#11.提案と目標
二人からの提案に驚いた。
「リョウ君、合唱部に入って、コンクールに出て、恵愛の合唱部をぎゃふんと言わそうよ。」
マリが思い切って行った。
「リョウ君には、悲しい思いをしてほしくないの、前を向いててほしいの、幼馴染として、友達として。だからね、夜マリちゃんとlineして決めたんだ。」
ユリも続ける。
僕はひたすらに黙っているが、心の中では涙であふれている、悔し涙と、そして、うれし涙。
「本当にいいの。吹奏楽は。料理は。」
「いいの。吹奏楽は自分の希望する楽器ができなそうだし、雰囲気もさばさばしてるし。」
「それに、音楽やりたいって思ったから。二人ともピアノやっているし。」
二人はそう言ってきた。
そうやら、決断するのは僕の方なのかもしれない。頑張らなくては。
昨日の一件も二人がいたから乗り越えられた。恵愛にいたこと、そして、内部進学の取り消しになった理由。二人の前で、きちんと話せたじゃないか。
大丈夫だ。大丈夫と信じたい。この一夜で、悔しい思いから、見返してやる。そんな思いでいっぱいだった。
「アカペラの方はどうする?」
僕は二人に聞いた。
「大丈夫。アカペラの方は後藤さんとかの雰囲気を見てわかったと思うけれど、強制ではないよ。全体練習の参加がまずは最初の義務なんだってさ。」
つまり、週に三回、コンクールや演奏会直前は土曜込みで四回。まずはここから始めることになる。そして、それなら、勉強と部活の両立も可能。予備校にも通える。
「それに・・・・・。」
「それに?」
「一緒にアカペラも歌おう。」
二人から提案された。そうか。好きにチームを組んでいいのか。歌おう。歌おう。二人の提案が僕に勇気をくれた。
紅茶とカフェオレを飲み終えて、喫茶店をあとにする。日も暮れるころでいい時間になる。
ショッピングモールから、少し歩くと市役所が見えてくる。この市役所は、三十階建て。周りには大きなビルもなく、この市役所の建物が断然高い。最上階には展望台が存在する。
僕らはショッピングモールからこの市役所へ移動して、展望台へと上がってみる。日も暮れかけた夜の街の夜景、そして、沈む夕日を見てみる。
今日の空は少しばかりきれいだ。
桜市の街並み。これはとてもきれいな街だ。車の行き来、日との行き来、遥か彼方から新幹線と電車が近づいてきて、それぞれ桜駅に停車していく光景。
「ユリ、マリ・・・・。二人とも、ありがとう。」
僕は、この高校初めてのプライベートの週末を忘れないだろう。二人がキスをくれて、その次の日、二人と買い物をして。
「僕、合唱やるよ。一緒に恵愛の合唱部をぎゃふんと言わそう。」
コンクールで敬愛に勝つ、それがここでの目標になった。
帰り道。僕は二人に聞いてみた。
「なんで、合唱に誘ってくれたの。」
「ふふふ。今日買った私の好きな漫画読んでみて。」
マリが明るく答える。
「私も。漫画読んでみて。」
二人はバックから漫画を取り出す。そこには今日買った漫画ではあるが、それぞれ、最初の本がある。
『恵が丘の聖歌隊』の最初の一巻と『ユリとアヤメの物語』の七巻、サブタイトルには『天使の家編①』と書いてある。それぞれ、マリとユリからもらう。
「貸してあげる。」
そういって、漫画本をかしてくれた。
「じゃあね、リョウ君。」
そういって、家の方向がばらばらになる交差点に差し掛かると、お互いの家に帰って行った。
漫画は久しぶりだな。読んでみるか。