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短編たち

名前を捨てられなかった僕は、いつまでも君を忘れない

作者: よすがリズ

またね、生きるよ

「友達に戻ろう」

こんなにも泣きたい夜はもう来ないと、私はその時確信した。

自分の一部ーーいや、半分どころか、もう全て。それほどまでに想っていた相手を失った瞬間、私の世界は色を失くした。

その日から、何も考えられない、食べられない、寝付けない。そんな毎日が続いても、誰にも相談出来ず、嘘の笑顔を貼り付けて、心の中の水たまりを隠してーー今日も私は、生きてしまった。


「病み垢ーー……」

数え切れないほどあるSNSアカウントの中、病みツイートをしている人の数なんて計り知れない。あの日、あの人を失ってからの私もその内の一人になった。とは言っても、ネットの世界に怯えていた私は、ダイレクトメッセージのやり取りはなし、繋がるのは病み垢のみと決めていた。


やっぱり同じように心が抉られている人たちの言葉は心に響くし、残る。痛みを分かち合う分、顔を隠した絆は深まる。そうして、私は今まで知らなかった世界に染まっていった。




そんなある日のことだった。君と出逢ったのは。

‟生きていてくれてありがとう”彼女が、私のツイートに返信した最初の言葉だった。初めて誰かに自分のことを認めて貰えた気がして、本当に嬉しかった。

何て優しい人なんだろう。素直にそう思った。それから、年上の彼女は「タメ口でいいですよ」と言い、私たちはどんどん親密になった。ネット上で人と話すことを躊躇っていた私だが、不思議と彼女は怖くなかった。彼女の優しさに、中身に、核心に触れ、どんどん大切になって。

‟このままずっと仲良く出来たら”ーーそう思っていた。



彼女が末期がんだと知るまでは。




後から知った話によると、彼女は小さい頃からずっと苦しんできたらしい。それでも、いつも誰かを励ましていた。その姿は、素敵だった。美しかった。そしてーー儚かった。

それなのに、私は‟彼女の病気はきっと治ってくれる”そんな願いを胸にしていた。

私がそんな呑気なことを考えている間、彼女はどうしていたのか。薬の副作用で苦しんで、もうそこに迫る死と向き合って、それでも尚、私に寄り添ってくれたのだろう。




そんなこと知る由もなかった私は、しばらくしてSNSを辞めたのだ。理由は、依存してしまうから。彼に気付かない内にあれほど依存していたように、ネットにも依存していた。このままじゃいけない。いつまでも彼を忘れることが出来ない。そう思い、アカウントを削除することを考えた。

それでも、未練はあった。SNSが、その時の私のよりどころだったのだから。


特に仲良くしてくれた友達には、個別にメッセージを送った。皆、やっぱり優しかった。

そして親友の彼女には、誰よりも想いを込めて文字を打った。何度もありがとうと言った。何度も大好きだと伝えた。何度も、忘れないと誓った。夢を約束した。いつか、君を助けに行くと。

彼女は何度もありがとうと、大好きだと、忘れないと返してくれた。そして、花言葉が‟夢が叶う”という青いバラのビデオを送ってくれた。‟心友へ”と。

二人で幸せになれると、その時の私は信じて疑わなかった。彼女は私を‟待っている”と泣いてくれた。バイバイではなく、‟またね”と言ってくれた。


ーーでも、本当は分かっていたのだろう。二人が会えることは、決してないと。




あの時、君はどんな気持ちで。どんな思いで、私を信じてくれたのですか。






それから少し経ったある日のことだった。どうしてもSNS離れ出来ていなかった私は、‟少しだけ”と思い、辞めたハズのSNSを開いた。


ーー言葉が、出なかった。











彼女が死んだ。




彼女のお母さんからのツイートだった。娘は旅立ったと。今まで、娘と仲良くして下さった皆さんありがとう、と。

何が起きたのか、分からなかった。心友は、本当にいなくなってしまった。わたしがSNS(ここ)にいなかった、ほんの少しの間に。

ーーああ、こんなにも後悔したことはない。きっとこれからもない。もう少し、もう少しだけSNS(ここ)にいれば。彼女にもっと、伝えたいことがあったのに。

私は泣きながらメッセージを送る。‟お母様へ”と。これまでの彼女との思い出、後悔。全てを綴った。涙で文字が滲んで。読み返す気力なんてなくて。彼女に会いたい。ただそれだけを思って、涙だけが流れ続けた。


しばらくして、返信を貰った。忙しいにも関わらず、わざわざ……。親子揃って優しすぎると、また泣いた。お母さんは、私への感謝、娘が亡くなったことへの本音など、思いの丈をぶつけてくれた。そして、‟特別に”と彼女の遺影を送ってくれたのだ。


本当に、綺麗な人だった。写真の中で微笑む彼女を見るのが辛かった。もう既に涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた私の顔は、画面をスクロールする度に崩れていく。

「娘が言っていたんです。‟お母さん、わたし、大切な友達ができたよ。わたしのために夢を見つけてくれたんだって。”って。ーーそれはあなたのことだったのですね。あかりさん」


私は声を上げて、泣き続けた。


あかりという仮名を付けたのは何となくの理由だった。それでも彼女が何度も読んでくれたこの名前に、私はいつまでも縋り続けていた。それは今でも。




画面の向こう側で、彼女はどんな顔をして、私と一緒にいてくれたのだろう。もう助からないと分かっている身体で、健康な私を、どうしてあそこまで勇気づけてくれたのだろう。もう一度あの時に戻れるなら、彼女の最期までずっとずっと一緒にいるのに。そうすれば、こんなにも泣かずに済むーーワケではない。


だって最後に気付いたのだ。彼女のユーザーネームが、matane_ikiteに変わっていたことを。






心友へ

あかりだよ。あれから一年経ったね。一秒たりとも君のことを忘れたことなんてないよ。私の為に、ずっと別れに気付かないフリをしてくれてたんだよね。ありがとう。君に伝えたいことなんて、数えきれないほどあるよ。いつか会いにいくから。それまでどうか待っていてね。

だけど、私、ちゃんと前を向くって決めたんだ。もちろん君を置いて行くワケじゃない。でも、私、強くなりたい。だから捨てられなかったこの名前を改めるね。


「よすがリズ」だよ。新しい私のことも、どうか好きでいてくれたら嬉しいな。空から応援してね。


たくさん優しくしてくれて、ずっと話を聴いてくれて、いつまでも生きる勇気をくれて、本当にありがとう。いつまでも心友でいてね。大好き。





ずっと忘れないよ。瑠夏ちゃん。


ここまで読んで下さりありがとうございます。


この話は全て実話であり、元々の‟あヱり”というペンネームの由来です。

‟よすがリズ”という新しい名前についてですが、よすがは誰かのよりどころになればーーという願いを込めて付けさせて頂きました。ガラッと改名してしまいましたが、今後も「リズさん」や「リズちゃん」など、お気軽に読んで頂けると幸いです。




この物語に関わらずですが、様々な意見があると思います。否定的な感想があったとしても、それを批判するつもりはありません。

それでも、その場所でしか出逢えない人がいる。私は、「小説家になろう」で仲良くして下さる皆さんが彼女と同じようにとても大切です。大好きです。これからもずっと仲良くして下さると嬉しいです。そして、今初めて出逢った方がいらっしゃいましたら、これからどうぞよろしくお願いいたします。



長くなってしまい申し訳ありません。ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました。



※現在は、私のSNSアカウントも彼女のアカウントも削除済みです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読み終わってから、前書きの意味がわかって「ひぇっ」となりました。 現実は、悲惨なぐらい過酷ですね。この物語(と言っていいのかな)を読んで悲しいと感じると同時に、何か温かい気持ちになれました。…
[一言] エッセイから飛んで来ました。 とても悲しい実話ですね……。 どういう言葉を掛ければいいのか難しいですが、強いて言うならば、強く生きて下さい。 瑠夏ちゃんが――願ったように 瑠夏ちゃんのた…
[一言] 大切な人がいなくなる。 画面上のやり取りでも大切な人が──もう話すことができず。 そんな経験を私はしたことがありません。 けれど想像したら泣きそうです。私の大切な人が消えたら。 自分の家族、…
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