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僕と二人の幼馴染と、恋、時々部活  作者: なか たつとし
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#1 入学式

 桜舞うこの季節。家の扉を開ければホラ。

 そこには新しい出会い、新しいはじまりを告げる風が・・・・・・。

 そんなものはない。むしろそんな希望もない。今日は高校の入学式だというのに。

 一体に何が原因なのだろうか。どんよりと僕の心を雲がつつむ。春の嵐のように。いっそそうだ、今日は春の嵐なのだ。春眠の漢詩のように、夜雨が降って、花が落ちている。そんな僕の心。

 高校の制服は学ランであった。その学ランに袖を通して、家を出る。やはり気が進まない。

 手提げかばんの中には白の封筒があった。封筒と言っても、紙を厚紙で折りたたんで包んでいる封筒。

 入学式で、生徒代表あいさつでこの封筒に書かれている内容を読む。当然最後には、僕の名前を言わなければならない。新入生代表、中島亮輔と。これが一番嫌だった。


 東桜高校。これが僕の入学する高校だ。東桜高校、通称東高校は、中堅クラスの公立高校であり、進学先は大学、専門学校、就職と幅広い。大学と言っても、最難関と呼ばれるような大学に進学する人はごく稀で、大半はごく普通の大学に進学する人が多い、そして、専門学校、就職と進路を選択していく。行事は公立高校の割には多く、文化祭なども充実している。

 しかし、僕にとっては、腑に落ちなかった。落ちこぼれと言われて、いじめられるのだろうか。中島亮輔を知る人物はおそらく、東高校に必ずいる。いじめの始まりだ、文化祭も修学旅行も一人なのだ。それを覚悟した。なんせ、ここは僕の地元なのだから。

 

 20分ほど自転車に乗り、東高校についた。校門の前。ふうっと、ため息。

 周りからは、おめでとう、おめでとうと歓声が上がる。

 校門の「東高校入学式」という看板の前で写真を撮る人もいる。それもそのはずだ。おめでたい、入学式なのだから。然も高校受験に合格して、自分の人生の第一関門通過を勝ち取った人の中にいるのだから。

 僕はその中の、新入生の中の負け組だった。この東高校はすべり止めか、私立の併願高校の結果が芳しくなかったため、公立高校の受験のランクを下げたという意味の負け組なら、多分新入生の中にいるのかもしれない。しかし、僕は、客観的に誰の目から見ても負け組だった。

 「新入生代表、中島亮輔」という言葉は、いわゆる僕は負け組です。と一部の人間に、アピールすることになる。入学試験の結果が周りより少し良かったからと言って、このような役を行うことになるとは、心は少しさびしかった。


 校門をくぐると、速足で入学式が行われる体育館へ向かう。誰にも気づかれずに向かいたい。僕も周りの動作に気が付きたくなかった。

 体育館の前に着く。壁には大きな紙の掲示板に名簿が張り出されていた。

 五十音順だな。真ん中より少し下の位置に目を向ける、おそらくこのあたりが、ナ行だろう。中島。あった。二組だ。すぐに見つけられることに安堵する。

 ここは僕の地元、同じクラスや同級生に、知っている人の名前を見たくない、そんな気持ちで早く見つけたかった。

 入学式の受付を済ませて、体育館に入り席に着く。待っている間もドキドキする。

 入学式が始まり、いきなり君が代を歌う。そうか、君が代か。確かにそうだと僕は思う。

 式が次々と進行していく。校長のあいさつ、生徒会長のあいさつ、来賓、と続く。

 僕の代表あいさつが来た。のどが渇く、異常に渇く。心臓があの時、あの負け組を味わった時と同じか、それ以上にドクドク鳴る。いっそのこと、ピアノを弾くか、歌を歌うかする方が緊張しない気がする。

 壇上に上がり、一例をして、口を開く。

 「春爛漫の桜の咲くころ、本日、このような入学式を用意していただいたこと、とてもありがたく思います。私たち、新入生は、校長先生、先輩方のお言葉一言一言を胸に刻み、これから始まる高校生活に胸を躍らせながら、一日一日を大事にして過ごしてまいります。」

 少し早口かもしれないが、早く終わってくれと僕は心の中で、叫び続ける。そして、

 「新入生代表、中島亮輔。」

とあいさつを締めた。

 校長先生に一礼をして、入学の言葉を書いた封筒を校長先生に渡して、壇上を降りた。

 ざわつく声は聞こえていない。それに安堵した。いや、もしかしたらざわつく声をかき消しているのかもしれなかった。

 入学式が終わりに近づき、担任の先生が紹介される。

 「二組、芦川恵美先生、担当は英語です。」

校長先生の紹介で、僕のクラスの担任が言われた。メガネをかけ、30代くらいの女性の先生が黒のワンピースのような余所行きの格好をして、こちらに向かって礼をした。


 入学式後、芦川先生に連れられて、教室へ向かう。座席表が配られ、教室の席に着いた。

 芦川先生から、校内のルール、服装のルールが説明され、最後に高校生活の心構えを言って、入学式の日は終了した。

 

 入学式の余韻に浸ることもなく足早に僕は帰宅した。誰にも会いたくないように・・・・。



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