『第七十二話 ダンジョン攻略戦in教会(Ⅺ)~ティッセ視点~』
従魔を失ったローザンの代わりに前衛を担当しながら二階層に向かって降りていく。
【気配察知】から察するに、このダンジョンは二階層で終了となるからな。
それは嬉しいのだが、このダンジョンを踏破した奴が未だに現れてないのが不気味だ。
てっきりローザンかと思ったが、彼女は「私じゃない」と首を振っていた。
警戒レベルを最大限に上げながら二階層に降り立つと、明かりがポッと灯る。
「ヒャッ!?」
「松明に明かりがついたんだろう。自動的に明かりがつくなんて……さすがダンジョンだ」
甲高い悲鳴を上げたローザンとは対照的に、ハリーは恐ろしく冷静だ。
明かりをマジマジと観観察している。
「ティッセ……おかしい」
「どうしたんだ? まだ【支配者の分析】は使えないんだろ?」
「まあね。それよりも【気配察知】を使ってみてくれ」
ダイマスの言葉に従って【気配察知】を使おうとすると……胸に鋭い痛みが走った。
「グッ……!?」
「おかしいだろ。今までは使えていたティッセの能力まで封じられている」
まるで何かが能力の発動を阻害しているみたいだ。
しかもこの二階層……まさか正面に見えている扉の奥の部屋しかないのか?
「とりあえず進むぞ。罠に気をつけてな」
「安心しなさい。二階層に罠はないわ。というか……このダンジョンには罠はないわ」
ローザンが呆れたように言って。再び先を進み始める。
俺は小走りでローザンを追い抜くと、剣を構えながら扉の前まで進んで立ち止まった。
「みんな武器の用意を」
「この奥には神官長がいるはずよ。あいつの能力は厄介だから気をつけなさい」
ローザンの言葉に全員が顔を険しくする。
扉に化け、なおかつゴーレムまで操れるローザンに「厄介な能力」と言わしめる相手。
神官長とやらはどんな能力持ちなのだろうか。
「それじゃ三カウントののち開けるぞ。三、二、一、状況開始!」
俺は勢いよく扉を開ける。
扉の先には本棚がたくさん並べられている、書斎のような場所が広がっていた。
部屋の中央には机と椅子がワンセット置かれている。
普段は無人であろうその椅子に、今は一人の男性が目を閉じて座っていた。
「マスナン司教!?」
「マスナン司教が神官長だったのか!?」
「違うわよ。マスナンに皇妃から元の姿に戻るときに騒がれて……面倒だから眠らせただけ。神官長はどこかに出かけているみたいね」
何でもないような口調で言ったローザンが、本棚から一冊の本を取り出す。
本の表紙には何も書かれていないが、一面が真っ黒で不気味な印象を与える本だった。
「何だこれ」
「裏帳簿よ。イルマス教会本部……つまりイルマス教国が管理しているものね」
「どうしてそんなものがダンジョンに……」
ハリーが呻く。
ダンジョンを改造するなんて、このダンジョンを管理している管理者でもないと不可能だ。
つまりダンジョンの管理者は教会ということか。
「ローザン……もしかして君は……」
俺が続きの言葉を口にするよりも早く、ローザンは皇妃の姿に戻って手を二回叩いた。
「私の依頼を忘れたの? さっさと教会の闇を暴いて頂戴」
「はいはい。それじゃちょいと時間を頂くぜ」
「分かった。なるほどな。そういうことか」
ダイマスもローザンの真意に気づいたのか、資料を探しながらも武器は離さない。
実に危機管理能力が優れている。
「ちょっと……なんでお前は能力を使えるんだ? 俺たちは全員使えないのに……」
「ああ、そうそう。私の能力を言ってなかったわね。私の能力は【双璧】よ」
聞いたことがない能力だ。
恐らくは【神の加護】のようなレア能力の一種なのだろう。
「【双璧】……二つの能力を一度に使うことが出来る能力か。レア能力じゃないか」
ダイマスが資料に目を通しながら、揶揄うような口調で言った。
つまりローザンは現在、二つの能力を同時に使用しているということか。
「そしてこの能力で恐ろしいのは、相手に触れると、その人が持つ能力をコピーできるというところにある。似た能力だと同じレアスキルの【目視模倣】なんてものもあるよ。こっちは相手が能力を使っているところを見れば模倣できるとんでもない能力だ」
レア能力はその希少さと引き換えに、とんでもない能力を持っているという。
そういえば、一ヶ月後に十四歳になる妹もレア能力の一つを得ていたんだったか。
何の能力だったかは教えてもらえなかったが。
急にいなくなって混乱しているだろうし、今度ちゃんと手紙を送ってあげないと。
「ねえ、これ!」
そのとき、とある資料を見ていたハリーが声を上げた。
一番彼の近くにいた俺が資料を後ろから覗き込むと、そこには教会が各国に請求した金額が細かく書かれていた。
「随分と高いな。しかしこれだけじゃ不正の証拠って言えないんじゃないか?」
「その問題はこっちで補えそうだよ。教会本部が孤児院を開いているのは知ってるよね」
「ああ。まさか孤児院関係で何かがあったのか?」
「資料によると。孤児院で育った子供のうち、七割が奴隷として奴隷商に売られている」
俺はダイマスの元に駆け寄り、資料を眺める。
資料には、子供のものと思われる身長、体重、健康状態などのデータが書かれていた。
そして七割ほどの子供の名前には赤い線が引かれていた。
まるで死んでしまったかのような……。
「これを突きつければ十分な証拠になるだろうね。探せば購入者リストもあるだろう」
「じゃあ探すぞ。これ以上教会に好き勝手やられてたまるか!」
ハリーが叫び、ダイマスが孤児院の資料を見つけた辺りを重点的に探していく。
俺たちも手伝うと、ものの五分ほどで購入者リストも発見できた。
「うわっ……リーデン帝国の貴族が大半だな。逆にヘルシミ王国はほとんどいない」
「ちょっと待て。お前たち……どういうことだ?」
資料を見つけたハリーが突如として大声を上げ、ローザンの肩がピクリと震えた。
「何よ! 突然ビックリするじゃない!」
「この場所。購入番号三百四十八番、ダイマス=リーデン。そして販売者、ローザン」
ローザンの方は名前しか書いていなかったが、恐らくはローザン=ピックだろう。
つまりこの二人は昔、会っていた?
もちろん俺が幼いことに会っているのだから、ダイマスが会っていてもおかしくないが。
「ああ。確かに奴隷を買ったよ。獣人の奴隷だったかな?」
「ダイマスとも会ったわ。あの時は死んだような目をしていたから印象に残ってるの」
ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと二日と一時間。
ティッセたちは重苦しい空気に包まれていた。
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