表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/151

『第八十八話 宿屋で情報収集』

 べネック団長が選んだ宿は二階建てで、青い瓦が敷き詰められた屋根が特徴的だ。

 看板にはそのまま『青瓦亭』と書かれている。

 

 中に入ると左手に階段と受付があり、右手には食堂らしきスペースがある。

 今は六人の冒険者らしき人物が一つのテーブルを囲んでおり、こちらを見ていた。

 あまりに眼光が鋭くて驚いていると、奥から活発そうな少女が駆け寄ってくる。


「お待たせして申し訳ございません。お泊まりですか?」

「べネックっていう名前で、たぶん四部屋分の予約が入っていると思うんだけど」

「承知しました!」


 少女はカウンターの奥へ走っていき、しばらくして戻ってきた。

 手には一枚の羊皮紙を持っている。


「確認できました! 二号室から五号室までですね。鍵もすぐにお渡しします」

「ありがとう。ここって食事も出来るの?」


 ダイマスが尋ねると、少女は満面の笑みで頷いた。

 六人しかいなかった食堂は続々とお客さんが入り、ほぼ満席になっている。


「はい、出来ますよ!」

「それじゃ食事をお願いしようかな。鍵はその後でお願いできる?」

「かしこまりました! ご案内しますね! 食事のお客さんが四人入るわよ!」


 花が開くような笑みを浮かべた少女は、食堂の端にある厨房に声を張り上げた。

 店の奥から生返事が聞こえてくると、少女は四人席へ俺たちを案内してくれる。


「メニューは壁に貼ってあるのでそちらを見てくださいね」

「分かったわ。ありがとう」


 アリアが微笑むと、少女はペコリとお辞儀を返してカウンターに戻っていく。

 彼女は接客担当の看板娘なのだろう。


「とりあえず注文しちゃいましょうか。お腹が空いて死にそうよ」

「そうだね」

「ここの宿は料理が美味しいって噂になってたし……楽しみだわ」

「メニューも多そうだ」


 イリナの言葉に全員が壁のメニューに視線を向けた。

 

 色々な料理が書かれているが、俺は豚の魔物であるオークのステーキを。

 アリアはラビットホーンというウサギの魔物の肉が入ったシチュー。

 ダイマスとイリナはオークの肉が入ったスープとパンのセットを注文していた。


「この宿は綺麗だし、泊まるにもよさそうね」

「確かに。寮に匹敵するくらいには綺麗だし、毎日ちゃんと掃除しているんだろう」

「心を込めているっていうか、掃除の腕がいいだけじゃないの?」


 アリアと俺が話を繋ぐ。

 もちろん会話をするふりをしているだけで、実際は周りの声に注意を向けている。

 情報収集に宿屋ほど適したものはない。

 

 みんなが酒に酔っていて、なおかつ宿泊する前の気が緩んだ瞬間を狙うことができるからな。


「確かにそうかも」

「それにしても明日は大変よね。反対派を説得することなんて出来るのかしら」


 イリナが珍しく弱音を吐く。

 そういえば、俺はエイミー神官長とやらを知らないのが、どんな奴なのだろうか。

 確か、反対派の表向きの旗振り役だったはずだが。


「反対派といえば、エイミー神官長というのは誰だ? イリナたちは知ってるか?」

「ああ、そいつを説得するのは苦労するだろうな」


 背後からの声に振り向くと、そこには苦い顔を浮かべた勇者マンドが立っていた。

 どうやら全員の治療が終わったらしい。


「マンドさん、ヤンバ―団長の隊員に怪我はありましたか?」

「いや、全員が無傷だった」

「そう、良かった……」


 ホッと胸を撫で下ろしたのはアリアだ。

 ヤンバ―隊を攻撃したのが負い目になっているのだろうが、こいつの方がヤバい。

 

 今も腰に括られている剣を振り回されれば、普通の人ならもう近づけないだろう。

 おまけに魔法まで斬れるという伝説もあるからな。

 

 この化け物じみた勇者マンドと戦って二日間粘った魔王……考えただけでも怖い。

 出来れば二度と復活しないことを祈るばかりである。


「話を戻すよ。マンドさん。エイミー神官長を説得するのは難しいのですか?」

「ああ、一回見た限りではな」

「平気で仲間を見捨てるような奴だし、説得しようとしても上手く躱されそうだわ」

 

 アリアが苛立たしげな表情で吐き捨てた。

 横でイリナも頷いているし、エイミー神官長は本当に仲間を見捨てたらしい。


「それは、確かに苦労しそうだな」

「ヒナタとハリーには別行動で弱みを探ってもらってるけど……厳しいだろうね」


 ダイマスが唸る。

 リーデン帝国では情報収集担当だったハリーに、相手の警戒心を緩めるヒナタ。

 二人には、万が一を考えて教会の弱みを探るようにお願いしたのだ。


 まさか、彼らが頼みの綱になるとは思っていなかったが。


「ただ、僕たちにも出来ることはある。そのために宿屋の食堂に来たんだろう?」

「さっきから誰も喋らないけど」


 もちろん全員が黙っているのではなく、欲しい情報を誰も話さないという意味だ。

 あちらこちらで行われている会話は、そのほとんどが中身のない雑談ばかり。

 このままでは宿屋に来た意味がないじゃないか。

 そう思ったところで聞こえてきた一つの声が、俺たちの意識を一気に覚醒させた。


「そういえば、近くの宿屋で戦いがあったのを知っているか?」

「ああ。本部が第三迎撃地点とか言っているところだろう」

「そうそう。ギルドに行く途中にそこを通ったんだけど……奴隷が解放されてた」


 最後の部分は辛うじて聞こえる程度だが、その声からは驚きが伝わってくる。

 会話の主を確認しようと、俺は一瞬だけ振り返った。

 すると、どうやら四十代くらいの男性冒険者二人が話していたらしい。


 首からぶら下がっているプレートの色は銅色だから……Cランクの中堅といったところだろうし、これは期待できそうだぞ。

 

 そう考えたのは俺だけではないようで、アリアを筆頭に全員が黒い笑顔だ。

 さあ、俺たちに有益な情報を提供してくれよ!

 

 ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと一日と十一時間。

 この宿屋での出来事が、後の俺たちに大きな影響を与えることになるのだった。

少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ