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『第七十七話 奴隷を救助せよ』

「ダイマス、何をしているんだ!? まずはこいつらを助けないと!」


 俺は建物の一階部分で会話をしているダイマスたちに向かって、思いっきり声を張る。

 まるで意味が分からない。


【気配察知】でここまで来てみれば、多くの聖騎士が宿らしき建物を囲んでいるし。

 その建物の地下にイリナたちの気配があったし。

 それ以外にも百人くらいの気配が地下から感じられて、思わず能力を切ってしまった。


「【幻術】……オロバスとかいう奴の能力か」


 アリアが光魔法で聖騎士たちを照らすと、綺麗な鎧を着ていた聖騎士が、たちまちボロ服を着た奴隷たちの姿に変わってしまった。

 しかも容貌や顔つきなどから考えて、重病人の奴隷。

 奴隷としても買い手がつかない者たちを処分してしまおうという腹積もりなのだろう。


 ――忌々しい。


 イルマス教の聖地である聖都イルマは、闇に染まっているとローザンは言った。

 神の教えなどと言ってはいるが、それらはすべて虚構に過ぎない。

 実際は、大陸のどの国よりも貧しい者たちには厳しく、富裕層には優しい場所であると。


 そして……そんな現状を変えたいと。

 危険を承知で皇妃に接触し、彼女に化けてまで俺たちにダンジョンを攻略させた。


「すまない。誰か治癒の能力を持つ者はいないのか!」


 先ほどまで会話をしていた相手、べネック団長とともに駆けつけたダイマスが叫ぶ。

 やがて建物の中から一人の聖騎士が飛び出してきた。


「私が【治癒】を持っています。病人はどこですか……って聞くまでもないですね」


 道路に転がっている病人の奴隷たち。

 彼らを見た瞬間、【治癒】の能力を持つ聖騎士は、一人一人と握手して回った。

 すると今まで苦しそうに呻いていた奴隷たちが穏やかな呼吸を取り戻していく。

 まるで聖女が来たかのような光景だと思ってしまった。

 治療に当たっている聖騎士は男だけど。


「ちょっと! 誰よ、あなた!」


 突然の叫び声に振り返ると、奴隷たちが囲んでいた建物の向かいの建物から白い服を着た少女が現れた。

 どことなくローザンに似ている彼女は、奴隷たちを見下ろして不機嫌そうに口を開く。


「こんな奴ら、ほっとけばいいのよ。教会の慈悲を与えてもらうだけの愚か者が」

「まったくですな」

「教会の財政は火の車だというのに、当たり前のように慈悲を望む愚か者には死を」


 少女の言葉に合わせて、護衛の人だろうか。三人の聖騎士の声が重なる。


「あなたたちこそ誰です!? 我がリーデン帝国を愚弄する気ですか!?」


 反論しようと立ち上がったところで、別の声が割り込んできた。

 アリアにどことなく似ている女が俺の前に立ちふさがり、険しい口調で彼女たちを睨む。

 彼女がリーデン帝国元第三騎士団長のヒナタ=パールだろうか。

 その声に触発されたようにハリーも横に並んだ。


「我が名はハリー=オスカル。リーデン帝国の()()()()()()です。あなたは誰ですか?」

「――っ。私はロマネス=ピック。聖女ですわ。数々の無礼、失礼いたしました」


 リーデン帝国と協力関係にあることは知っているのだろうか。

 ロマネス聖女は取り繕うような笑みを浮かべ、見事な一礼をしてみせた。


「リーデン帝国()()()()()()のヒナタ=パールです。こちらこそ失礼いたしました」


 ヒナタが優雅な一礼をすると、ロマネス聖女が険しい顔になった。

 そして護衛の聖騎士に特大の爆弾を投下する。


「そういえばリーデン帝国の騎士団長って変わったんじゃなかったかしら?」

「ええ。どこかは変わったはずです」


 護衛の聖騎士の返答に、ヒナタとハリーは笑みが見事に引き攣っていた。

 騎士団長が変化した結果、国を追われたのが目の前に立っている二人なのだから。

 このままでは危険だと感じた俺は、ハリーの手を少し強引に引っ張った。


()()()()()()()()のティッセです。ロマネス聖女、教会本部にと伝言を預かっています」

「あら? 今日は民の様子を見ると言っておいたはずなのに。どなたからの伝言ですか?」

「イルマス教の教皇様からのご伝言でございます。あなたに話があるからと」

「分かりました。ありがとうございます」


 ロマネス聖女は、ローザンと似た笑みを浮かべてお礼を言うと、教会本部を見上げた。

 しかしその瞳は浮かべている笑顔とは不釣り合いなほど暗くて。

 まるで教会に不信感を抱いているかのように感じられた。


「また姉の件かしら。本当にどうして思い通りにならないのよっ! 私はただ……」


 そこまで呟いたところで、俺たちの存在を思い出したのだろう。

 端正な顔を歪めて、足早に教会本部へと歩いていった。


 ロマネス聖女を見送った俺たちは奴隷たちが転がっている方に目を向け、そして驚く。

 なんと奴隷たちが歓喜に打ち震えていたのだ。

 地面には効力を失った首輪が転がっており、解放されたのだと一目で分かる。

 でも……誰が?


「おいティッセ、この状況は何だ!?」

「べネック団長、状況を尋ねたいのはこちらです。どうして奴隷が解放されたのですか?」

「知るか。突然首輪が一斉に外れたんだ。聖騎士の隊長の話では、教会の上層部の人間しか外せないように設定されていたらしいのだが……どうして解放されたんだか」

「まさか……!」


 俺の頭の中には一人の人物が浮かび上がっていた。

 俺だけではなく、ヒナタさんとハリーの頭の中にも同じ人物が浮かび上がっているはずだ。


 聖女、ロマネス=ピック。


 俺たちの力を借りて“教皇”に就任した彼女の妹が、奴隷たちを解放したのだとしたら。


 去り際の暗い目。

 初対面で奴隷に向かって放たれた言葉と、目の前で起こっている現実との乖離。

 そして“明らかに不自然な質問”。


 これらの証拠が示す答えは……。


 ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと一日と十七時間。

 ティッセたちは真実に一歩近づく。


少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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