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『第六十六話 ダンジョン攻略戦in教会(Ⅴ)~ティッセ・ダイマスsaid 中編~』

「くそっ……」

「まさかどこを攻撃してもダメージを与えられないなんて……ありえない」


 ティッセとダイマスが疲れたように呟く。

 二人は、未だにゴーレムを倒す算段を立てられずにいた。


 頭、胴体、足に一通り攻撃を当ててはみたものの、ダメージが通った様子はない。

 それどころか、むしろ限界を突破して回復しているようにすら思える。

 ゆえに、ほぼ手詰まり状態であった。


「扉の近くに行くと攻撃してこなくなるのはありがたいが……少しでも踏み出したらこれだ」


 ティッセが一歩踏み出すと、ガトリング砲から魔法が雨のように降り注ぐ。

 すでにティッセの服は水魔法でビショビショだった。


「腕を切り落とそうにも、関節部分に攻撃してもダメージが入らないしね。どうしろと?」


 ダイマスが自嘲めいた笑みを浮かべる。

 彼の【支配者の分析】もボス相手ではまともに使えず、攻撃方法が見つけられない。

 元々の戦闘力も高くないダイマスは、完全に足手まといだった。

 幸いなのは、ペアを組んでいるティッセが強く、彼を足手まといだと思っていないことか。


 しかし、現在のところ有効な一手を与えられていないのも事実である。

 ダイマスはため息をついてから、ゴーレムを観察しはじめた。

【支配者の分析】が使えない現状では、しっかりと観察するくらいしか出来ることはない。

 何度も繰り返すが、ダイマスは戦闘がそこまで得意ではないのだから。


「目は青い宝石か? 随分と綺麗だな……」


 ダイマスが最初に気になったのはゴーレムの目である。

 人の拳ほどの青い宝石だろうか。

 ともすれば冷たい印象を与える一対の青い瞳が、こちらをジッと見つめていた。


 しかし、瞳には攻撃は通らない。

 ビッグシャドウベアー・ネオと同じ要領で倒せないかと思い、試してみたのである。


「胴体の模様も気になるな……。まるで扉のようだ」


 次に目を向けたのは、胴体の模様だ。

 ゴーレムの胴体には複雑な模様が彫られており、扉の模様と非常によく似ていた。

 強力な攻撃を放つときは光るため、攻撃の強弱を見極める指針にもなっている。

 ただし、模様にも攻撃は当たらない。


 ティッセが「模様を壊せば強い攻撃を打てなくなるんじゃ……」と言い。攻撃したのだ。

 結果は空振りに終わったのだが。


「足も妙だ。何かを隠しているような感じがある」


 最後の違和感は足だ。

 つま先に当たる部分は非常に硬く、最後の切り札を隠しているような印象を受ける。

 もちろん攻撃は通らなかった。

 ここだけ防御力が異常に高く、右の通路を進んでいるべネック団長でも貫けないだろう。


「なあダイマス、さっきから目だとか何だとか言っているが、この扉も気になるだろ」

「そういえば……この扉に近づくと攻撃が止まるのは確かにおかしいかも」


 まだ第二皇子だった時代に一度だけダンジョンに潜ったことがあるが、その際に戦ったボスは扉を破壊する勢いで攻撃を放ってきていた。

 その事象に照らし合わせると、扉に近づいただけで攻撃を止めるというのはありえない。

 ティッセも恐らく同じような思考なのだろう。


「でも、扉は閉めることはできないし、ボス部屋から出ることも出来なかったじゃないか」

「外すことも出来なかったしな」


 ティッセとダイマスは、攻撃が通らないと分かると、一度部屋を出て分析をしようと試みたのだが、部屋から出ることは出来なかった。

 扉を外して盾にしようと試みたこともあるが、そもそも扉が外れない。

 そのため二人は、『扉はボスに関係がない』という結論を出していたのだが、ここに来て、再び扉の違和感が浮かび上がってきた。


「胴体の模様も扉と同じだろ? だったら扉に何かの仕掛けがあるんじゃないか?」

「でも、閉めることも外すことも出来ない扉なんてどう使うんだい?」


 ダイマスの問いに、ティッセは押し黙る。

 やがて答えの見えない問題に苛立ったのか、持っていた剣で扉を思いっきり切りつけた。

 ゴンッと言う重々しい音が部屋に轟く。

 二人が勢いよく振り返ると、ゴーレムの胴体に真一文字の傷がついていた。


「はっ!? 誰が攻撃したんだよ!?」

「分かった! 誰かが攻撃したんじゃない。ティッセが攻撃したんだよ!」


 ダイマスが叫ぶ。

 ゴーレムは胴体に傷をつけられて明らかに怒っていたが、攻撃を撃つ気配は見せない。

 この不可解な行動により、ダイマスの思考は現実味を帯びてきた。


「どういうことだ?」

「あいつの体に攻撃を当てても無駄だ。だってあのゴーレムは本体じゃないんだから」

「本体じゃないだと?」


 ティッセが疑問形を乱舞させる。

 先ほどから疑問形でしか言葉を発しないティッセに向けて、ダイマスは指を一本立てた。


「そもそもの疑問点は、“どうして攻撃を当ててもダメージが入らないか”だよね?」

「ああ、そうだな」

「答えは簡単さ。あのゴーレムは本体に操られているだけだからだよ。つまり、ゴーレムに攻撃を当てて

 も本体が即座に回復してしまうから、こちら側から見たら、ダメージが入っていないように見えるだけ。ちゃんとダメージは入っていたんだよ」


 少なくともゴーレムには。

 ティッセは胴体に傷がついたゴーレムを見やり、二つ目の疑問点を口に出す。


「それなら、どうしてゴーレムに傷がついたんだ?」

「ティッセが本体を攻撃したからだよ。ダンジョンが攻略不可能というのは絶対にない。つまり攻略法は必ずどこかにあるはずだ」


 一度言葉を切ったダイマスは、ゴーレムを指で示す。


「このボスの弱点は、本体に当たったダメージが分身であるゴーレムにもいってしまうということ。つまり僕たちは本体とゴーレムに同時にダメージを与えることが出来るんだ」


 攻略法さえ分かってしまえば、なんということはない。

 謎解きのようなものだ。


「ちょっと待て。ゴーレムに傷がつく前に俺が斬ったものといえば……」

「そう。ゴーレムの本体はこの扉だったんだよ。だから僕たちが扉の近くに行くと、ゴーレムが攻撃してこなくなるんだ。さっきも言ったように本体にダメージが入ると、そのダメージはゴーレムにもいってしまう。扉が近くにある状態で僕たちを攻撃すると、自分の攻撃でダメージを受けちゃうでしょう?」


 自爆はゴーレムにとっても、操っている本体にとっても避けたかったはずだ。

 だから扉の近くがセーフティーゾーンになってしまったのだろう。


「なるほど。つまり扉を攻撃すれば……」

「そんなに単純じゃないだろうね。ただの扉がゴーレムなんか操れるものか」


 ダイマスが呆れたように言う。

 すると扉がカタカタと音を立てて動き出し、やがて一人の女性の姿に変わった。


「よく分かったわね。本体は私よ」

「やっぱりあなたですか。イルマス教の大司教……ローザン=ピック!」


 ヘルシミ王国の王都が占領されるまで、あと二日と四時間。

 ティッセとダイマスは、最大の難敵に遭遇したのであった。


少しでも面白いと思ってくださったら。

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