推理
一人で戻ってきたユリアを見て、テーブルを拭いていたメルパが手を止めて何か言いたそうな顔をしたが、結局何も言わなかった。大人たちも、きっと誰が火を付けたのか噂しているのだろう。ご丁寧に、噂話をしに来てくれるご近所でもいたのだろうか。しばらく待っても何もうい気配がないのでユリアが階段を登ろうとすると、メルパがやっと声をかけた。
「マリア、これからは、あまり出歩くのはやめてください」
「どういこと?」
「あなた方の本来の立場を思い出してください。今回の火事で、あなたがたが狙われた可能性もあるのです。」
忘れていた。王位継承者の立場を忘れていたわけではないが、自分たちが狙われる立場だということを、すっかり忘れていた。メルパやビルソン夫人は二人から目を離さないというし、ミルパ中佐も情報を集めたり、きっと町に出るふりをして時々は隠れて二人を護衛している。
だから、安心し切っていた。
「つまり、私たちを殺そうとして、間違えてマーサの家が狙われた、と言いたいの?」
メルパは、あくまで可能性です、と頷いた。
「エマが戻ったら、詳しく話をします。」
「分かったわ」
ユリアは部屋に戻ると、ユリアはベッドに仰向けになった。太陽はまだ登り切っていおらず、窓からは爽やかな風が入ってくる。山羊の声に混じって、大人たちの声も聞こえる。ここからでは何も聞こえないが、大人たちも犯人が誰かを噂しているのだろう。
メルパが言う通り自分たちが狙われているとしたら、ダンやその家族が犯人である可能性はある。また、ダンではなく別のスチドニアの手の者がこの村に潜り込んでいる可能性も捨て切れない。スチーナ村だけでなくチスコという国をも敵に回す行為だ。
ユリアは目を閉じて、昨日のことを正確に思い出そうとした。ダンが犯人である可能性が無いわけではないが、証拠が無い。スチドニアの手の者がこの村に潜り込んでいるのだとすれば、それはスチーナ村だけでなくチスコという国をも敵に回す行為だ。ミルパ中佐が家にいないのは、情報を集めに行っているのだろうか。
とにかく、今ユリアにできることは、昨日のダンの行動を思い出すことだ。ユリアたち四人で花畑に行って、そこにダンが現れた。その時のダンは、いつもと変わらない嫌らしい笑いを浮かべて挑発してきた。そして、二人と言い合いになった後に荷車の引き手を地面に置くと殴りかかってきた。
「そうよ、荷車だわ。」
ユリアは呟いた。
ダンは、空の荷車を引いていた。もしかしたら、あの時は村から町に出掛ける途中だったのではないだろうか。それに、マーサの家から花畑までは遠い。荷車を引いて花畑までやってくるのは時間的に無理ではないだろうか。
でも、ダンは男だ。力がある。ユリアと違い、荷車を引いて走ってきても、息を切らせたりはしないだろう。仮にダンにも可能性があるとしても、それだけで犯人とは決められない。それに、この村の中に火をつけた人間がいるとは思いたくなかった。自然の火事や料理をした後の火の不始末であれば、ただの事故として終わらせることができるのだが。
「まさか、本当に村の外から来た誰かに私たちが狙われた、とかね」
嫌な考えを打ち消しながら窓の外を見ると、湖の向こうをマーサが歩いてくるところだった。ユリアが見ていると、マーサもこっちに気がついたようで、顔を上げた。マーサは泣いてはいなかったが、遠くから見ても泣きそうに見える。
ユリアは静かに一階に降りた。さっきの今だが、マーサを放っておくわけにはいかない。少し話をしたら、エリアーヌを連れて戻ればいい。怒られるだろうが、エリアーヌを探しに行ったことにすれば多少は言い訳になるだろう。
長いので、2つに分けました。少し表現を修正しています。




