表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/151

『第七十八話 裏切りと囚われの姉妹①~因縁の過去~』

ティッセたちがまだダンジョンにいる時の事。


「ああ。確かに奴隷を買ったよ。獣人の奴隷だったかな?」

「あなたとも会ったわ。あの時は死んだような目をしていたから印象に残ってるの」


 ダイマスとローザンが目を合わせる。

 俺は謁見のたびにダイマスと顔を合わせていたが、獣人の姿など見ていない。

 それどころか城内で人族以外の姿を見たことがない。


 ダイマスが購入した奴隷はどこにいったのかと思っていると、ローザンが嗤う。

 ねっとりとした笑みに全員が背筋を凍らせた。

 無意識に一歩退く俺たちを視界に入れながら、ローザンの顔が険しくなる。


「“皇帝の操り人形”……第二皇子、ダイマス=リーデン。あなたのせいで私はっ!」

「“無表情の聖女”……ピック家長女、ローザン=ピックは聖女の地位を失った」


 ダイマスの言葉に全員が息を呑む。

 俺たちのような当事者以外の共通認識は、ローザンより妹の方が優秀だったから。

 現聖女、ロマネス=ピックの前代の聖女は教会によって秘匿されていると聞いた。


 もし、その前代の聖女がローザン=ピックならば。

 そしてローザン=ピックから聖女の地位を奪ったのがダイマスだとしたら。


「すべての原因は獣人の奴隷……?」


 俺の呟きに、今まで飄々としていたダイマスが目を大きく見開いた。

 教会の指導者である教皇の立場で考えてみると、この状況が説明できてしまう。

 ローザンは真っ赤な顔で感情を吐き出した。


「ええ、そうよ! 獣人の奴隷はリーデン帝国を崩すための布石だったの!」

「そして、それを見破ったのが僕だ」


 ダイマスが冷静な口調で付け加える。

 その言葉で、今まで起きたすべての出来事が一本の線に繋がった。


「だから何だっていうんだ?」

「それは俺から説明しましょう。すべて分かりました。ローザンが何をしたいかも」

「なっ!?」


 ローザンが険しい声を上げた。

 その声からは少しの拒絶も垣間見えていて、俺は密かにため息をつく。


「まず、イルマス教の教皇はリーデン帝国の皇帝から奴隷の依頼を受けます。しかし自国の奴隷市場は“皇太子”によって次々と潰されていました」


 当時、民に認められるために、何とか実績を作りたいと思っていた皇太子、オリバー=リーデンは、国民を攫っていた奴隷商を次々と潰していた。


 そのため、皇帝は奴隷を自国の商人から購入するわけにはいかなかったのだ。


「そこで皇帝はイルマス教の教皇に目をつけて、接触してきた」


 これがローザンの悲劇の始まりなのだ。

 なぜなら……。


「皇帝から注文を受けた教皇は獣人の奴隷を見繕った。そして彼には重大な任務が課せられた。“リーデン帝国の様子を探れ”と。そして奴隷を受け渡す役を請け負ったローザンにも“奴隷を何としてでも送り込め”という任務が課せられた」


 イルマス教国は、国力が大きいリーデン帝国を警戒していたのだ。

 そして同時に、どうにかして落とせないかと画策もしていた。


 教皇が出した結論は、奴隷に城内の様子を把握させ、報告させようというもの。

 一度失った信頼は簡単には取り戻せない。

 スパイを送り込み続けるためには、万が一にも見破られるわけにはいかなかった。


 しかしローザンは失敗してしまう。

 受け取りに現れた第二皇子、ダイマス=リーデンにすべてを見破られて。


「その奴隷は【通信】という能力を持っていた。恐らくローザンの様子を把握するためだろうが、常に通信が繋がっている状態だったから、不自然に魔力が流れていた」

「そして【支配者の分析】ですべてを見抜かれて……奴隷は受け取りを拒否された」


 ダイマスとローザンはそう言って、お互いに俯く。

 失敗したローザンは教皇の怒りを買ったが、罰は大司教への降格にとどまった。

 新聖女の姉だということも大きかったのあろう。


「そして本部からヘルシミ王国に左遷されたことで、とある能力を覚醒させた」

「とある能力?」

「【双璧】……二つの能力を同時に使えるうえ、相手から技を盗めるレアスキルだ」


 一般的には二つの能力を同時に使える能力としか言われていない。

 しかし、相手から技を盗めるというのが、とある特徴を持つ彼女の強みとなった。


「ローザンはさらに特殊で、“ダブル”だったんだ」


 ダブルというのは、ごく稀に能力を二つ持っている人物のことである。

 かなり珍しく、俺も能力持ちに会ったのは初めてだ。


「つまりローザンは【双璧】と【模倣】、二つの能力を使えるんだ」


 ここまでならまだいいのだが、彼女の場合はまだまだ秘密がある。

【模倣】は【双璧】とは別に自分が持っている能力のため、【双璧】に干渉しない。


「ローザンがなぜ俺と互角に渡り合えたのか。それは能力を三つ使えるからだ!」

「そうか! 【模倣】で一つ。【双璧】で二つ使えるから、同時に三つ使えるな」


 ハリーが目を見開く。

 普通の人は一つしか使えない能力を三つも使えるのだから、強いに決まっている。

 もちろん【双璧】が技を盗める条件も深く関わっているのだが。


「そして【双璧】は技を盗めるといったが、条件がある。……知っていればいい」

「知っていればいい?」

「ああ、そうだ。その能力がどんな能力なのか。その効果さえ知っていれば使える」


 だから恐ろしいのだ。

【模倣】でその人の能力を使ってしまえば、効果を知ることが出来るから使える。

 ローザンはいくつの能力を扱えるのだろうか。


「例えば【模倣】で俺に化ける。そしてダイマスに触れればダイマスに化けられるようになり、能力を使うことで【支配者の分析】を習得できる。そのままイリナに触れればイリナに化けられるようになって……といったように芋づる式に使える能力が増えるからな」


 俺が一息つくと、ローザンが白い服の裾を摘まみながら呟いた。


「私が使える能力……多分だけど百以上はある」

「はっ!?」


 ダイマスが素っ頓狂な声を上げる。

 慌てるダイマスの様子を見たローザンがニヤリと笑い、ソファーに腰を下ろした。


「やっと君を驚かせられたか。ずっとこの日を待ってた」

「くそっ……それでお前の目的は何だ? お前がここに僕たちを運んだんだろ」


 ダイマスが鋭い視線を向ける。

 ローザンは躊躇うように視線を彷徨わせていたが、やがて大きなため息をついた。


「私はイルマス教国を掃除したいの。腐りきったあの国を」

「腐りきった……? 確かに奴隷を売買している時点で良い国ではないだろうが」

「アマ村の魔力溜まりも教会の仕業だしな」


 ハリーとダイマスの言葉に頷きながら、ついにローザンが本来の目的を口に出す。

 全員が口を噤んで、彼女の言葉に耳を傾けた。


「まどろっこしい言い方は好きじゃないから単刀直入にいうわ。私はクーデターを起こしたいのよ」


 ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと一日と二十時間。

 現教皇の孫の言葉に、部屋内にいる全員が固まった。


少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ