#10:ショッピングと提案
土曜日、正午過ぎ、駅前。
僕はここに居る、間もなく十三時を回る。駅前の歩道には噴水があり、そこを待ち合わせ場所にする人が多い。僕も、僕たちもそこを待ち合わせ場所にした。
昨日、二人が打ち明けてくれた、その日。帰宅するとlineの通知が来ていた。
【明日、三人で遊びに行こう。リョウ君都合大丈夫?ユリも遊びに行けるって。】
マリからだった。僕は二つ返事でOKの内容を返信した。
【じゃ、明日十三時に駅の噴水で】
そんな、内容だった。とてもうれしい。
十三時ということなので、僕は午前中駅前の予備校に行って、コンビニで買った昼食を食べて、その時間を待った。
だから、少し早目に待ち合わせ場所、駅前の噴水に来ている。
時間通りに二人は来た。
「ごめんね、待った。」
「いや、全然大丈夫、予備校に行ってたんだ。そこのビルの。」
僕は、ビルを指差す。
「さすがリョウ君だね。勉強教えてほしいな。授業が始まっているけどわからないところも同じように出てきて、テストがヤバいという感じ。」
マリは、正直に答える。
「それ、ホントだよね、リョウ君に教えてほしいね。」
ユリも同じように言う。
二人の私服は初めて見る。ユリはワンピースにピンクのカーディガンのようなものを羽織っている。そして、小さなショルダーバック。マリの方は黒いタイツにショートパンツ、薄手のブラウスを着てジャケットのようなものを羽織る。
そういえば二人の私服を初めて見た。学校は制服だし、コンクールではドレスコードだったのだから。小学校の時はもちろん制服はなかったので、私服を見ているわけだが、高校生になったということで、おしゃれに気を使うようになったのだろうか。とてもかわいく見える。
とても素敵な女の子二人とどこへ行こうか。マリから誘われ、楽しみにしていた。そう言えばこんな楽しみにしていた出来事に遭遇するのはいつ以来だろうか。僕の目に、白と黒の色以外の景色が久しぶりに広がった。
駅の自由通路を越えて、駅の反対側へ行く。その駅の反対側を十分ほど歩くと、大きなショッピングモールが存在する。かつては工場が存在していたこの場所だが、駅周辺の開発が進み、駅前は車の出入りが多く、トラックを使っての出入りが不便になってきたことから、駅から少し離れた、バイパス沿いにある、高速道路のインターチェンジの傍に移転することになり、この場所はしばらく広い空き地が存在していたが、新しくショッピングモールに生まれ変わった。
ショッピングモールでも、ここには映画館や、ゲームセンターもある。なんでもあるので、誰かと遊びに行くにはうってつけ。初デートのような場所にももってこいだ。
初デートと言っても、僕には二人彼女がいるわけで、しばらくの間はそうすることに決めたので、誰かと遊びに行く感覚である。
ショッピングモール、夏物が入荷してきているのか、一足早く夏が来たそんな感じだ。事実、四月というが、今日は少し外の気温が暑い。
ブティックの店を何件か回る。女物を扱う場所だ。どの店も二人が傍に居なかったら絶対に入れない。夏物ということで、新しい服が欲しいのだろう。
二人は試着を楽しんで、僕に見せてくれた。僕はとても表情が和らぐ。二人がとてもかわいいから、どの服も似合う。
「そうだ、ためしに、二人の私服を入れ替えてみたら面白そう。」
という、ことも提案してみる。確かに、マリは少し大きめの胸元、ユリはヒップライン、二人にとって、男から見たら最大の武器となる部分を隠しているような今日の私服。これも女の子なのだろうか。中学生で、思春期ということで、気になる部分は隠してきたのだろう。堂々と見せてもいいのにな、なんて思う時もやはりある。
確かに、村山や後藤さんや杉野と居る時は隠してもいいと思うが、僕と一緒にいる時、つまり、二人が楽しんでいるときなのだからもう少し、頑張ってもいいような気がする。
僕の提案に二人は、少し戸惑っていたが、
「やっぱり男の人だからそうなのかぁ。」
と、リアクションし、マリは少し胸の空いたワンピース、ユリはショートパンツをそれぞれ試着してくれた。僕のために。
「似合ってるじゃん。」
僕は、そういってみた。買う、買わないは二人の自由なのだから。
次に回ったのは書店だった。ここのショッピングモールの広さを利用して、大きな書店が入っている。
参考書コーナーを回り、僕のお勧めを二人に聞かれる。少し勉強を教えて行く。高校最初の一週間の授業の復習を兼ねて。二人は僕の説明にくぎ付けするように聞いていた。
二人の好きな漫画の新刊が出ているということなので、漫画コーナーにも行った。
「これこれ。」ユリが漫画を二冊持ってきた。
この漫画は聞いたことがあった。牧場のお話で、一つの牧場で育った男の子はやがて競馬のスター騎手になる話だが、その牧場を取り巻く人々を描いていくお話だ。動物も馬はもちろん登場するが、牛や豚、犬、羊、など牧場にいる様々な動物も登場する。
「カッコいいし、動物もかわいいんだよね。動物もしゃべっているところも面白いし。」
そうだ、ユリは動物が好きだったな。犬も何匹か飼っているし、ハムスター、シマリス、たくさん動物を飼っていたっけ、そして、その動物が死んだときは僕に一番に話して、慰めていたな。
一瞬、競馬の話が出てくる内容の漫画であったから、あの優しいユリが競馬にはまったかなと思ったが、やはり違う。動物好きの優しいユリだし、主人公の男の子や、獣医の先生、そして、そこに登場するヒロインもかっこよく、かわいく、女の子に喜ばれそうなタッチで描かれている。
もう一つの漫画は、今話題を呼んでいる、音楽を題材にした漫画だ。音楽好きにはたまらない。僕も当然聞いたことがある。
大学の合唱団を話題にした漫画だ。この八巻から、確か巷で話題を呼んでいるとか。合唱だけでなく、あらゆる音楽が扱われている。
「私もこの二つ。」マリも漫画を二つ持ってきた。
一作品目は教会付属のキリスト教系の学校で、聖歌隊を作るお話で、二作品目は戦争のお話と教えてくれた。どちらも同じ作者が同時並行で連載しているらしい。同じ作者できっとマリはこのような絵が好きなのだろう、どちらも同じようなヨーロッパ風の建物が背景にある。マリは確かそのような素敵な街に行ってみたいと言っていたな。
僕と同じで。このようなヨーロッパの街並みが登場する作品、もしくはそのような風景が描かれている作品の映画を、僕と、マリは何回も見ていることを思い出す。川が流れて、時計塔があったり、エッフェル塔や、凱旋門、おしゃれな噴水。
やっぱり二人は昔のままだと思うと安心する。
二人はそれぞれ新刊を購入した。二人が買った漫画の四つのお話はまだ連載が続くということで、どうやら楽しみにしているようだ。
この後で、喫茶店に入った。それぞれ、紅茶とカフェオレを注文する。
僕の前には、甘いレモンティーが、ユリとマリの前にはそれぞれ、カフェオレが出てきた。
「ねえ、リョウ君。話があるんだけど。」
マリが、言った。
「一緒に、合唱部に入らない。」
僕は驚いた。一緒に・・・・・。目を丸くする。
「一緒に・・・。」
「うん。私たち二人からの提案なの。」
ユリもそういってきた。
僕はとても驚いていた。