13.帰り道と全体練習
アカペラチーム結成後の帰り道は少し明るい雰囲気が流れる。
「リョウ君、よかったね。」
ユリがとても明るい声で言う。
「本当だよ。僕、もう泣きそう。」
これからはみんなが一緒にいる。そのことでうれし涙がこぼれる。
「まあ、村山も笑顔だったしね。」
マリが言った。
「でも、村山よりリョウ君の方が好き。」
二人が声をそろえる。
そうだ、未だに彼は知らないのだ。僕たち三人で週末、とても素敵な時間を過ごしたこと。
それもそうか、大丈夫か。あの男なら。こっちには、いつでも相手にできるマリもいるし、ユリも僕のことを良くわかっている。これからも続けていいんだ。
僕はそう思った。
今日は素敵な帰り道を過ごす。一つ悩みの種が消えたからだろうか。とてもうれしい。
今日はいつもよりも早く、マリと別れるレンタルビデオ屋の前に来ていた。
「じゃあね、また明日ね。」
マリは大きく手を振った。
僕は二人と別れて、いつものように予備校へ行った。今日は数学。とても面白い授業。授業の予習もこれで完璧だ。
前原先生も明るい雰囲気の僕を見て気にかけてきた。
「どうした。明るいぞ。こんな軽い生徒だったんだな。」
前原先生の的確な指摘に僕は嬉しい。
「部活入ることに決めたんです。合唱部で。」
「おお、それは素晴らしいよ。良かったな。やっぱり高校一年のこの時期、部活も楽しんでおいてほしいのがやはり予備校の願いだな。だからこうして映像授業で、都合のいい時間に来てもらっている。大丈夫、部活やってても合格できるから。」
それは素敵なアドバイスだった。良かった。
翌日は、合唱部の全体練習だった。改めて、楽譜を開いて、説明を受ける。
この合唱部はコンクールと文化祭の中で行われる演奏会、そして、夏の定期演奏会に向けて準備をしているようだ。現在は夏の定期演奏会に向けて準備している。例年、一学期の期末試験後から一学期最後の週末にホールを借りて実施しているようだ。
つまり、7月の2、3週目前後だ。ここで3年生が引退して、新しい、戦力で、秋、コンクールに臨むようだ。
というわけで、夏の演奏会に向けての練習が始まった。
僕は、音を取るのが他のメンバーよりも早いようで、他のパートの音も聞いて合わせることができた。ソプラノの方からユリと、マリの声も聞こえてくる。
狩野さんも僕の表情を見るなり、頷いている。練習を指揮しているのは三年生の指揮者の方である。一年生を前にしてても、求めてくるのは一緒のようだ。
すると突然、ドアが開く。
「お疲れ様です。」皆が頭を下げる。そこにいたのは隣のクラスの担任で、音楽の宮島先生だった。
「お疲れ様。それでは、ここからは私が練習を行いますね。」
宮島先生も女性の方で、芦川先生よりも年上、50歳くらいだが、年齢の割には若く見える肌つやが自慢のようだ。好きなことをやっている人はこんなにも美しいのか。
「一年生のみんな見学に来てくれてありがとう、そして、入部してくれた子もいると聞いています。ありがとうございます。合唱部顧問の宮島です。一年三組の担任なので、わかるかもですが。」
ここからは、宮島先生の指揮が始まった。迫力あふれる指揮。
とても、印象がいい。楽しいことをするのが好きな先生なのだろう。
ユリも、マリも、そして合唱部のみんなの表情も変わっていく。
やがて今日の練習が終わると、宮島先生の目が笑顔になって、挨拶をする。
「どう、中島君、宮島先生の練習と、そして、初めての本格的な全体練習は。」
狩野さんが笑顔で聞いてきた。
「とても楽しいです。」
「うん、恵愛の事情は後藤から聞いたよ。とてもつらかったな。何かあればこれからもいつでも言ってくれ。」
狩野さんは真剣な目をしていた。
ここにいていいんだと強く思う。
よし、頑張ろうと心に決めて、僕は演奏会までこのメンバーで、頑張ることにした。