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『第八十二話 裏切りと囚われの姉妹④~教皇になるという覚悟~』

 今回のクーデターの主犯ローザンと、教皇のスラダムがフィールドに入った。

 ローザンにとってスラダムは祖父だが、世間一般の祖父像とはかけ離れている。


 孫に甘い祖父など存在せず、ただただ厳しい祖父がローザンの目には映っていた。

 ローザンがそう思うようにスラダムが印象操作をしている部分もあるのだが。


「さて……このようなことを起こすということは、覚悟が出来たのか?」

「ええ。もちろん綺麗事だけでは教皇なんて務まらない。そのことも分かってます」


 ローザンは冷静に言う。


 人身売買をネタにしてスラダムを脅したローザンだったが、イルマス教国の財政が悪化の一途を辿っていることは把握していた。


 逆に言えば、人身売買に手を出さないと国の財政は破綻するということだ。

 国の財政はそこまで追い込まれているのである。


 ローザンが管轄していたヘルシミ王国でもそれは同様で、彼女は冒険者ギルドと協力関係を作ることで財政の問題を乗り切っていた。


 簡単に言ってしまえば、魔物の氾濫を魔道具でわざと起こし、それを冒険者ギルドに提供する代わりに金銭を受け取る。


 適度に狩場を提供しているという言い方も出来るであろう。


 これにより、教会は魔物の氾濫を起こす魔道具を作るだけで財政難を乗り切れ、冒険者ギルドも依頼が一つもないという状態を無くしているのである。


 一見すると冒険者ギルドに利益がないように思えるかもしれない。

 氾濫した魔物の素材を買いとる際にも金銭を払うし、教会に対しても同様だ。


 しかし魔物の氾濫によって得られる素材は高値で売れるため、一応は冒険者ギルドにも利益は存在しているのである。


 もっとも、アマ村のように魔物の氾濫を起こされてしまった場所からすれば、たまったものではないのだが。


「それならば言うことはない。残りは武で上回れるかどうかだな」

「――っ!」


 ついに来た、とローザンは身構える。


 実はローザンは過去に三回ほど同様のクーデターを起こしたことがあるのだが、いずれもスラダムに叩きのめされては、「まだまだ甘いな。訓練不足なんじゃないのか?」などという屈辱的な言葉をかけられており、彼女にとっては一種の鬼門になっていた。


 寝る間も惜しんで磨き上げた剣術では圧倒され、自信がある魔法勝負でも自分の威力をあっさりと上回ってくる【ホーリーライト】に何度苦しめられたことか。


 しかし今回のローザンは一味違う。


【双璧】と【模倣】を最大限に使いこなすべく、多くの人と触れ合って有能な能力を得てきたのだから。


「具現化せよ、【聖剣】!」

「私の能力を模倣したか。面白い……具現化せよ、【聖剣】!」


 聖剣を呼び出すことが出来る能力――【聖剣召喚】。

 かつての教皇が代々受け継ぎ、今はスラダムが保持している能力である。


 もし、彼女たちの勝負を見た人がいたならば、二つの聖剣が織りなす神々しさや美しさに言葉を失ったことであろう。


 しかし、特殊なフィールドにいる二人の聖剣勝負を見ることが出来る人物は、残念ながら誰一人としていなかった。


 しばらく両者がともに睨み合う時間が続いたが、このままでは埒があかないとローザンが動く。


「聖剣術の弐、【光の舞】」

「そんな小手先の技で私に勝てると思っておるのか? 聖剣術の肆、【閃光乱舞】」


 ローザンの技の完全上位版を出したスラダムは、一気に距離を詰めて剣を一閃。


 目を見開いたローザンは打てる手がなく、そのまま聖剣の餌食に……なるはずもなかった。


「なっ!?」

「【蜃気楼】……相手に幻覚を見せる能力です。さて、本物の私はどれでしょう?」


 スラダムが顔を上げると、ローザンが自分の周りを囲むように立っていた。

 どれも彼女のように思えるが、一人を除いた残りはすべてローザンが作った幻覚。


 分身を作る【分身術】と似ているが、明確に違う点は“その場にいるか”だ。


【分身術】の場合は実際にそこにいるため、明らかに“斬った”感触が残るし、剣はその場で止まる。


 しかし、【蜃気楼】は実際には存在しないため、下手に斬りつけると剣が地面に突き刺さり、甚大な隙を晒すことになるので迂闊に動くことが出来ない。


 スラダムは小さく舌打ちをすると、自分の背後にいるローザンに剣を振るった。


 ――偽物。


 剣はローザンをすり抜け、隣のローザンの肩に触れるギリギリの位置で静止する。

 いや、静止させられた。


「聖剣術の参、【舞い散る光】!」

「ちっ、【防御】の能力がバレるなんて……べネック団長も楽じゃないんだな……」


 ローザンは咄嗟に転がることで大技を回避した。

 しかし、彼女がブツブツと呟いている間にも、スラダムが放った光攻撃は続く。


「ああ、鬱陶しい! 【闇の幕】、【宵闇の帳】!」

「精霊よ、我の求めに応じて聖なる光を放て、【ホーリー・ライト】!」


 前者の能力によってローザンの体が闇に包まれ、後者の能力によってフィールドに濃い闇の魔力が充満し始めた。


 ローザンは光の攻撃を濃い闇で包んで相殺し、続いて闇に紛れることで態勢を立て直そうとしたのだ。


 果たしてその目標は達成される。


 スラダムが闇の魔法を消滅させる魔法を放ったときには、ローザンは手放したはずの聖剣を再び構えていたのだから。


 そして勝負は後半戦に突入する。


「神のご意見を聞いてみましょう。【神の加護】!」

「ヘルシミ王国第二王子の能力だな。どこかで聞いたことがある能力ばかりだ」

「それはどうですかね?」


 ローザンはわざと怪しげに笑い、先ほどまでとは一線を画した剣技を披露した。

【神の加護】は教会関係者が使うと恐ろしいまでの相乗効果を生み出す。


 原因は不明だが、代々聖女を生み出しているピック家の令嬢と【神の加護】は相性抜群であり、今までとは打って変わってスラダムを追い詰めていた。


「ぬ……マズいな」

「やっと焦ってくれましたね。お爺様。鍛錬が甘くなっていたのではないですか?」


 ローザンがニヤリと笑ってみせる。


 実は【神の加護】はスラダムの焦り声が聞こえたときに切っていたが、それでもなお優勢なのは、彼女の努力が実った瞬間に他ならない。


 スラダムもしばらくして能力が切られていることに気づいたのか、怒りで赤くなっていた顔が一転して穏やかになる。


「見事だ。ローザン=ピック。今からそなたが教皇だ……」


 それだけ言って、スラダムはフィールドから消滅する。

 ローザン=ピックが教皇として認められたのは、初挑戦から五年後のことだった。

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