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『第七十四話 聖都イルマと心理戦(Ⅰ)~イリナ視点~』

 この部屋には窓がないので、外の様子は分からない。

 しかし、勇者は何らかの異変を感じ取ったようで、辺りをせわしなく見回している。


「この気配……聖都イルマか」

「あら、さすが勇者マンドね。確かにここはイルマス教国の中心地、聖都イルマですわ」


 目の前の女が薄く笑ったのと同時に、白銀の鎧を着た騎士が私たちを囲んだ。

 こいつらは教会が誇る精鋭部隊――聖騎士か!


「あなたたちは敵地に入り込んだのよ。自ら破滅のスイッチを押すなんて……バカね」


 女の顔にはもう笑みは浮かんでいなかった。

 無表情のまま、自分の周りに聖騎士を侍らせた女は冷たい声で指示を飛ばす。


「やりなさい。決して殺さぬように。生かしたまま、神の御威光を知らしめるのですよ!」

「はっ!」


 緑のスカーフを首に巻いた聖騎士が大げさな態度で頷き、周りの聖騎士を睨みつけた。

 その姿はまさに生粋の指揮官。

 ビッグシャドウベアー・ネオとの戦いで指揮を執ったティッセに似た雰囲気を感じる。


「お前たち! 今のお言葉を聞いたなっ!」

「はっ、ご意向のままに」

「「「「ご意向のままにっ!」」」」


 何人もの聖騎士が、自分たちを鼓舞するように大声を出した。

 緑のスカーフを巻いた聖騎士は満足げに大きく頷いたかと思うと、次の瞬間には剣を抜く。

 きっと手入れを欠かさずに行っているのだろう。

 刃は鋭く、同じ騎士の目線で見ても高価な一振りであろうことは想像に難くない。


「状況開始っ!」


 野太い声が響くと、半分ほどの聖騎士が徒党を組んでこちらに突撃してきた。

 残りの半数は杖を構えてその場に構えている。

 最初に動いたのはアリアだった。


「まったく……この程度で教会最強の戦力を名乗るなど、恥を知りなさい」


 普段の彼女からは考えられないほど冷たい声で言い放ち、杖も構えずにステップを踏む。

 その姿はまるで巫女のようだった。

 正体は【精霊使い】の能力持ちだけが使える特殊能力。


 しかし、リーデン十二家に名を連ねるパール家の令嬢が使うと、それは全く異なる意味を持つ。

 ――すなわち略奪。

 たったの十秒ほどで、魔術師たちはことごとく精霊をアリアに奪われてしまった。


「魔法部隊、何をしているのです!?」

「【精霊使い】です! しかも金髪に水色の瞳ですから、あの『精霊使いの女帝』ですよ!」


 魔法部隊と呼ばれた部隊の責任者だろう男性が顔を歪ませる。

『精霊使いの女帝』の名前は、リーデン帝国では知らない人はいないほど有名だ。


 曰く、「百の精霊を使役し、その全てを自由自在に操ることが出来る」。

 曰く、「十秒で五十の精霊が彼女に奪い取られた」。

 曰く、「精霊使いの女帝は金髪に水色の瞳を持つ少女である」。


 彼女の正体については、魔法学院の依頼を受けた学者が血眼になって探したのだが。

 なぜか容姿以外の情報を掴むことは出来なかった。

 今年の魔術大会でちょうど五連覇を達成した、正体不明の魔術師。


『精霊使いの女帝』は闇魔法で自身の姿を闇の仮面に包んでいたことでも知られる。

 そんな有名人が……自分の義妹だって!?


「ちっ、厄介な奴が紛れ込んでいたもんだね!」

「それよりも指示を出してくださいよ。どこからか復活した勇者にボコボコにされてます」


 勇者に吹っ飛ばされて、ボロボロになった聖騎士が女に苦言を呈した。

 私たち前衛組、正確にはほとんど勇者マンドの手によって七割の聖騎士が戦闘不能状態。

 残りの三割もアリアの魔法によって続々と刈られていく。

 女は目の前で繰り広げられている惨劇にようやく気付いたのか、素っ頓狂な声を上げた。


「はっ!? 一時撤退よ。これ以上の犠牲は出せないわ。教会本部でケリをつけるわよ」

「なっ……聖都を見捨てるというのですか!」

「本部で神のご意向を伺います。本部が敵の手に渡ることなどあってはなりません!」


 女は緑のスカーフを巻いた聖騎士を一喝すると、服のポケットから石を取り出した。

 その石を聖騎士に投げた女は、背中から青い翼を出して飛び出す。


「エイミー神官長!? ちっ……どこまでもワンマンな奴だ」

「オックス聖騎士長、既に八割が戦闘不能! 撤退の指示をお願いします!」

「何だと……。よし撤退だ。聖都の防衛は区画Aから区画Dまでの奴らにやらせておけ」


 緑のスカーフを巻いた聖騎士――オックス聖騎士長はそう言って石を天に掲げた。

 その瞬間、光に包まれてオックス聖騎士長と数名の兵士が部屋から消える。


「予想はしてたけど、それ以上の腐りっぷりね。まさか仲間を見殺しにするとは思わなかったわ」

「しかしどうすればいいのかな。こいつらが私たち側に寝返ってくれる保証もないでしょ?」


 顔を歪めたアリアがヒナタに問いかける。

 出口が分からないので放置するわけにもいかず、かといって無策で起こすのも危険。

 はっきり言って、厄介極まりない存在になっていたのだ。


 その時、視界の端で誰かが動いた。

 思わず振り向いた私の視界に映ったのは、黒いローブに黒い仮面をかぶった女の姿。

 対外的な『精霊使いの女帝』、もといアリアの姿だった。


 ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと一日と二十一時間。

 魔術大会五連覇の女帝がイリナの前に現れる。


少しでも面白いと思ってくださったら。

また、連載頑張れ!と思ってくださったら、ぜひ感想や評価をお願いします!

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