ニュース
俺は暇田 向日男30歳。ひとり暮らしをしている無職の者だ。
「にゃ〜ん」
おっと失礼、愛猫のポンと2人暮らしだ。俺は基本的に日雇いのバイトをして暮らしている。今日はバイトがないので1日中ネット三昧だ。まずはネットニュースのチェックからだ。
『小学5年男児死亡。いじめによる自殺か』
フン、精神が弱いからそうなるんだ。俺のように強い精神を持っていればもっと生きられたものを。ニュースの本文を読み、コメントを書き込む。
「いじめはよくないけど、いじめられる方も原因がある。俺がいじめてたやつもウザかったからな。あいつはどこに行ってもいじめられるタイプだわ」
送信、っと。
『藤川 結衣ちゃん(3)川に流され死亡。一緒に遊びに来ていた母親「一瞬目を離した隙に居なくなっていた。もう生きる気力がない」』
無責任な親だ。この子もこんな親のところから離れられて幸運だったことだろう。
「おめでとうございます(*^^*)」
送信、っと。
次はYouTubeでニュースを漁ろう。なにかいいニュースがあればいいが⋯⋯
『飛行機墜落、110人死亡』
こわいこわい。俺は旅行なんて行かないから関係ないけど、金持ちになっても飛行機は乗らないようにしないとな。
「フルスピードで墜落するのが俺の人生だった」
送信、っと。
ちなみにこのコメントの意味は自分でも分からない。コメント欄にこんな感じのコメントが多いから何となく真似しているだけだ。
『1本4000円の人参爆誕』
これは不謹慎コメント出来ないタイプのニュースだな⋯⋯
『○○県○○市○○区4丁目交差点で自動車と自転車がぶつかる交通事故が発生。自転車の高校生3日後に亡くなる』
良いニュースだ。ふむふむ、夜中2時でも目撃者っているのか。目撃者は車の信号が赤だったと証言し、運転手は青だったと言っている。
「どうせチャリのガキが信号無視で飛び出したんだろうよ。そんなやつは死んで当然よww」
送信、っと。
こんなとこかな。さて、エロ動画でも見るか。今日はどんなのを見ようかな⋯⋯
ピロリン
Twitterの通知音だ。この間上げた写真がバズったか?
はるか@harukafujikawa・1分前
返信先@himachanさん
お、俺の不謹慎系ツイートに反応してくれてるじゃん。
はるか@harukafujikawa・1分前
返信先@himachanさん
暇田向日男さん、こんにちは!ユーチューブ
やニュースサイトで不謹慎なコメントしてる
人ですよね!やっと見つけた、嬉しいなぁ!
フォローしておきますね!
ファンか、嬉しいな。だいぶ探させてしまったようだ。申し訳ないし、YouTubeのプロフィールにTwitterのURL載せとくか。
いろんなことをつぶやいたり、猫とか景色とかの写真を上げたりしてるけど、こうやって知らない人からコメントもらったのは初めてかもしれないな。あ、リツイートもしてくれてるじゃん。ん、これ引用リツイートっていうのか。よく分からんな。
なるほど、俺のツイートに自分のコメントを書いてツイートする機能か。
『こいつの情報ください』
俺のツイートにこんな文言が添えられていた。お前、俺のファンだろ? なんなんだ、その態度は。俺の事こいつって呼ぶのおかしいだろ。
『あ、こいつ知ってる! YouTubeのコメント欄でたまに不謹慎なコメントしてるやつじゃん!』
『中学の同級生です! 暇田向日男って名前が特徴的すぎて忘れられません(笑)』
『本名なのかよwwwww』
なんだこいつら。何がしたいんだ? なんで俺の事を調べてるんだ? 考えてる間にもどんどん返信が増えていく。
『同級生くん、出身校はどこなの?』
『○○市の○○中学です!』
『今も生まれ育った地域に住んでるのかな』
『こいつの写真、○○市らしき景色が多いぞ!』
なに特定しようとしてんだよ、ネット民の分際で。意味分かんねぇし。とりあえず画像全部消すか。
『こいつの家の間取り見た事あるんだよな、前に住んでたアパートに似てる気がする』
『俺もこのアパート知ってるわ。窓から見える景色からして間違いない』
『皆様ありがとうございます。私のDMに住所を送ってくださると幸いです』
は? こいつなんなの? 誰? なんで俺の住所調べてたの?
ピロリン
TwitterにDMが届いた。
『あなたは大事な人を亡くした経験がないようですので、教えて差し上げますね(*^^*)』
先ほどの『はるか』という人物からだ。ユーザー名は@harukafujikawa⋯⋯藤川はるか? 知らない名前だ。俺みたいに本名でやってるやつばかりでもないだろうし、ユーザー名はあてにしない方がいいか。
ピンポーン
インターホンが鳴った。今ネットで住所が特定されたばかりなのでビクッとしてしまった。今の今だし、Twitterのやつらではないだろう。
俺はインターホンに出た。
『宅急便でーす』
そうだ、ポンのエサを注文してたんだった。猫エサも馬鹿にならない値段だよなぁ。でも、かわいいんだよなぁ。
俺は判子を押してエサを受け取り、リビングのソファーに腰を下ろした。もう14時か。そろそろ昼ごはん食べないとな。遠くまで行くのもめんどくさいし、そこのコンビニで何か買ってこよう。
なんか家の近くのコンビニに行くの怖いな。近所の人に俺が不謹慎コメント書きまくってるやつだとバレてたら最悪だ。もともとご近所付き合いは極力しないようにしていたが、さらに悪化するのは困る。
ということで遠くのコンビニに行くことにした。さて、どのコンビニにしようか⋯⋯あ、ファミレスあるな。よし、ここでチーズハンバーグを食べよう。
微妙な時間だから空いてるな。よしよし。サラダとチーズハンバーグとドリンクバーを頼んだ。
あれからTwitterの通知は来ない。なんだったのだろうか。俺のコメントに恨みでもあるのだろうか。
たらふく食べた俺はご機嫌で家に帰った。帰ったらエロ動画見て⋯⋯ムフフ。
アパートの階段を上り、俺の部屋へ向かう。⋯⋯ん? ドアが開いてる。鍵は閉めたはずだ。どういうことだ? 大家さんか?
部屋に入った俺は自分の目を疑った。部屋中全てのものが荒らされている。タンスの中身も食器も散乱している。俺はふと風を感じ、窓の方を見た。窓ガラスが割られている。そこから何者かが侵入し、これをやったのか。空き巣怖ぇ。
そういえばポンはどこだ? もしかして外に!? やばい、今まで1回も外に出したことないのに⋯⋯遠くまで行ってしまったら帰って来られなくなるかもしれない。早急に探しださねば!
俺は近所を血眼になって探した。ポンがいないと俺は1人だ。彼女には愛想尽かされ、両親には勘当され、俺の味方は誰もいない。
そうだ、大家さんに聞いてみよう。何か知っているかもしれない。俺は大家さんにポンの写真を見せて聞き込みを行った。大家さんは見ていないと言ったが、情報が入り次第すぐに伝えてくれると言ってくれた。
ポン⋯⋯どこに行っちまったんだ。俺は走り回って疲れたよ。ちょっとそこの公園でひと休みするか。
俺は公園に向かった。公園に着くと、真ん中のところに女性が立っているのが見えた。少し近づくと、何かを抱っこしていることが分かった。30歳くらいのキレイな女性だ。こんな人と結婚したいなぁ。
あれ? この人が抱っこしてるのって、うちのポンじゃないか? そう思い女性の顔を見ると、彼女はニコリと笑って言った。
「あなたがこの猫ちゃんの飼い主さんですか?」
「ええ、そうです! 保護してくださったんですね、ありがとうございます!」
俺はお礼を言いながら両手を差し出した。すると、女性は俺にポンを渡さず、力の限り地面に叩きつけた。
「ぎゃん!」
ポンが苦しそうな声を出している。
「いきなり何するんだ!」
女性は笑顔のままポンを踏みつけた。
「にぎゃああああああああ!!」
何度も何度も踏みつける。
「やめろよ! 警察呼ぶぞ! ポンになんの恨みがあるんだ!」
「恨みがあるのはあなたによ」
そう言って女はポケットから包丁を取り出し、俺の胸に突き立てた。
「私は藤川結衣の母親よ。あなたのコメントに腹が立ったから今からあなたを殺すの」
藤川結衣? 誰だ? そんな名前見たことも聞いたこともないぞ。人違いじゃないか? 人違いで俺は刺されてしまうのか!?
「知らないよそんな子! 人違いだろ!」
「覚えてもいないのね。そんな軽い気持ちだったんだ。本当に残念な人⋯⋯償いなさい」
女の持っていた包丁が俺の中に深く入ってきた。味わったことのない痛みとともに寒気が襲ってきた。胸が痛い。次々と身体中を刺される。俺はこの知らない女に殺されてしまうのか⋯⋯




