prologue
Tears
都会は住む場所じゃない。
誰もが心の中でそう密かに思っているはず。
煌びやかな町を笑顔で話しながら歩く人々。
お洒落な店が多く立ち並び、皆が充実したような表情を浮かべている。
ただそれはあくまで、マクロ的な話。近づいてよく見れば、待っても来ない恋人を待つ人、態度の悪い客、人の悪口で盛り上がる集団。
さらに近づいてよく、よく見れば、誰もが何かを心に秘めている。
口に出さない、表に出さない、表現しない。
心に現れたはずなのに、それは表に出ることなく夜の涙で流れていく。
言いたい、叫び出したい。でもしない。
私は私じゃないから。
私は第三者に名前を呼ばれ認識され初めて〝わたし〟になる。
皆が興味のあるものは、周りの皆が興味のあるもの。皆が興味の無いものは居場所を無くし涙となってどうでもいい場所に吸われていく。
中には皆が興味の無いものを表に出す人もいる。
でもそれは誰の目にも留まらない。
視界にも入らない。
人は一人では生きていけない。
そのくせ死ぬときは一人だ。
ねえ、いつまで続けるの。と誰も興味の無い私が、今日も私に問いかける。
そんなこと私は知る由もない。
この世界から途中で脱退した人はたくさんいる。
でもその人たちは気づいてない。
あなたがこの世界から脱退することすらも、誰も興味が無いことを。