『第六十九話 ダンジョン攻略戦in教会(Ⅷ)~ティッセ・ダイマスsaid 後編~』
正体を看破されたローザンは、本来の姿に戻ってから淡い笑みを浮かべた。
「さすがね。ティッセ=レッドス。あの時から魔力量がヤバいとは思っていたけど……」
「……っ!?」
ティッセは珍しく動揺を表に出した。
当事者とべネックしか知らないはずの子供交換の件を、どうしてローザンが知っているのか。
実際にダイマスは目を大きく見開いて、ティッセとローザンを交互に見ている。
これが何も知らない人の一般的な反応だろう。
「あれ……その顔はもしかして忘れてる? ほら君をたびたび世話してあげたじゃん」
「忌々しいことに覚えているよ。確かにお前と似た奴に慰められた記憶がある」
この教会に来る前の馬車で思い出した、ティッセが唯一幼馴染みだと言える少女。
彼女の正体は幼いころのローザン=ピックだったのである。
「それは良かった。じゃあ一つ質問するね。知った真実を公表する気はあるかな?」
「……どういうことだ?」
「推測は出来ているだろうに……君って随分意地悪になったんだね」
ローザンは小さく肩を竦める。
その姿が幼いころに友達だった少女と重なり、ティッセは何ともいえない気持ちになった。
「教会の真実よ。このまま進めば……きっとあなたは驚くでしょうね」
「何を今さら。ここに俺たちを誘導したのもあんたじゃないか」
呆れたようにティッセが呟くと、今度はローザンがあからさまな動揺を見せた。
普段の彼女をよく知る教会の関係者ならば、かなり驚いたことであろう。
いつもは冷静な彼女の顔が思いっきり引き攣っているのだから。
「な、何のことかしら?」
「とぼけるな。まずは御者のシルさんに化け、次は皇妃に化けてアリアを人質に取った」
ティッセは【気配察知】で、皇妃の気配が二階層から消滅していることは確認済みだ。
証拠を掴まれたローザンは歯噛みするしかない。
ティッセは慌てる彼女を冷たい目で見ながら、ローザンの秘密に迫る問いを投げた。
「今の問いに答える代わりに、俺からの質問にも答えてもらうがいいか?」
「いいわよ。それで質問は何?」
「単刀直入に聞くぜ。お前の能力は何だ? 俺は【模倣】だと思っていたが……違うだろう」
【模倣】では、扉に化けながらゴーレムを行使するのは不可能だ。
そのため、彼女の能力は謎に包まれたままである。
単純に気になるのと、相手に化けることが出来る能力は【模倣】しか知らなかったから。
この二つの理由で質問してみたのだが、ローザンはなぜか顔を青ざめさせた。
彼女の瞳の先を追ってみると……ダイマスの背後に一人の男が立っている。
「誰だ!?」
「まさかここにいたんですか……探すこちらの身にもなってくださいよ……」
背後から聞こえてくる声に、ダイマスが勢いよく振り返る。
そして男の顔を確認した途端に固まった。
「お前は……ハリー!?」
「ようやく会えましたね。ダイマス第二皇子。ご無沙汰しております」
ハリーと呼ばれた男が恭しく一礼する。
ティッセとローザンもしばらくして男の素性に気づいたのか、揃って大きな声を上げた。
「「リーデン帝国第四騎士団長!?」」
「“元”がつくがな……。ゴホン。改めましてハリー=オスカルです。よろしくお願いします」
「ヘルシミ王国第三騎士団所属のティッセ=レッバロンです。こちらこそよろしく」
「イルマス教会の大司教、ローザン=ピックでございます。よろしくお願いいたします」
三人が順番に頭を下げあう。
真っ先に頭を上げたハリーは、ローザンの背後に直立するゴーレムを見上げた。
「あれは放置していいのか?」
「大丈夫です。あのゴーレムはローザンが使役しているやつなので」
ティッセが横にいるローザンを手で示すと、ゴーレムが執事顔負けの一礼をした。
背が伸びていて、とても美しい。
ローザンは小さいころから器用な少女だったことまで思い出し、ティッセは内心で呻く。
あの時は……優しかった彼女に惹かれていた。
今は一欠片も魅力を感じないが、あの時と変わらぬまま美人に育ってはいる。
ちなみに、ピック家は聖女を代々出している家系で、ローザンは聖女の筆頭候補だった。
しかし妹のアナ=ピックの魔力の方が強く、聖女の座をアナに奪われてしまう。
その後、自暴自棄になって歩いていると、ちょうどいじめられたばかりのティッセと合った。
ボロボロになったティッセの姿を見たローザンは、知識を総動員して彼を癒したのだ。
もちろん打算など一切ない。
ただ純粋な憐れむ気持ちだけであり、傷ついた人を見かけたから癒しただけなのだが。
ティッセは何か裏があるのではないかと密かに疑っている。
哀れ、ローザン。
「それじゃ、話は逸れたが質問に答えよう。答えはYES。すべて公表するつもりだ」
「安心したわ。昔のまま変わってない」
ローザンは、誰にも聞こえないくらいの声量で呟いた。
ティッセ、ダイマス、ハリーはこのダンジョンを攻略するべく、知恵を練っている。
「ここ以外に扉はないんだよ」
「進むにはゴーレムを倒す必要があるのか……?」
「ローザンは敵判定か?」
自分の話が出たと感じ取ったローザンは、実に心外だという顔で部屋の奥を指で示す。
そこには小さな本棚があった。
「あの本棚の奥が隠し扉になっているの。分かったらさっさとボスを倒しに行くわよ!」
「おい、ちょっと待てって!」
ティッセたちは慌ててローザンの後を追う。
ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと二日と三時間。
ティッセたちはローザンとハリーを仲間にしたのだった。
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