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出会いは、オンラインゲームだった。
何も考えずに遊びたかった。
せっかくの休みなのに、プレゼンの為に仕事を持ち帰ってしまった。上司に、詰め込みすぎてよくわからなくなってる、整理しろ、と突っ返された。月曜朝イチまでにまとめたかったが終わらなかったのだ。仕事の為に、ネットサーフィンして情報を収集するのに疲れて、ふとみた帯のゲーム、TDGに何の気なしにクリックした。
ロールプレイングゲームか……。
ま、気晴らしにやってみるか。
ん~名前なぁ……。
面倒くさいから、ウルフにすっか。
ちょうど狼のアバターがあるし……、えっと、職業?……戦闘がおもしろそうだから戦士……っと。
チュートリアルを済ませて、サクサク進める。レベルが低いうちはレベルを上げるのが簡単なので、気がついたらはまっていた。おそるべし、TDG。
いい気晴らしになったので、プレゼンのたたき台を一気に作ってしまうことができた。俺は自分で言うのもなんだが、遊びと仕事はきっちり分ける男だ。
1ヶ月、ソロで探検するとだいたいのつかみがわかってくる。ギルドなんかも作って、探検中に同行して意気投合した人をスカウトして集めた。
そんな時に、テルーちゃんを見つけたのだ。回復系の仲間が欲しいと思っていたからちょうどいい。さっそくアプローチする。
『こんにちは。俺はウルフ。よろしくね』
『はじめまして。テルーです。よろしくお願いします』
『昨日から始まったイベやってる? よかったら組まない?』
『いえ、私は始めたばかりなので、レベル上げしています』
聞けば、始めて1週間目らしく、初心者の森でレベル上げをしているとのこと。
しかしイベントに参加するとよりレベルが上がるし、レベルの上の人と組むと確実に得するので、初心者が断ることはない。
食い下がってみるか……。
驚いたことに、テルーちゃんは遠慮すると断ったのだ。
『いいんですよ。別にがむしゃらにやりたいわけじゃないんで。むしろ足を引っ張るくらいなら一人の方が気楽なんです』
『いや、一緒に回ってみたいだけ。テルーちゃん、まだよくわからないだろ。案内したいんだよ。イベは今回誘うのを諦めるけど、一緒に回ろ?』
『でも』
『でもはなし。いこ、いこ!』
初めは勢いが肝心だ。有無を言わせず、エスコートした。
『私、初心者の森から出たことがないんですけど』
『大丈夫。はじまりの草原も難しくない。なんかあったら守れるから安心していい』
強引に連れてきてしまった自覚はある。テルーちゃんは相変わらず遠慮ぎみで、あまり自分から話をしないので、俺が一方的に話をしているみたいだ。
迷惑がっているかなぁ、と様子を伺ったが、そんなことはなく、むしろ嬉しそうに返事をかえしてくれる(と、思いたい。)
『ルルちゃん、ここでこれは拾っとこう
間違えた、テルーちゃんだ。打ちにくいな……』
『いいですよ。ルルでも……。可愛いですよね』
『ほんと? マジでルルちゃんっていうよ?』
『構いませんよ』
これがルルちゃんことテルーちゃんとの出会いだった。平日は二人とも会社員ということで、夜限定、俺がテルーちゃん改めルルちゃんを探して構い倒していた。最初の目的、回復系の仲間としてスカウトするためだった。
そのはずだった。