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『第七十一話 ダンジョン攻略戦in教会(Ⅹ)~べネックsaid 後編~』

 べネックは剣の先端を突きつけながら、憎き相手の名前を呼ぶ。


「お前はセイレーンなどではなく、今まで使っていた技は【模倣】で再現した技だ。本来の貴様の名はエイミー=ダランド。イルマス教国でシスターを束ねている女だろう?」

「ちっ……」


 べネックの指摘に、セイレーン改めエイミーは歯噛みする。

 彼女が手に持っている剣が、先端に青い石が取り付けられている杖に変化した。

 これがエイミーの本来の武器なのだろう。


「どこで私だと……」

「お前はティッセとイリナの技を使ったが、私が剣を拾った後も残りの二人の技は使おうとしなかった。

 いや……正確にいえば使えなかったんだろう?」


 エイミーはティッセとイリナのところに行って、べネックを密告しろと提案したが、その際にティッセに魔剣を突きつけられてしまった。


 ビッグシャドウベアー・ネオを倒した後のパーティーで二人がべネックに語ったことである。

 当初はダイマスとアリアのところにも行ったものだと思っていたが、剣を拾ったのにかかわらず、近距離戦中心の戦い方を貫いたのは疑問だったのだ。


 剣を持っている人の戦い方は、魔剣士でない限りは近接戦となる。

 もしエイミーがアリアの技も【模倣】できるのならば、遠距離主体に切り替えれば優位に戦えるが、エイミーはそれをしなかった。

 つまりセイレーンの正体は教会関係者で、ティッセとイリナだけに近づいた人物。

 エイミー=ダランドとなるわけだ。


「なるほど。ちなみにあなたは本物のセイレーンに会ったことはあるかしら」

「ないな。お前はあるのか?」

「私はあるわ。目の前でフルフス王国の商船があらぬ方向に舵を切るのを見たわね」

「その時に【模倣】を使ったのか」


 一度【模倣】を行使してしまえば、能力を失うまで好きに使うことが出来る。

【模倣】の能力持ちは各国で重宝される傾向にあるのだが、最大の理由がこれだ。


「しかし……お前がこんなダンジョンの地下にいるとは思わなかった」


 エイミー神官長はイルマス教の重鎮中の重鎮だ。

 ゆえに、セイレーンの偽物を疑った際には真っ先に切り捨ててしまった選択肢でもある。

 そんな女がどうしてこんな辺境のダンジョンにいるのかは分からない。


 しかし、何やら嫌な予感がする。

 べネックは顔を険しくすると、エイミーを睨みつけたまま問いを重ねる。


「お前がどうしてヘルシミ王国にいる? イルマス教国とヘルシミ王国は関係がないだろう」

「それがあるんですよ……教皇のお孫さんがヘルシミ王国支部の責任者ですもの」


 エイミーが優雅に笑う。

 べネックも表面上で笑みを浮かべるが、実際はかなり混乱していた。


 というのも、ここまでべネックたち第三騎士団は、リーデン帝国とイルマス教が手を組んでいるという前提のもとで動いてきたのだ。


 しかし、もし彼女の言っていることが本当ならば、教皇は孫が責任者を務める国に攻めてきていることになってしまう。

 明らかに変だが……あの皇妃も教会がリーデン帝国と手を組んでいると言っていた。


 やっぱり何かがおかしい。


 イルマス教の内部には、まだまだ私たちが知らない“何か”が隠されている。

 べネックはそう結論づけると、目の前にいるエイミーを見つめた。


 彼女は確実にその“何か”を知っているだろうが、これ以上のことは話してくれそうにない。

 自白の効果を持つ闇魔法も今のままでは聞かないし、やはり倒すしかないか。

 べネックはゆっくりと深呼吸をすると、剣を強く握りしめて走り出す。

 エイミーの顔がわずかに歪んだ。


「光の精霊よ、私の求めに応じて光の障壁を作り出せ。【七色の障壁】」

「無駄だな。水遁式剣術の弐、【破断斬】」


 べネックの斬撃と、エイミーの障壁が正面からぶつかり合う。

 しばらくは障壁が健在だったものの、徐々に障壁にヒビが入っていき、完全に割れた。


「――っ!?」

「これで終わりだ。暗黒式剣術の肆、【黒薔薇】」


 ダンジョンの一室に黒い薔薇が咲いた。

 エイミーは胸を押さえながら地に伏し、そのまま立ち上がることはない。


 べネックの勝利――と思われたが。


 地に伏したエイミーの体を探っていたべネックの背中が斬られ、今度はべネックがダンジョンの床に倒れることになってしまった。

 ぼやける視界の端では、息も絶え絶えといった感じのエイミーが剣を握っている。


「どういうことだ……?」

「闇魔法の一種、【幻覚】ですよ。ずっとあなたと戦っていたんですから、あなたの技も【模倣】できるというのを忘れていたのでは?」

「ふざけるな! 私は【幻覚】なんぞ習得していない! 何らかの間違いだ!」


 べネックは剣士として育てられていたため、魔法は最低限しか習得していない。

【幻覚】は扱うのが難しい魔法で、べネックは未だに習得できていなかったのである。


「私のレベルなら扱えるんですよ。あなたのレベルでは確かに無理でしょうけど」

「なるほどな。技もお前のレベルに依存するわけか」


 べネックは転がったままため息をつく。

 大概の魔法を跳ね返せる自信はあったが、自分の闇魔法が仇となるとは思わなかった。


「残念ですがあなたの負けです。べネック=ロマック公爵令嬢」

「今はべネック=シーランだ。シーラン家も公爵だから響きはあまり変わらんが」


 ロマック家はもう没落したのだ。

 風の噂では伯爵家に降格となったとも聞くし、一族郎党が処刑されたとも聞く。

 しかしべネックにとってはどちらでもいいことだった。

 ロマック家が残っていたとしても、戻るつもりは一切ないのだから。


「エイミ=ダンド子爵令嬢。私を殺せ」


 いや、戻れないといったほうが正しいだろうか。

 イルマス教は慈悲に溢れているように見せながら、決して敵を逃しはしない。

 ましてや神官長と戦った者を見逃すなどというのはありえなかった。


「べネック団長!?」


 しかし、生を諦めていたべネックに躊躇いの感情をもたらしたのは一つの声だった。


 ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと二日と四時間。

 べネックに声をかけたのは……。


少しでも面白いと思ってくださったら。

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