『第七十九話 裏切りと囚われの姉妹②~ローザンの真意~』
クーデター。
仮にも教会の人間とは思えない発言に、全員の顔が強張る。
「どういうこと?」
「言っているでしょ? 私はイルマス教国を掃除したいの」
ローザンは乾いた笑みとともにそう言った。
扉に化けていた彼女からとある質問をされたときから、俺は薄々感づいていた。
――ローザン=ピックは教会に恨みがあると。
「そうか。少なくとも俺は協力しよう。幼馴染みの頼みとあらば、協力は惜しまん」
「なっ……!」
ダイマスが驚いたように目を大きく見開き、俺に詰め寄ってきた。
しかし、どれだけ諭されようとも決意は変わらない。
『答えはYES。すべて公表するつもりだ』とローザンに宣言したあの時よりも。
二年も前からずっと。
俺は教会にいつか復讐してやると、怒りの炎を一人で燃やし続けていたのだから。
きっと妹のハルですら、俺の復讐心には微塵も気づいていないだろう。
考えてみれば、当時から指揮能力はあったのかもしれない。
冒険者になる一ヶ月ほど前に、義理の父親の死を完全に隠してしまったのだから。
「どうして!」
「悪いな。詳しいことは話したくないが……俺も教会に傷つけられた人間の一人だ」
「そんな……」
ダイマスがその場で頭を抱えた。
彼としては、過去に自分の国を陥れようとした人物に協力したくないのも分かる。
だったら別行動を取るまでだ。
俺は絶対に復讐を果たすと、教会の権力で殺された義父の亡骸の前で誓ったから。
「それに、俺が冒険者になった理由も教会だ」
「Sランクよりも上……SSランク冒険者になると聖都イルマに招待してくれるのよ」
ローザンが補足してくれた。
教会はSSランク冒険者を聖騎士にスカウトしようと、躍起になっていると聞く。
だったらそれを使わない手はないと思った。
まあ、ハンル=ブルーダルの手によってSSランク冒険者になる夢は潰えたが。
教会関係者が裏から糸を引いているクーデターなんて最っ高じゃないか。
内通者がいれば、クーデターの成功率は倍以上に跳ね上がるからな。
クーデターが成功すれば……義父を惨殺しやがった奴に、この手で引導を渡せる。
この時をどれほど待ち望んでいたかっ!
「あなたならそう言ってくれると思っていたわ」
「ローザン=ピック大司教。計画を全て話してくれ。地下から異様な気配がする」
使えるようになった【気配察知】に、今まではなかった気配が突然かかった。
まるでヒーローのような、神々しい気配が。
普段なら諸手を上げて喜ぶところだが、今の状況ではむしろ邪魔でしかない。
むしろ今すぐにでも去ってほしいくらいだ。
もうすぐ、神々しい気配の奴を連れたイリナとべネック団長が交流するだろう。
全てを片付けたイリナたちが計画に気づく前に、さっさと計画を詰めないと。
「分かったわ。目的は現教皇のスラダム=マクマホンから教皇の椅子を奪うこと」
「その後釜にローザン=ピックが就くこと、だな」
せっかく教皇を放逐しても、教皇派が後を継いでしまったら、掃除など出来ない。
つまりローザン本人が教皇の座に就く必要があるだろう。
「それだけじゃない。教皇の退任をク―デターのせいだと気づかせない方がいい」
「ああ。反逆者をトップにつけたい奴などいないだろうしな」
横から挟まれた声に驚く。
思わず振り返ると、どこか達観した表情のダイマスとハリーが椅子に座っていた。
リーデン帝国の元宰相と、情報操作に長けた元第四騎士団長が協力してくれるのならば、さらにクーデターの成功率が跳ね上がる。
「その点は大丈夫です。私は一応“教皇の孫”っていう立場なので」
「はっ……? 現教皇の家名は“マクマホン”じゃなかった? あれは偽りなの?」
ダイマスの声がわずかに低められる。
一方のローザンは、その質問を予想していたかのようにスムーズに答える。
「いいえ、違うわよ。マクマホンはあくまで教皇の家名よ」
元々の名前が何であれ、教皇となったら家名はマクマホンになってしまうのよ。
そう続けたローザンの表情はどこか苦しそうだった。
「どうしたんだ?」
「い、いえ……それよりも別ルートにワープ装置があります。それさえあれば……」
ローザンがそこまで言ったところで、ガコンという妙な音が地下からした。
慌てて【気配察知】で探ってみると、イリナたちの気配が消えていることに気づく。
代わりに何百という気配が近づいてきているのも。
「ワープ装置が押された!?」
「マスナン司教、急いで起きてください! あなたがいなければ計画が!」
用心のためか剣を抜くハリーと、自分が眠らせたマスナン司教を起こすローザン。
資料室は混沌を極めていた。
「マスナン司教、お帰りなさいませ! スラダム教皇がお待ちですので、教皇室へ」
「ああ、しばし待て」
野太い声とともに、俺たちの前にマスナン司教――に化けたローザンが立った。
相変わらずの完成度に言葉も出ない。
「あと三分だけ待て。必ずお前たちに不利益はないと約束しよう」
「はっ、承知いたしました」
閉じられた扉の向こうから、先ほどより落ち着いた声が聞こえてきた。
ローザンはその返事を聞いた途端に、【模倣】の能力を解いて少女の姿に戻る。
「あーっ! 何なのあの体! 動きにくいったらありゃしないし、疲れるし!」
「ローザン、落ち着け」
万が一にも扉の向こうにいる奴らには、俺たちの声を聞かれるわけにはいかない。
求めるのは完璧なクーデター。
当事者以外、誰にも知られることのないクーデターだ。
「さっさと始めるぞ。猶予は三分しかない。完璧なクーデターを」
「ああ」
「はい」
「……分かった」
俺が号令をかけると、ハリー、ローザン、少し遅れてダイマスが声を発した。
ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと一日と二十時間。
俺たちは最終決戦に向けて動き始めた。
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