『第七十三話 ダンジョン攻略戦in教会(Ⅻ)~イリナ視点~』
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スケルトンドラゴンを倒した部屋から、隠し階段を見つけた私たちは地下に降りる。
すると目の前では、べネック団長が銀髪の女に殺されそうになっていた。
「べネック団長!?」
私の後ろから降りてきたアリアが魔法を放つと、女は舌打ちをして素早く後退。
戦いには慣れているみたい。
ヒナタとかいう元騎士団長は女に向けて剣を構えつつ、アリアを手招きして近づけた。
「ここは私たちで倒すから。イリナはべネックさんの介抱を」
「分かったわ」
正直に言って、実姉であるアイツよりも私と過ごしていた時間の方が長いわけで。
だからか、彼女に対して妙な嫉妬を感じるときがある。
いや……今はべネック団長が先だ。
アリアも心配だが、本から呼び出した勇者もいるし、ひとまずは大丈夫だろう。
頭から余計なことを追い出し、床に横たわったままのべネック団長に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「ああ、すまない。神官長が意外に強くてな……自分の訓練不足を実感したよ」
べネック団長が覇気のない口調でそう言う。
しかし、彼女と同じ剣士である私には、べネック団長の真の気持ちに気づいてしまった。
「もしかして……ソロの戦いで弱くなっていたんじゃないでしょうか」
「――っ!?」
べネック団長が目を大きく見開く。
かつて【緑の剣姫】などという異名を取った私だったが、段々と一人では勝てなくなった。
それは、共に戦う仲間が出来たからだった。
体が無意識に連携状態で、自分一人で決めるという意識が明白になっていたのだ。
一人ではどれだけ待ったところで魔法攻撃はこない。
まるで魔法を避けるときのように態勢を崩せば、上級の剣士はすぐに決めてくる。
剣士に孤高の存在が多いのはそういう意味があるのだ。
そして、それはSランク冒険者だったころのティッセにも通用する。
ギルドマスターが彼を自分直属の部下にしたのは、囲い込みの意味だけではないだろう。
常に孤高の存在にしておくためでもあったはずだ。
魔剣が鈍らないように。彼一人で常に決めきるという意識を植え付けるために。
ギルドマスターはティッセがSランクに昇格するまでは、実に部下思いの人間だったという。
しかし、ティッセがSランクになってからはなぜか粗暴な性格に変化してしまった。
どうしてだろうか。
誰かに操られていたとしか思えない。
そんなことを考えながらべネック団長を治療していると、神官長が地に伏した。
「待ちなさい! 油断するな!」
すると、今まで抜け殻のように俯いていたべネック団長が声を張り上げる。
アリアがしまいかけた杖を再び握ったところで、彼女の後ろに神官長が音もなく現れた。
あれはまさか……【幻覚】!?
「アリア、油断するな!」
勇者が金色の剣を一閃すると、アリアの背にいた神官長は影に沈んだ。
ヒナタが小さく舌打ちする。
「ちっ……どんな魔力量をしているんですか。あれだけの幻覚を見せたのに」
「普通ではありえないな。勇者として現役だったころでも、ここまでの魔力はなかった」
神官長が現役の勇者を凌ぐほどの魔力量を持っているだと?
明らかにおかしい。
彼女は魔力をどこからか供給し続けていて、それを崩さない限り倒せないのだとしたら。
鍵になるのは左の通路の二人じゃないだろうか。
それとも……彼らは別なのだろうか。
「お姉ちゃん、この部屋にある影という影を攻撃して。勇者さんは今のうちに宝箱!」
「分かったわ。陽光式剣術の弐、【光筋】」
「精霊よ、我の求めに応じて風を吹かせろ。【ウィンド】」
アリアの指示に従い、ヒナタが影を照らしつつ、攻撃を打ち込んでいく。
同時に勇者が風魔法で宝箱に近づくと、一気に開いた。
「宝箱の中にはスイッチがあったぞ。どうする嬢ちゃん? 押すか?」
「押して! きっと神官長はどこかからか魔力を供給している。そのスイッチがそれかも」
「それじゃ行くぞ!」
勇者がスイッチを押すと、少し離れたところからガコンという音が聞こえてきた。
こちらの部屋が変化した様子はない。
「今ので魔力の供給装置が切れたんじゃないかしら。あとは全員で攻撃あるのみよ!」
アリアが叫び、手当たり次第に氷魔法を撃ちこんでいく。
しかし、出てくる様子はまるでなかった。
苛立ったアリアが髪を掻きむしりながら氷魔法を乱射しているが、もはやホラーの域だ。
「どうして出てこない!」
「もしかして……神官長が一番倒したい相手のところにいるんじゃないかしら」
私はそう言うと、腰から剣を取り出してべネック団長の影に突き差した。
地面に突き刺さった剣を抜くと、べネック団長の影からボロボロの神官長が出てくる。
「どうして……何で分かったんだよっ!」
「あなたとべネック団長には何かがありそうでしたからね。最初から予想はしてました」
私は素直に言葉のナイフを突きつける。
こういう奴を相手にする際は、余計な小細工をせずに正面から叩きのめすのが効果的だ。
「そうか……私の勝利だな」
「はっ?」
「お前たちはあのスイッチを押したのだろう? あれはワープ装置だ」
「ワープ装置……?」
アリアが首を傾げたとき、勇者が辺りを見回して青い顔をした。
「おい……ここはどこだ?」
ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと二日。
ついにべネック団長とイリナたちが合流したのだが……。
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