見つけた。
早速、新イベントのペアお願いにいく。
やんわり断ろうとするルルちゃんに、必死でお願いする。たまたま前のイベントで武器をこわしてしまったことを理由にして同情をひく。
案の定、ルルちゃんはペアを快諾してくれた。
武器を交換できるくらいのポイントを稼ぐのは30分あればいい。終わったあと、ギルドオフ会にルルちゃんを誘ってみた。頼む。うんって言ってくれ。
結果は惨敗。
『ごめんなさい。ちょっと無理です』
って、吹き出しがついた。
『みんな愉快なヤツばかりよ。もしかして、たくさんの人に会うの、苦手とか?』
めげずに聞いてみたら、少し沈黙があった。
『そうなんです。たくさんの人に会うのは苦手で…。だから、いままで断ってきました』
言葉を選ぶようにためらうような吹き出しが現れる。
参った……。それなら一対一ならどうだろうと誘ったら、返事がない。
ダメだ……。
ここは引こう。
『ルルちゃん? あ、もしかして、警戒させちゃったかな。そうだよなぁ、ごめん。俺の勝手な希望』
『ウルフさんが悪いわけじゃないんです。私が…』
『私が誰にもリアルで会いたくないんです…。ウルフさんだけじゃなくて』
ルルちゃんの吹き出しが続く。それが辛そうにみえた。ルルちゃんに負担をかけたくない。
『わかった!』
『ルルちゃんから会いたいと思うように、俺、頑張るよ』
『もう遅くなったし、俺もルルちゃんも仕事だろうし、もう寝よ? お休み、またね(^^)』
ルルちゃんを悩ませたくないから、とりあえず、切り上げよう。
ここは未来のための撤退だ。