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『第八十五話 裏切りと囚われの姉妹⑦~合流へ向けて~』

「それより、どうやらイリナたちもここに近い場所にいるらしいぞ」

「反応があったのか」


 ダイマスが問いかけると、ティッセは後方を振り返った。

 ここはイルマス教の総本山である聖都イルマで、イリナたちも飛ばされている。


 ――ティッセの【気配察知】は正確性において、他の追随を許さない。


 もうすぐ合流できそうだとダイマスが安堵していると、オックスが手を挙げた。


「あの、イリナとは誰ですか?」

「僕たちの仲間。迷宮で三手に分かれて探索したんだけど、合流できていなくて」


 ちなみに残りの二グループは既に合流している。

 ティッセたちのグループだけがローザンと会って、別行動を強いられているのだ。


「なるほど。それでイリナさんとやらはどこにいるんです?」

「大体六百メートル先っていったところだな。反応からして地下にいるっぽい」

「六百メートル先の地下……まさか第三迎撃地点!?」


 話を聞いた途端にローザンが慌てだす。

 それどころかスラダムまでもが顔を歪め、険しい顔でオックスに視線を向けた。


 第三迎撃地点ということは、警備にあたっている敵兵がいそうだ。

 ダイマスはそう推測して、いまいち情報が飲み込めていないティッセの肩を叩く。


「敵は何人くらいですか? まあ、今は敵とは言えないのかもしれませんが」

「あの……申し訳ありません! やらかしてしまいました!」


 青い顔をしたオックスがいきなり頭を下げる。

 何事かと全員が視線を向けると、オックスは聞くに堪えない計画を告白した。

 重病者の奴隷で肉壁を作り、時間稼ぎをするというおぞましい計画を。


「この大馬鹿者!」

「もしかして聖騎士長があんなに早く私たちのもとに駆け付けられたのも……」

「はい、そうです。他の部隊の出動を要請しようとしていました」


 あれだけ威厳があるように見えたオックスだったが、今は全然そんな感じはない。

 むしろ完全に委縮してしまっている。


 ローザンは小さくため息をつき、スラダムに睨まれているオックスに体を向けた。

 胸元で教皇の証である金のロザリオが揺れる。


「最初の命令を下すわ。今すぐに彼らを第三迎撃地点まで案内しなさい!」

「承知いたしました」


 オックスは恭しく一礼すると、なぜかダイマスが座っていた玉座の裏側に回る。

 その先には絵画が一枚。

 初代教皇の肖像画であろうそれを一定のリズムで回転させると、玉座が沈んだ。


「わーお」

「隠し通路があるんじゃないかとは思ってたけど……こう簡単に出されると引くわ」


 ティッセが呆れたように呟き、ローザンが苦笑を漏らす。

 玉座には一国のトップが座るわけで、対策が施されていないなどありえない。

 だからこそ警備のトップたるオックスに案内を依頼したのだから。


 しかし、国家機密にあたる隠し通路をあっさり見せるなど普通では考えられない。

 しかも今回の仕掛けはいくつもの魔道具を融合させている。

 今回はそれほど緊急事態だとオックスが判断したからこその芸当なのだが。


「私は教会内での根回しを行います! 皆さんは早く向かってください!」

「はい!」


 ローザンの指示に従い、ティッセ、ダイマス、ハリ―、オックスが走りだす。

 隠し通路を十分ほど走ったところで、唐突にティッセが声を上げた。


「そういえば誰かが教会本部の時間を止めたとか言っていませんでしたっけ!?」

「ああ……」


 ローザンとスラダム、ティッセとオックスがそれぞれ戦う直前のことである。

 確かにそのような発言をしていた者がいた。


「確かにあの時点では本部内の時間は止まっていましたが、すぐに解除されました」

「何でだよ」

「ローザン様、そしてティッセ殿が勝利したからですよ。我々は敗北者ですからね」

「そしてそれが見事に裏目に出たと」


 ダイマスがピシャリと言いきった。

 今も本部の時間が止まっていれば、少なくとも隠し通路を走ってはいなかった。

 体力を消耗することもなかったのである。


「本当だよ」

「ちょっと待ってください。誰が今の状況を予想できたんですか」


 思わず同意するティッセに対して、ハリーが呆れ気味に突っ込む。

 確かに、あの時点でイリナたちが窮地に陥っていると分かっていた人はいない。

 原因はワープしてすぐにクーデターを起こしたからなのだが。


「誰も出来なかっただろうね」

「はぁ……教会に乗り込んだときから予想外続きだよな。最初は皇妃なんかが来て」

「ローザンの変装だったけど」

「教会の地下には迷宮が広がっていて、途中で三方向に分かれていたんだもんな」

「だからイリナたちとはぐれたんだよ」


 さらに言えば、あそこで三グループに分かれたから面倒になっているのだが。

 最初から全員で行動していれば、こんなことにはならなかった。


 隠し通路を抜けると、一つの建物を多数の聖騎士たちが囲んでいるのが見えた。

 見たところ奴隷はいないようだが……土壇場で計画を変更したのか。

 ここで元騎士団長のハリーが声を張り上げる。


「建物を囲んでいる聖騎士はその場を即刻離れよ! これは教皇猊下の命令だ!」

「………?」


 多数の聖騎士は不思議そうに首を捻るだけで、その場から動こうとしない。

 するとティッセが何かに気づいたかのように叫ぶ。


「この建物の下にみんながいるぞ!」

「分かった。とりあえずこの聖騎士たちを何とかしないと、助けにもいけない」


 ダイマスが苦い顔をする。

 その様子を見たティッセは息を吸い込むと、まるで指揮官のような口調で叫ぶ。


「どうした!? 教会最強の戦力たる聖騎士が教皇猊下の命令に従えないのか!?」

「お待ちください。その者たちは【幻術】をかけられているんです」


 建物から数人の聖騎士たちが出てきた。

 その言葉に辺りを見回すと、建物を囲んでいる聖騎士は仲間にも反応がなかった。


「【幻術】だと……? 誰か光魔法の使い手はいないのか」

「残念ながら」


 光魔法の使い手がいれば浄化魔法で【幻術】を解いてあげられるのだが……。

 ここは仲間たちに頼るしかないな、とティッセは思う。

 地下にイリナたちの反応があることを確かめ、ティッセは一人の聖騎士を呼んだ。


「それなら地下にいるアリア=グリードとヒナタ=パールを呼んできてくれないか」

「はぁ……」


 聖騎士が気のない返事をしたところで、複数の反応が上がってくるのを感じた。

 先頭はティッセが知らない気配――ヒナタだ。

 続いてアリア、べネック団長、イリナが地下から上がってくるのを捕らえる。


 ティッセが安堵したところで、険しい顔をしたアリアがさっと腕を左右に振る。

 たったそれだけで様子のおかしかった聖騎士が、みすぼらしい奴隷に変化した。


「なっ!?」

「イリナ、べネック団長。ご無事で何よりです。それよりも予想以上に厄介ですね」


 ティッセが驚愕に目を見開き、戸口近くにいたダイマスがいち早く気づく。


「ダイマス、どういうことだ?」

「べネック団長は気づきましたか。さすがですね。分かりました。全てを話します」


 ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと一日と十七時間。

 これでようやく、教会との戦いは終盤を迎えることになる。


少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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